【花蓮洪水から1年⑦】なぜ耕す人ほど取り残されるのか 借地農家が自力で田畑をよみがえらせた1年

2026-09-27 10:17
光復郷で農業を続けられるかどうかは、政府が実際に耕作する人を、補助や賃貸借、再耕作の制度の中心に据えられるかにかかっている。(方儉撮影)
光復郷で農業を続けられるかどうかは、政府が実際に耕作する人を、補助や賃貸借、再耕作の制度の中心に据えられるかにかかっている。(方儉撮影)

阿福(アフー)さんは、アミ族の集落・太巴塱(タファロン、Tafalong)の田んぼのあぜにしゃがみ込み、手で手植えの苗の間隔を示してみせた。この田んぼは広くなく、機械が入れるとは限らないため、田植えも草取りも人手に頼るしかない。コストは計算済みで、収穫だけでは人件費をすべて賄えないことも分かっている。それでも田んぼを手放したくない。この田んぼには、農業生産額だけでは測れない意味がある。「これは文化的な価値なんだ」と阿福さんは言う。彼にとって稲作は、集落と土地との関わり方を守ることでもある。

阿福さん(本名・林清福)は海軍で士官長(上級下士官)を務め、退役後、故郷である馬太鞍渓(マタアン渓)南岸の太巴塱に戻り、妻とともに農業を営んできた。2カ所で稲を作っているが、どちらも借りた土地だ。このうち約2分(約0.2ヘクタール、日本の約2反)は洪水が運んだ土砂に覆われ、厚さは1メートル近くに達した。水が引くと、行政の支援策がすべて整うのを待たず、自らショベルカーを借りて表面の泥を削り取り、流れ着いた漂流物を拾い出して、田んぼを平らにならした。田んぼの形は戻ったが、土壌はまだ回復していない。これから客土や土づくり、耕起を行い、排水と地力が少しずつ戻るのを待つことになる。

越流の夜、真っ先に被災地へ水と物資を届けた

阿福さんの精米機は80万台湾ドル余り(約400万円、9月23日のレートで換算)したが、水につかって壊れ、災害後の補助は約10万台湾ドル(約50万円)だった。農業機械や種苗、保管設備、すでに投じた人件費や休耕中の収入を、一つの補助項目で埋め合わせるのは難しい。

阿福さんは、2025年9月23日に馬太鞍渓のせき止め湖が越流したあの夜、仲間と真っ先に光復の被災地へ水や物資を届けに駆けつけたときのことを思い出す。水の勢いがあまりに強く、10人余りが一時車内に取り残され、危険な状況に陥ったが、最後は無事に脱出できた。台湾各地から光復に駆けつけ、泥をかき出し、物資を届け、設備を寄付し、整地を手伝ってくれた人々を振り返り、「これこそ台湾で最も美しい力だ。台湾で一番美しいのは人なんだ」と語る。

海軍の士官長を務めた阿福さんは、退役後、故郷である馬太鞍渓南岸の太巴塱に戻って農業を営む(林清福さん提供)
阿福さんは海軍で士官長を務め、退役後、故郷である馬太鞍渓南岸の太巴塱に戻って農業を営んでいる。(林清福さん提供)

多くの友人も、阿福さん夫妻が農地の整備を続けられるよう陰で支えている。善意は最も苦しい時期を乗り越える力になったが、再耕作は結局、少しずつ自分たちの手で取り戻していくしかない。

1日に十数本の電話、すべて地主からの解約要求

馬太鞍渓北岸の謝清波さんは、別の重圧に直面している。

台北から花蓮県万栄郷に移り住んだ謝さんは、計約14甲(約13.6ヘクタール)の土地を借りて大豆や黒豆などの畑作物を育てている。借りている土地には、約200人の地主が関わっている。 (関連記事: 【花蓮洪水から1年⑤】なぜ再耕作は進まないのか 「重度被災地」指定に揺れる光復郷、農地と生計の行方 | 関連記事をもっと読む )

2025年9月23日と、台風26号(フォンウォン)の影響を受けた11月の2度の洪水で、約7甲(約6.8ヘクタール)が被害を受け、一部の作物は水につかり、用排水路や農道も壊れた。9月23日、第2波の洪水が来たとき、謝さんは四輪駆動車を高さ約1メートルのあぜ道に乗り上げた。水は「ほぼ建物1階分の高さで、襲いかかってきた」。謝さんは車の中で30時間余り孤立した末に救助された。

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