欧州や世界の主要都市で生活費や家賃が高騰する中、欧米の大学生の海外留学先に大きな変化が起きている。英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』によると、ロンドン、パリ、ニューヨークといった従来の人気留学都市では、高額な居住費が学生の負担となる一方、ソウル、リスボン、プラハなどが、比較的抑えられた生活費、豊かな文化体験、より利用しやすいビザ制度などを背景に、新たな人気留学先として浮上している。
FTによると、韓国政府が2023年に発表した「スタディ・コリア300Kプロジェクト(Study Korea 300K project)」は、当初、ビザ要件の緩和などを通じて2027年までに外国人留学生30万人を誘致する目標を掲げていたが、すでに前倒しで達成した。
統計によると、韓国の高等教育機関に在籍する外国人留学生は、過去3年間で69%増加し、30万7500人に達した。
欧米の学生をソウルに引き付ける大きな要因の一つが、K-popをはじめとする韓国のポップカルチャーだ。
米ボストン大学(Boston University)の学生、ヴァレリー・クレイトン氏は一般家庭の出身で、経済的な理由から海外留学を考えたことはなかった。しかし、動画共有サイト「YouTube」で学生がソウルのホストファミリー宅で生活する様子を紹介した動画を見たことをきっかけに、大学の奨学金に応募し、6週間の韓国研修に参加した。
米国に本部を置くNAFSA(国際教育交流協議会)の最高経営責任者(CEO)、ファンタ・アウ氏は、かつてソウルを留学先に選ぶ米国人学生は、アジア系や韓国系の2世、3世で、自らのルーツをたどろうとする層が中心だったと指摘する。
「現在ソウルを選ぶ一般の米国人学生の多くは、韓国との既存のつながりを持っていない」とアウ氏は語る。
学生の移動傾向を研究するギリシャ・テッサロニキのアリストテレス大学(Aristotle University of Thessaloniki)の研究者、アナスタシア・パノリ氏は、大学の評価や就職の見通しは依然として重要であるものの、現在の学生はライフスタイル、交通アクセス、成長機会、環境面の価値などを含む総合的な「エコシステム」をより重視するようになっていると分析している。
欧米主要都市で家賃高騰 ソウルは居住費で競争力
文化体験に加え、パンデミック後に急騰した家賃も、学生の留学先選びを変える現実的な要因となっている。
賃貸データプラットフォーム「HousingAnywhere(ハウジング・エニウェア)」のデータによると、アムステルダムの部屋の賃料は、ブダペストの約3倍に迫っている。
一方、韓国でもAIブームを背景とする不動産市場の活況がみられるものの、ソウルは学生向け住宅のコスト面で依然として競争力を保っている。
不動産サービス大手クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(Cushman & Wakefield)ソウル支社の幹部、ソリム・ジエ(Sorim Jie)氏によると、留学生が現地で利用する代表的な住宅形態は2種類ある。
一つは、大家が同じ建物に住む小型住居「ワンルーム(one-room)」で、月額賃料は約90万ウォン(約10万円)。もう一つは、英国の複数人向け賃貸住宅(HMO)に似た家庭的な下宿「ハスクチプ(hasukjib)」で、月額賃料は約60万ウォン(約7万円)だ。
リスボン、プラハも新たな留学先として台頭
こうした留学先の変化で恩恵を受けているのは韓国だけではない。ポルトガルの首都リスボンも、国際学生の間で存在感を高めている。
2024年までの9年間で、欧州連合(EU)の「エラスムス・プラス(Erasmus+)」を通じてリスボン大学で学ぶ学生は約2倍に増え、7400人に達した。同じ期間にポルトガルへ留学した米国人学生も4倍に増加した。
フィンランド・ヘルシンキ大学の計算地理学者、トゥオマス・ヴァイサネン氏の分析によると、欧州で最も人気のある留学都市では、マドリードとバルセロナが1位と2位を占め、リスボンが3位に上昇。パリは4位に後退した。ローマ、ミラノ、プラハ、ウィーンの順位も上昇している。
不動産サービス大手CBREリスボン支社のマネージング・ディレクター、ドゥアルテ・カルドソ・フェレイラ氏は、留学生の増加を背景に、大学が集まるエリアで大規模な学生専用住宅の開発が進んでいると指摘する。
英不動産サービス大手サヴィルズ(Savills)のグローバル住宅部門責任者、ヴィクトリア・ギャレット氏は、ロンドン、パリ、ニューヨークといった従来の市場に加え、リスボンが留学する子どものために不動産を購入する富裕層の親にとって人気の選択肢になっていると述べる。
現地の高級住宅の平均価格は1平方メートル当たり約1万4600ユーロで、ロンドンの1万8200ユーロ、パリの1万9000ユーロを明確に下回る。
賃貸住宅でも、リスボンの学生向け個室の平均月額賃料は約530ユーロで、パリの720ユーロ、ロンドンの1140ユーロよりも低い。
中欧のチェコにも多くの国際学生が流入している。過去10年間で、エラスムス・プラスを通じてプラハを訪れた学生は倍増し、4764人に達した。
現地のカレル大学(Charles University)などが提供する学生寮の個室は、月額200~300ユーロで利用できる。
チェコ第2の都市ブルノ(Brno)では、マサリク大学(Masaryk University)に在籍する19歳のトルコ人学生、ゼイサン・チャキル氏が、ソーシャルメディアを通じてルームメートを探し、学生寮の評判を比較したという。
現在は現地のテクノロジー企業でカスタマーサポートのアルバイトをしており、外国人卒業生が国内に残って働くことを認めるチェコの制度を利用し、現地の金融業界で正規雇用を目指している。
専門家「インフルエンサーの情報には注意が必要」
FTは、デジタルツールや国境を越えた留学プログラムの普及によって、言語や環境の壁が大幅に低くなっていると指摘する。
過去10年間で、EUのエラスムス・プラスの年間参加者数は25万9000人から144万人に拡大した。欧州委員会は、同プログラムを2034年まで延長することも提案している。
リアルタイム翻訳ソフト、インタラクティブマップ、宿泊予約プラットフォームの普及によって、現地語を十分に話せない都市も、以前より身近な選択肢になっている。
一方、NAFSAのアウ氏は、ソーシャルメディアやインフルエンサーによるマーケティングが新たな留学都市の人気を後押しする一方で、「諸刃の剣」でもあると警告する。
「インフルエンサーや動画クリエイターは、都市のイメージを広める上で重要な役割を果たしている。しかし、特定の都市を宣伝するためにスポンサーから支援を受けている可能性もあり、学生にとって事実と虚構を見分けることは難しい」
海外留学を検討する学生は、学校や居住都市を選ぶ際、十分な事実確認と慎重な検討を行う必要があると強調している。