【花蓮洪水から1年①】洪水は引き、砂塵が舞う 「シャベル超人」の人波が去った台湾・光復郷の今

2026-09-23 17:45
台湾・花蓮県光復郷の洪水災害から1年。馬太鞍渓には鋼製の仮橋が架かったが、住民の暮らしはいまも復旧の途上にある。(方儉撮影)
台湾・花蓮県光復郷の洪水災害から1年。馬太鞍渓には鋼製の仮橋が架かったが、住民の暮らしはいまも復旧の途上にある。(方儉撮影)

2025年9月23日、台湾東部・花蓮県を流れる馬太鞍渓(マタアン渓)の上流で、土砂崩れでできたせき止め湖が、台風18号に伴う豪雨で越流し、大規模な洪水を引き起こした。約1540万トンの水が土砂を巻き込み、泥流となって一気に下流の光復郷へ押し寄せ、100万立方メートルを超える黒い泥が町に流れ込んだ。道路や住宅、農地、学校は一瞬にして姿を変え、死者19人、行方不明5人を出した。

せき止め湖は7月25日には林業及自然保育署(林保署)が衛星画像で確認しており、越流前日の22日夜の中央災害対策センターの集計では、1837世帯8524人が避難の対象となっていた。それでも、このうち5241人が自宅の上階にとどまる「垂直避難」を選び、犠牲者の多くは自宅1階で見つかった高齢者だった。2018年の西日本豪雨で、亡くなった51人のうち45人が65歳以上、44人が自宅で命を落とした倉敷市真備町と重なる構図だ。

災害後、台湾全土から延べ50万人超の「シャベル超人」と呼ばれるボランティアが駆けつけ、シャベルで一すくいずつ約40万トンの泥をかき出して、絶望の中から再生への道を切り開いた。それから1年、鋼製の仮橋が開通し、子どもたちは教室に戻り、仮設住宅に明かりがともり、市街地の店も次々とシャッターを上げた。だが、かき出された土砂は巨大な土の山となって乾き、風に乗って砂塵と化している。

被災者は住宅の修繕や住まいの確保、土地収用の答えを待ち続け、農家は補助金と休耕、借地契約の解除、再耕作のコストの間で身動きが取れない。上流のリスクは消えず、頻発する警報は住民の感覚をすり減らしていく。工事は一つずつ進んでも、暮らしの再建はまだ途上にある。

風傳媒(ストームメディア)グループの『新新聞』取材班は今月、再び光復を訪れた。馬太鞍渓と万里渓に沿って仮設住宅や学校、農地、集落を歩き、被災者や教師と生徒、小規模農家、山岳・渓谷救助の総教官、村長らの話から、災害が長く残す影響を追った。シャベル超人の善意は、光復を黒い泥の中からすくい上げた。人波が去ったいま、この町は安心して住み、耕し、学び、日々を送れる条件を取り戻せるのか。それが、1年後に問われている。

台湾東部を南北に貫く幹線道路・台9線を南下し、馬太鞍渓に近づくと、車内にいた取材班3人の携帯電話が一斉に激しく震え、耳をつんざくような警報音が鳴り響いた。光復に着いた合図だ。車が馬太鞍渓の鋼製仮橋を渡ると、窓の外からはショベルカーなどの重機や大型トラックの轟音が聞こえてくる。砂利を積んだダンプカーが次々と仮橋を通過し、タイヤが細かな砂ぼこりを巻き上げる。風が吹くと、道端の土の山の表面がわずかに波打つ。遠くには新たに築かれた堤防が見え、灰黒色の土砂が河谷一面を覆い、むき出しの土砂がまぶしい日差しに照らされていた。 (関連記事: 台湾・花蓮光復「せき止め湖災害」から1カ月 「再建」へ移行も住民に広がる「集団的ためらい」 経済停滞と「心の堰き止め湖」 関連記事をもっと読む

馬太鞍渓橋では現在、災害直後に川底に設けた仮設道路に代わり、鋼製の仮橋が連絡橋の役割を担っている。本設の橋はまだ建設中で、橋の両端と馬太鞍渓両岸の堤防の工事も続く。1年がたち、押し寄せた泥流は引いたものの、馬太鞍渓南岸一帯はいまも巨大な工事現場のようだ。重機が絶え間なく行き交い、轟音が途切れることはない。堤防のかさ上げも続いている。建設中の堤防に立つと、川床が光復郷の地盤面より明らかに高いのが見て取れる。堤防が高く築かれていくのはそのためだ。

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