2002年の台北市長選で馬英九氏が64%の票を得てから、2024年に台北市、新北市、基隆市で国民党(青)・民進党(緑)・民衆党(白)が三分する構図になるまで、台湾の有権者には固定的な「基本票」、つまり各党の安定した支持層が存在するのだろうか。2025年の大規模リコール(大罷免)を通じて強まった国民党と民衆党の協力関係は、2026年の統一地方選挙にどう影響するのか。
11月28日投開票の統一地方選挙まで3週間を切る中、国民党が市政を担ってきた台北市、新北市、基隆市では、民進党候補が国民党候補を上回る世論調査も相次いでいる。
ただ、調査によって結果には大きな差がある。台北市では10月中旬の一部調査で、民進党の沈伯洋氏が現職の蒋万安市長を大きく上回った一方、10月31日に実施されたTVBSの調査では、投票意向のある有権者のうち蒋氏46%、沈氏42%と、蒋氏が4ポイント上回った。
新北市では、11月1~2日に実施された鏡新聞の調査で民進党の蘇巧慧氏47.7%、国民党の李四川氏32.8%となり、蘇氏が14.9ポイント上回った。
基隆市では、10月30日~11月1日の調査で国民党の謝国樑氏36.1%、民進党の童子瑋氏35.6%となり、差は0.5ポイントにとどまった。調査の誤差を考えれば、両者はほぼ拮抗している。
特に台北市では、沈氏の支持拡大を「洋流」と呼ぶ表現も使われるようになった。ただ、こうした世論調査の変動だけで、長年「青が緑より強い」とされてきた台北市の政治地図が短期間で塗り替わったと判断できるのだろうか。
この問いに答えるには、台湾の民主化以降の選挙の歴史に立ち返る必要がある。
1996年の初の総統直接選挙から、2002年以降の地方首長選挙に至るまで、台湾では地域ごとに異なる政党支持の構造が形成されてきた。政治学の研究でも、有権者の政党帰属意識には一定の持続性があり、一度の選挙集会や一つの政治的出来事だけで根本から変化するわけではないと考えられている。
一方、過去の得票結果は別の事実も示している。同じ政党が同じ都市で戦っても、候補者や選挙の種類が異なれば、得票率は大きく変わり得る。
馬英九氏の64%から蒋万安氏の42%へ 台北の国民党支持は縮小したのか 2002年の台北市長選では、再選を目指した馬英九氏が64.11%を獲得し、民進党の李応元氏は35.89%だった。両者の差は28.22ポイントに達した。
これは国民党にとって台北市長選の一つのピークであり、李氏の35%台という得票は、台北市における民進党の基礎的な得票水準の目安ともみなされてきた。
この3回の選挙では、国民党の市長候補はいずれも得票率5割を超えており、台北市は長らく国民党が優位な地域とみなされてきた。
ところが2014年、政治地図に明らかな変化が表れた。
馬英九氏は1998年の台北市長選に出馬し、現職だった陳水扁氏を破って当選した。(資料写真、撮影:李玉焜) この年、民進党は無所属の柯文哲氏への対抗候補擁立を見送り、いわゆる「柯・緑協力」の構図となった。国民党の連勝文氏は40.82%にとどまり、柯氏が57.16%で当選した。
2018年になると、民進党は柯氏と袂を分かち、姚文智氏を独自に擁立した。その結果、国民党の丁守中氏が40.82%、柯氏が41.07%、姚氏は17.28%だった。2014年と2018年を比べると、連氏と丁氏の得票率はほぼ同じだった。
2022年には国民党の蒋万安氏が42.29%で当選し、民進党の陳時中氏は31.93%、無所属の黄珊珊氏は25.14%を得た。
この6回の市長選を並べると、国民党の台北市長候補の得票率は2002年の64.11%から2014年には40.82%まで低下し、その後の3回はおおむね41~42%で推移している。
ただし、これは国民党の中核的な支持者が22ポイント分そのまま流出したことを意味するわけではない。2002年の馬氏には現職として再選を目指す個人的な強みがあり、2014年以降は柯文哲氏や黄珊珊氏といった第三勢力の候補が出馬するなど、選挙ごとの競争構図が大きく異なるためだ。
むしろ注目すべきなのは、候補者個人の吸引力が薄れたとき、有権者が従来の政党支持に戻るのかという点だ。
侯友宜氏、新北市長選では62%も総統選では35% 新北市の選挙結果を見ると、候補者要因の大きさがさらに鮮明になる。
2001年の台北県長選では、民進党の蘇貞昌氏が51.31%を得て、国民党系が支持した王建煊氏を破った。2005年には国民党の周錫瑋氏が54.87%で民進党の羅文嘉氏を破り、台北県は再び国民党の県政となった。
2010年に台北県が新北市へ昇格すると、国民党の朱立倫氏が52.61%、民進党の蔡英文氏が47.39%を得た。民進党候補が新北で初めて100万票を超えた選挙でもあった。
2014年には朱氏が50.06%で再選し、民進党の游錫堃氏は48.78%と、両者の差はわずか1.28ポイントだった。
しかし2018年には国民党の侯友宜氏が57.15%を獲得し、民進党の蘇貞昌氏は42.85%だった。2022年に再選を目指した侯氏は62.42%まで得票率を伸ばし、林佳龍氏は37.58%にとどまった。
わずか8年間で、新北市長選における青と緑の差は2014年の1.28ポイントから2022年には24.84ポイントへ広がった。2022年の市長選だけを見れば、新北市は国民党が圧倒的に優位な地域になったように見える。
侯友宜氏は2024年の総統選で、新北市長選の際に得た支持を維持できなかった。(資料写真、撮影:柯承惠) ところが2024年の総統選では、侯氏の新北市での得票率は35.17%だった。
この大きな差は、地方首長候補への個人的な支持、政党帰属意識、総統選での政治的選択が必ずしも一致しないことを示している。
有権者はある地方首長を高く評価しながら、総統選では別の政党を支持することがある。逆に、長年ある政党を支持していても、地方選挙では候補者を理由に別の選択をすることもある。
したがって、新北市における青と緑の固定支持層を考える際、侯氏が2022年にどれだけ票を得たかだけでは判断できない。
基隆は政権交代を重ねる 候補者の分裂・一本化が得票構造を左右 かつて基隆市長選は台北市と同じ年に行われていなかったため、歴史を振り返るには2001年、2005年、2009年から比較する必要がある。
2001年は国民党の許財利氏が58.09%を獲得し、民進党の李進勇氏は41.91%だった。
2005年に許氏は41.14%で再選したが、このときは国民党系陣営で国民党と親民党が競合し、親民党の劉文雄氏が25.89%を得た。泛緑陣営では、台湾団結聯盟(台聯)の陳建銘氏が31.46%を得た。
この選挙は、国民党と民進党の正式な公認候補の票だけを見ていると、二大政治陣営の実際の支持規模を見誤る可能性があることを示している。
2009年は国民党の張通栄氏が55.11%で勝利した。
2014年は民進党の林右昌氏が53.15%を得て、国民党の謝立功氏は27.47%、無所属の黄景泰氏が16.27%だった。国民党出身の黄氏が立候補したことで、国民党系の票が分散した。
2018年には林氏が54.14%で再選し、2022年には国民党の謝国樑氏が52.92%で当選した。
この20年余り、基隆市では複数回の政権交代が起き、地方派閥、候補者の分裂や一本化、政治環境の影響も繰り返し受けてきた。そのため、比較的安定した政党支持の構造がある都市であっても、市長選の結果は大きく変わり得る。
2024年の政党票が示すもの 北北基の青と緑の差は想像ほど大きくない 政党の固定支持層を見るうえで、地方首長候補の得票よりも政党支持構造に近い指標となるのが、立法委員選挙の比例代表の政党票だ。
2024年の比例代表政党票を基準に比較すると、台北市、新北市、基隆市の「北北基」3市では、いずれも国民党が民進党を上回ったが、優位の程度は異なる。
台北市で国民党のリードは約4ポイント、新北市ではほぼ互角、基隆市では8.5ポイント近くだった。一方、民衆党も3市すべてで2割以上の政党票を得た。
北北基の政治地図は、すでに伝統的な「青か緑か」という二分法だけでは捉えにくくなっている。
さらに、同じ2024年の総統選では異なる構図となった。
2024年総統選における台北市・新北市・基隆市の国民党、民進党、民衆党の得票率。(出所:中央選挙委員会) 台北市では民進党の頼清徳氏が38.13%、国民党の侯友宜氏が38.08%とほぼ互角で、民衆党の柯文哲氏は23.79%だった。
つまり柯氏は北北基の3市すべてで総統選の票の4分の1前後を獲得し、新北と基隆では26%を超えた。この規模は、それまでの青と緑の候補者間の得票差を大きく上回る。
これは、北北基には伝統的な青と緑の固定支持層に加え、第三勢力に投票した有権者が相当規模存在することを意味する。
地方首長選の票、総統選の票、政党票は、それぞれ異なる政治的な側面を映す。2026年の統一地方選で、2024年に柯氏を支持した有権者がどう選び直すのか、そしてどの程度が実際に投票所へ足を運ぶのかは、政治地図の変化を見る上で無視できない。
青と緑のほかに、2割を超える民衆党票 2024年選挙で無視できなくなったのが、民衆党が北北基で総統選の票の4分の1近く、比例代表の政党票では2割以上を得たことだ。
比例代表政党票を見ると、台北市21.8%、新北市22.9%、基隆市22.40%と、3市すべてで相当規模の第三勢力支持が確認された。
ただし、こうした有権者をそのまま「青」「緑」「中間層」のいずれかに分類することはできない。
もともと国民党を支持していた人もいれば、民進党を支持していた人もいる。二大政党の双方に不満を持つ人、柯文哲氏個人への支持が強かった人もいる。
民衆党に投票したからといって、政治的立場が必ずしも中間とは限らない。また、その票を別の政党がそのまま引き継げるわけでもない。
柯文哲氏は2024年、民衆党の候補として総統選に出馬した。(資料写真、撮影:蔡親傑) 2025年の大規模リコールでは、こうした有権者の政治的態度が改めて注目された。
同年7月と8月の2回にわたるリコール投票では、国民党の立法委員31人を対象とした罷免案がすべて不成立となった。国民党と民衆党はリコール反対で協力し、複数の調査でも民衆党支持者の多くが国民党立法委員のリコールに反対していたことが示された。
柯文哲氏をめぐる捜査・司法手続きや政治的対立は、一部の民衆党支持者の民進党に対する見方にさらに影響した可能性がある。ただ、その実際の影響の程度を判断するには、個人単位の調査が必要になる。
一方、2025年のリコール反対の立場が、そのまま2026年の地方選挙での投票先につながるかどうかは別問題だ。
国民党の立法委員のリコールに反対したことが、必ずしも国民党が擁立する市長候補への支持を意味するわけではない。
中間層は本当に存在するのか それとも隠れた青・緑の支持者か 政治家はしばしば「選挙の勝敗は中間層が決める」と語る。だが、中間層とは具体的にどのような有権者を指すのか。
政治学の研究では、支持政党がないと答える人が、必ずしも政治的立場を持っていないわけではない。
国民党や民進党への支持を明言しなくても、特定の政党に明確な好悪を持つ人もいる。長期的には一方の陣営に傾いていても、地方選挙では候補者の条件に応じて選択を変える人もいる。
政治への関心が比較的低く、投票直前になって支持候補を決める人もいる。こうした有権者は世論調査では「中立」や「支持政党なし」に分類されることがあるが、実際の投票行動は同じではない。
2024年の台北市・新北市・基隆市における比例代表政党票の分布。3大政党の各地域での有効政党票得票率。 国民党に強く共感しているわけではなくても、民進党への反感がより強いため国民党に投票する有権者がいる。逆に、主に国民党に反対するという理由で民進党を支持する人もいる。
したがって、支持政党のない人をすべて自由に動く票と考えることはできない。
注目すべきなのは、長期的な政党帰属意識が比較的弱く、それでも積極的に投票に参加する有権者が、候補者や争点の変化によって選択を変えるかどうかだ。
政治のうねりは短期間で生まれるが、政党帰属意識には持続性 2014年の柯文哲氏の「白色力量(白色の力)」、2018年の韓国瑜氏をめぐる「韓流」、2020年の蔡英文氏をめぐる「辣台妹」、そして2026年の沈伯洋氏をめぐる「洋流」まで、台湾の選挙では、政治家への支持が短期間で大きな注目や動員につながる現象が繰り返されてきた。
2014年に柯氏が無所属で台北市長に当選し、2018年には韓国瑜氏が高雄市長選で勝利した。こうした例は、政治的なうねりが既存の政党間競争の構図を超える可能性を示している。
ただし、こうした一時的な政治的勢いによって得た票が、そのまま安定した政党帰属意識へ転化するかどうかは、時間をかけて検証する必要がある。
韓国瑜氏は2018年の高雄市長選に出馬し、「韓流」と呼ばれる政治的な支持の広がりを巻き起こした。(資料写真、撮影:林瑞慶) 2026年の北北基選挙についても、一部の世論調査で民進党候補が国民党候補を上回っていることは、候補者への支持が実際に変化している可能性を示す一方、投票意欲、態度未定層、質問方法や調査手法の違いによる影響も考慮する必要がある。
台北市では、10月31日のTVBS調査で蒋万安氏46%、沈伯洋氏42%となり、両者の差は4ポイントだった。一方、新北市の11月初旬の一部調査では蘇巧慧氏が李四川氏を14.9ポイント上回り、基隆市では最新の一部調査で謝国樑氏と童子瑋氏がほぼ並んでいる。地域によって選挙情勢は大きく異なり、一つの世論調査だけで長期的な政党支持の変化を判断することは難しい。
長期的な政治地図が塗り替わったかどうかを判断するには、もともとの国民党支持者が継続的に政党帰属意識を変えているのか、民衆党支持者がどのような選択をするのか、そして明確な支持政党を持たなかった有権者が新たな安定した支持を形成するのかを見ていく必要がある。
北北基の20年余りの選挙を振り返れば、台湾には持続性のある青と緑の政治的基盤が存在することは確認できる。しかし、その「基本票」は決して固定した票数ではない。
台北市長選で国民党候補の得票率が64%から42%へ低下したこと、新北市長選と総統選で侯友宜氏の得票率に27ポイント以上の差が生じたこと、基隆市で複数回の政権交代が起きたことは、候補者、政治環境、選挙の種類によって、実際の得票が既存の政党支持構造から大きく変動し得ることを示している。
さらに2024年、民衆党が北北基で2割を超える比例代表政党票を得たことで、従来の青と緑による二分法だけでは選挙を説明しにくくなった。
2026年の焦点は、政治的なうねりによって長期的な政党帰属意識そのものを変えた有権者がどれだけいるのか、そして今回の選挙で候補者だけを選び直した有権者がどれだけいるのかという点だ。
その答えは、一つの世論調査だけで判断できるものではない。台湾の政治地図が再編されつつあるのかを理解するには、過去の得票、長期的な政党帰属意識、そして異なる選挙で有権者がどのような選択をしてきたのかを併せて見る必要がある。