宇宙開発企業スペースX(SpaceX)が好調な7~9月期決算を発表したのを受け、世界一の富豪イーロン・マスク(Elon Musk)氏は、スペースXと電気自動車(EV)大手テスラ(Tesla)の合併を支持する考えを公に示した。
両社がそれぞれ独立取締役で構成する特別委員会を設置し、合併の可能性を検討していることも初めて明らかにした。取引が実現すれば、両社の時価総額は合わせて3.5兆ドル近くに達し、史上最大級の企業合併となる可能性がある。EV、エネルギー貯蔵、ロケット、衛星通信、人工知能(AI)の計算基盤などの事業が一つの企業グループに収まる可能性もある。
マスク氏はスペースXの7~9月期決算説明会で合併構想に触れた際、自らを「地雷原の上で踊っている」ようだと表現し、この問題が複雑な利益相反や企業統治の問題をはらんでいることを示唆した。「慎重に発言しなければならない」と認めながらも、スペースXとテスラがそれぞれ特別委員会を設けて合併を協議していることを明らかにした。
マスク氏は両社を率いており、潜在的な利益相反があるため、特別委員会による協議には参加できない。今後は双方の委員会が取引条件などを検討する必要がある。
ただ、マスク氏は合併への支持を隠さず、両社を統合することには大きな価値があるとの認識を示した。一方、テスラ株主から十分な支持を得られるかどうかは大きなハードルで、両社の特別委員会も現時点で取引条件について合意していない。
米投資会社ディープウォーター・アセット・マネジメントの創業者、ジーン・マンスター(Gene Munster)氏は、マスク氏が合併を進めたい意向を明確にしており、可能な限り早期の実現を望んでいるとみる。決算説明会でも重要な話題として取り上げ、マスク氏が繰り返し支持を示したことから、市場の合併への期待を高めようとしているとの見方を示した。
スペースXの利益は予想を大幅に上回る AI事業が成長のけん引役に
マスク氏がスペースXの好決算に合わせて合併に言及した背景には、同社の事業構造が大きく変わりつつあることがある。
スペースXの7~9月期の純利益は44億ドルとなり、市場予想を大幅に上回った。売上高は前年同期比161%増の145.8億ドルとなり、市場予想を上回った。同社の収益が、もはやロケット打ち上げと衛星インターネットサービスだけに依存していないことを示している。
なかでも「スーパー・インテリジェンス(Super Intelligence、SI)」と呼ぶAI事業は、7~9月期の売上高が75.6億ドルと、前年同期の9倍を超えた。
企業顧客による計算資源への需要が高まっていることに加え、マスク氏が率いるxAIが開発した大規模言語モデル「Grok」の企業向け版の販売も伸び、スペースXのAI事業の7~9月期の営業利益は4.31億ドルとなった。前年同期は17億ドルの営業赤字で、大幅な黒字転換となった。
スペースXのブレット・ジョンセン(Bret Johnsen)最高財務責任者(CFO)は決算説明会で、スーパー・インテリジェンスが今四半期で最も際立った成長の原動力だったと述べた。主に顧客による計算資源への需要拡大と、Grokの企業向け版の販売増が寄与したという。
ジョンセン氏はまた、スペースXの2027年1~3月期の売上高が330億~370億ドルに達するとの見通しを示した。複数のデット資本の調達先と協議していることも明らかにし、今後も借り入れなどを活用して事業拡大を支える方針を示した。
衛星インターネットサービス「スターリンク(Starlink)」も、スペースXの重要な収入源だ。7~9月期末時点の契約者数は1360万人に達し、通信事業の売上高は前年同期比69%増の約52億ドルとなった。
これに対し、ロケットや宇宙船の設計・製造・運用を担う宇宙事業の7~9月期の売上高は、前年同期比6%増の約18億ドルにとどまった。事業ごとの成長率の差は、AI向け計算資源と衛星通信が同社の事業でますます重要な役割を担っていることを浮き彫りにしている。
「Terafab」計画が加速 ASMLなどが装置納入を急ぐ
マスク氏は、スペースXとテスラの合併構想と並行して、両社の長期的な成長を左右するもう一つの計画、半導体製造施設「Terafab(テラファブ)」の推進も急いでいる。
マスク氏によると、オランダの半導体製造装置大手ASMLをはじめとする主要な装置メーカーが、Terafabに必要な設備の納入を加速しているという。
マスク氏は計画のスケジュールについて「非常に積極的だ」としたうえで、目標達成に向けて装置の納入を急ぐASMLなどの供給企業に感謝を示した。
Terafabは、スペースXとテスラが共同で進める大規模な半導体製造計画だ。両社が必要とする先端AIプロセッサーなどの半導体を自ら確保し、台湾積体電路製造(TSMC)を含む既存の半導体供給企業への依存を減らす狙いがある。
マスク氏によると、Terafabでは2027年5~6月をめどに最初のテストチップを製造し、2028年7~9月期に先端半導体の量産を始めることを目指している。
ただ、計画のスケジュールは極めて野心的で、予定通り実現できるかには不確実性も残る。
計画が進めば、マスク氏の企業群は半導体製造からデータセンターの計算基盤、自動運転やロボットといった最終用途まで、AIハードウェアのサプライチェーンの重要部分を自社グループ内に取り込み、垂直統合をさらに進めることになる。
マスク氏の企業帝国、AIを軸に広がる事業領域
スペースXはロケット打ち上げ、衛星ネットワーク、宇宙インフラを手がけ、テスラはEV、エネルギー貯蔵、自動運転、人型ロボットを展開している。さらにTerafabの半導体製造能力が加われば、半導体から計算インフラ、地上での各種AI用途までを一体化することが可能になる。
スペースXの初期投資家で、米ベンチャーキャピタル、スペース・キャピタルのチャド・アンダーソン(Chad Anderson)最高経営責任者(CEO)は両社の合併を支持している。
統合後の企業は、半導体製造から軌道上データセンター、地上の自律型機器まで、フィジカルAIのバリューチェーン全体をカバーでき、競合他社が容易には再現できない事業基盤を構築できるとの見方を示している。
ただ、合併案はまだ検討段階にあり、両社は取引条件で合意していない。テスラ株主の支持を得られるかどうかも、合併の成否を左右する。
マスク氏が公に支持を表明したとはいえ、取引が決まったとみなすことはできない。
半導体とAI事業に加え、スペースXの大型宇宙船「スターシップ(Starship)」計画も、全体の事業戦略を左右する。
マスク氏は、来月にスターシップの15回目の試験飛行を行う予定で、ブースターと宇宙船の双方を回収することを目指すと述べた。実現すれば、完全再使用型の軌道輸送システムに向けた大きな前進となる。
スペースXのグウィン・ショットウェル(Gwynne Shotwell)社長兼最高執行責任者(COO)は、2027年初めに軌道上での推進剤補給の実証を試みる予定だとしている。
この技術は、スペースXが米航空宇宙局(NASA)の有人月面着陸計画で使用するスターシップ型月着陸船を実現するうえで重要な技術となる。
NASAは2027年に予定する「アルテミス3」で、地球低軌道において宇宙船「オリオン」とスペースXなどが開発する有人月着陸システムとのランデブー・ドッキング能力を実証する計画だ。
その成果を踏まえ、2028年に予定する「アルテミス4」で有人月面着陸を実施する方針で、スペースXの関連技術が予定通り準備できるかが重要になる。
スターシップは次世代スターリンク衛星の配備にも欠かせない。
新型の「V3」衛星は、現在軌道上にある衛星より大きな通信容量と高速なデータ伝送能力を備え、スペースXがより多くの市場を開拓するうえで重要な役割を担うとみられている。
ショットウェル氏は、自動車やロボット、スーパー・インテリジェンスを利用するサービスが普及するにつれ、通信需要は桁違いに増えると指摘し、スターリンクが将来、世界のインターネット通信量の相当部分を担うとの見通しを示した。
スペースXによると、スターリンクの成長は、航空業界で高まる機内Wi-Fi需要や、軍・政府向け衛星通信サービス「スターシールド(Starshield)」の拡大にも支えられている。
スターシールドはウクライナ軍の通信や無人機などの作戦にも利用されており、衛星通信技術が地政学や安全保障分野で重要な役割を果たしていることを浮き彫りにしている。
最近では、ウクライナ向けのスターリンクやスターシールドの利用制限をめぐり、決定の経緯や責任の所在が改めて焦点となっている。ウクライナ側はサービス制限への懸念を表明している一方、マスク氏とトランプ米大統領はいずれも、自身が制限に関与したとの見方を否定している。
スペースXとテスラの合併構想、Terafabによる半導体製造計画、さらに軌道上データセンターや衛星ネットワークの展開は、マスク氏が傘下企業の技術と資源をさらに統合しようとしていることを示している。
ただ、合併が実現するか、Terafabが予定通り量産に入れるか、スターシップの技術開発が計画通り進むかが、この巨大な構想の成否を左右する今後の重要な焦点となる。