公益財団法人フォーリン・プレスセンター(FPCJ)で23日、東京農工大学大学院農学研究院の小池伸介教授によるオンライン記者会見が行われた。テーマは「クマはなぜ人の生活圏に現れるのか―変わる自然環境と地域社会」。
2025年度に過去最多となったクマの大量出没と人身被害について、小池教授は直接的な要因である木の実の凶作だけでなく、40年から50年におよぶ農山村の過疎高齢化や耕作放棄地の増加に伴う生息域の拡大が本質的な背景にあると分析した。
対策の柱として生活圏と生息圏を分ける「ゾーニング」の確立や自治体職員の専門性向上を挙げつつ、抜本的な解決には5年から10年規模の長期的な取り組みが不可欠であるとの見解を示した。
2025年度のクマ被害は過去最悪、木の実の凶作が引き金に
小池教授はまず、本州や四国に生息するツキノワグマによる近年の被害状況を解説した。2025年度の死傷者数は232人、死者数は少なくとも11人に達し、いずれも過去最悪を記録した。さらに、有害鳥獣としての許可捕獲数も1万2000頭を超え、過去最多となった。
大量出没の直接的かつ短期的な引き金としては、東北地方などで秋の主食となるブナなどドングリ類が広範囲で不作に陥った点がある。一部で指摘される地球温暖化との因果関係については、ドングリの豊凶周期は自然現象であり、現時点では科学的に解明されていないと説明した。
その上で小池教授は、出没が激増した背景には40年から50年単位の長期的な社会構造の変化があると強調した。国の調査によると、過去約40年間でクマの分布域は約2倍に拡大している。
日本社会の都市集中に伴い、かつて奥山と人里の間で緩衝地帯となっていた「里山」から人が撤退し、耕作放棄地が増加して森へと戻ったことが分布拡大を後押しした。
さらに過疎高齢化が進んだ集落では、収穫されずに放置されたカキやクリが格好の誘引物となり、ドングリ不足に直面したクマを人里へと引き寄せる結果を生んだ。
こうした構造的変化は東北にとどまらず全国共通の課題であり、凶作が起きれば日本中どこでも大量出没が生じうる環境が整っていると警鐘を鳴らした。
人とクマの住み分けと専門人材の育成が課題
今後の対策について小池教授は、政府が策定したパッケージや工程表の中で、人とクマの空間的な住み分けを目指す「ゾーニング対策」と「自治体職員の専門知識の向上」が核心になると指摘した。
人の生活圏への侵入を未然に防ぐための集落周辺での計画的捕獲や、ヤブの刈り払い、放置果樹の撤去といった環境整備を並行して行い、集落をクマにとって居心地の悪い場所にすることが求められる。
一方、環境省の調査では都道府県の野生動物管理担当職員のうち専門知識を持つ者はわずか5.4%にとどまり、数年ごとの人事異動が長期的施策の障壁になっていると問題視した。大学側の専門人材育成プログラム導入と連動し、行政が専門職ポストを確保することが急務だと訴えた。
質疑応答で小池教授は、世界的にアジアクロクマが減少傾向にある中で、日本は生息数と分布域が拡大している特異な状況にあると述べた。
また、山林に入る際の熊鈴やラジオの携帯による遭遇防止策の重要性に触れたほか、ヒグマとツキノワグマの特性の違いについて、遭遇時の死亡率はヒグマの方が高い一方、ツキノワグマは事故件数が多く重症化率が非常に高い特徴があると解説した。
最後に、クマの出没環境が数十年かけて形成された以上、問題の解決も1、2年では困難であり、社会全体が5年から10年の長期的な視野で対策を継続する必要があると締めくくった。
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編集:小田菜々香


















































