2026年9月24日の米中首脳会談から約1週間後の10月2日、台湾が米国から調達する新造F-16Vブロック70戦闘機66機のうち、最初の2機がハワイからグアムを経由し、ようやく台東の志航空軍基地に到着した。
2機は8月17日に米テキサス州を出発した後、ハワイで1カ月半近くにわたって点検・整備を受けていた。その間、台湾では到着を待ちわびる声が高まり、政治的な臆測や陰謀論も飛び交った。
遅れはしたものの、F-16Vブロック70が台湾に到着したことで、軍関係者は胸をなで下ろした。米中首脳会談をめぐる米中関係の動向に神経をとがらせていた台湾社会にとっても、一定の安心材料となった。
このF-16Vブロック70は2019年、第1次トランプ政権が売却を承認したもので、台湾側の事業総額は2472億台湾ドル余り。当初は2023年に引き渡しが始まる予定だったが、生産ラインの移転・再立ち上げやサプライチェーンの混乱、システム統合・試験などが重なり、大幅に遅れた。
10月12日時点で台湾国防部によると、63機が米国で生産工程に入っており、全66機の納入完了時期については米側との調整が続いている。
また、新型機に搭載される電子戦システム「バイパー・シールド(Viper Shield)」については、一部のハードウェアがすでに機体に装備されている一方、ソフトウェアの開発や機体システムとの統合作業が続いている。
台湾国防部は、必要な統合作業を交機後の管理スケジュールに沿って完了させるとしている。
機体番号6727、6728のF-16Vブロック70初号機2機が10月2日、台東の志航空軍基地に到着した。(中央社)
到着したF-16V、電子戦システム「バイパー・シールド」は統合作業中 電子戦システムがなお完全な運用状態に達していないとはいえ、F-16Vブロック70は台湾にとって1990年代以来初めて導入する新造の主力戦闘機だ。
AN/APG-83アクティブ・フェーズドアレイ(AESA)レーダー、統合ヘルメット装着式照準システム「JHMCS II」、大推力のGE F110エンジン、コンフォーマル・フューエル・タンク(CFT)などの先進装備を備えており、台湾の世論や軍事ファンの間でも大きな注目を集めている。
特に与党・民進党寄りの一部のコメンテーターは最近、F-16Vブロック70について、台湾海峡上空で人民解放軍のJ-10CやJ-16に対抗し、第5世代ステルス戦闘機とされるJ-20やJ-35とも渡り合える「台湾防衛の切り札」だと高く評価している。
台湾空軍にとっても、新型機の引き渡し開始は待望の出来事だ。
将来、66機のF-16Vブロック70がすべて就役すれば、既存の139機と合わせて、台湾空軍が運用するF-16Vは計205機に達する。F-16Vを運用する航空戦力としては世界最大規模となり、対空、対地、対艦のいずれの任務でも、地域の軍事バランスに無視できない影響を与える存在になるとの見方を示す。
ただ、今後F-16Vの配備が進み、台湾空軍の作戦能力が高まるとしても、早急に補わなければならない弱点がないわけではない。
台湾軍の主力戦闘機を操縦した経験を持つこの空軍関係者によると、外部ではF-16Vブロック70の電子戦システムの統合作業に注目が集まっているものの、空軍内部ではそれほど悲観していないという。
システム統合や試験手続きに関する技術的な問題であり、米メーカーの経験と能力を考えれば、必要な検証と統合作業が進むのは時間の問題だとみているためだ。
それよりも空軍が深刻に受け止め、すでに戦力に影響を与え始めている問題が2つあるという。
一つは、経験豊富なパイロットの流出が続いていること。
もう一つは、現在主力となっている中距離空対空ミサイルが、中国軍の新型ミサイルに対して性能面で不利になりつつあることだ。
台湾空軍は現在、F-16Vブロック20を139機保有している(写真)。今後、新造のブロック70を66機導入すれば、F-16Vの保有数は計205機となる。(資料写真、柯承惠撮影)
ベテランパイロットが流出 空対空ミサイルでも中国との差 この空軍関係者によると、台湾空軍は新造F-16Vブロック70の66機を受け入れるため、台東基地に新たな戦闘機聯隊を設置する計画だ。国防部の現在の算定基準では、単座型56機、複座型10機の計76座席に対し、114人の飛行要員が必要になる。
しかし現在、最も頭を悩ませているのが、新型機がようやく到着し始めた一方で、経験豊富なパイロットの退役が増えていることだ。
この関係者によると、台湾空軍の「コックピット比率」、つまり戦闘機の座席数に対するパイロット数は1.5を下回っている。
米空軍では2.0以上で、3機あたり少なくとも6人のパイロットがいる計算になるのに対し、台湾では3機あたり約4人にとどまるという。
より深刻なのは、ベテランが退役すれば、若手や新任パイロットを指導し、実戦的な経験や戦技を引き継ぐ人材も減ることだ。
その結果、訓練や戦技の質を一定の水準に保つことが難しくなる。
空軍関係者は、パイロット不足やベテランの引き留めについては、給与の引き上げや福利厚生の充実、勤務負担の軽減といった制度面の見直しによって改善でき、台湾側が一定程度コントロールできる問題だと話す。
これに対し、空対空ミサイルの性能差は、空戦でパイロットの生死そのものを左右する問題であり、海外からの調達に頼らざるを得ない。
購入できるのか、必要な数量を確保できるのか、いつ納入されるのかといった複数の問題が絡む。
この関係者は、現在の台湾空軍のF-16Vを一人の騎士に例える。
優れた馬であるF-16Vに乗り、AESAレーダーや電子戦装備という強力な防具をまとっている。
しかし、戦場で手にしている「槍」にあたる中距離空対空ミサイルが相手より短ければ、敵に十分近づく前に攻撃され、不利な戦闘を強いられるという。
現代の空戦では、目視できない距離から交戦するBVR(視程外)戦闘が主流となっている。
2025年5月のインドとパキスタンの空中戦では、パキスタン空軍の中国製J-10戦闘機がPL-15空対空ミサイルを使用し、インド空軍のフランス製ラファールを含む戦闘機を撃墜したことが、その後の米当局者や関係者への取材で明らかになった。
ロイター通信のその後の取材では、ラファールを撃墜したPL-15は約200キロ離れた地点から発射されたとのパキスタン側の説明があり、インド側関係者はさらに長い距離だった可能性を示している。
正確な交戦距離にはなお不確定な部分が残るものの、記録上でも最長クラスの空対空交戦だったとみられている。
ある軍事事情に詳しい関係者によると、PL-15は現在、人民解放軍のJ-20やJ-16など主要戦闘機の重要な空対空兵器となっている。
中国軍向けPL-15の正確な性能は公表されていないが、公開情報では射程200キロ以上と推定されている。
また、AESA方式のアクティブ・レーダー・シーカーやデータリンク、デュアルパルス式ロケットモーターを備えるとみられ、長距離から目標を攻撃する能力を重視した兵器とされる。
2025年5月7日の印パ空中戦では、パキスタン空軍のJ-10C戦闘機(写真)が中国製PL-15空対空ミサイルを使用し、インド空軍のラファール戦闘機を撃墜したとされる。ロイター通信によると、交戦距離は約200キロ、あるいはそれ以上だった可能性がある。(資料写真、パキスタン空軍より)
中国PL-15に対抗 台湾が導入するAIM-120C-8 軍事事情に詳しい関係者によると、台湾空軍のF-16Vが現在主力として運用している中距離空対空ミサイルは、依然としてAIM-120C-5やC-7だ。
これらはPL-15より射程が短いとみられ、最新型AMRAAMに比べ、データリンク機能などにも制約があるとされる。
この関係者によれば、F-16VがAIM-120C-5やC-7を発射した後は、基本的に発射した機体から中間誘導のための情報を送る必要がある。
そのため発射後すぐに戦闘空域から完全に離脱すれば、ミサイルの命中確率が低下する可能性がある。
一方、PL-15のような長射程ミサイルを相手にすれば、台湾側のF-16Vは相手の射程内に入りながら、自らは十分に反撃できないという不利な状況に置かれかねない。
特に、長射程に加えて高度なレーダー・シーカーや終末段階での高速飛行能力を持つとされるPL-15は、ブロック20、ブロック70のいずれのF-16Vにとっても重大な脅威になるという。
台湾軍上層部も、既存のAIM-120C-5やC-7だけでは、台湾海峡をめぐる新たな航空戦の環境に十分対応できないとの認識を持っている。
米国務省は2023年3月、台湾に対し、AIM-120C-8先進中距離空対空ミサイル(AMRAAM)200発などを含む軍需品の売却を承認した。
AIM-120C-8はAIM-120Dとは別の派生型で、AMRAAMシリーズの輸出向け最新型の一つに位置づけられる。
正確な最大射程は米政府から公表されていないが、公開情報では160キロを超える能力を持つと推定されている。
AIM-120C-5やC-7に比べ、誘導・電子機器なども更新されており、長距離交戦能力が強化された。
軍関係者によると、台湾が調達したAIM-120C-8は順次納入が進められており、F-16V部隊への配備も進んでいるという。
台湾空軍のF-16Vが現在運用する中距離空対空ミサイルAIM-120C-7(写真)。中国軍向けPL-15より射程が短いとみられ、長距離の視程外戦闘への対応が課題となっている。(資料写真、劉偉宏撮影)
高強度の空戦なら「200発は1、2日で尽きる」 空軍関係者が懸念 空軍関係者によると、F-16Vブロック70の引き渡しが進むにつれ、AIM-120C-8の納入も今後進むとみられる。
ただ、台湾空軍が新旧合わせて最大205機のF-16Vを運用する体制を目指すのに対し、すでに受け取ったC-8の数はまだ多くないという。
現在任務に就くF-16Vは主としてAIM-120C-5やC-7を搭載し、必要に応じてC-8を組み合わせる形になっているという。
人民解放軍によるグレーゾーンでの活動から偶発的な衝突が起きた場合には対応できるとしても、台湾海峡で高強度の空戦が発生すれば、仮に200発すべてが揃っていたとしても「1、2日で使い切る可能性がある」と、この関係者は懸念する。
この空軍関係者は、中国製戦闘機やミサイルを運用するパキスタン空軍が2025年の印パ空中戦で示した戦い方を参考に、将来の台湾海峡で想定される一つのシナリオを挙げる。
その想定では、人民解放軍がKJ-500早期警戒管制機を福建省上空などで運用し、台湾海峡で活動する台湾軍機や、台湾西部の基地、花蓮・台東の基地から離陸する航空機の動きを監視する。
そしてデータリンクを通じ、福建沿岸側で行動するJ-20やJ-16などに目標情報を送り、PL-15を用いて150~200キロ級の距離から攻撃を仕掛けるという。
KJ-500の探知距離など詳細な能力は公開されていないが、軍事関係者の分析では数百キロ規模の広域監視能力を備えるとみられている。
もし台湾側のF-16VがAIM-120C-5やC-7を中心に搭載していれば、射程面の不利から十分な反撃が難しく、電子戦システムなどを利用して攻撃を回避することが中心になる可能性がある。
これに対し、AIM-120C-8を搭載し、さらに高度な電子戦装備、地上レーダー、早期警戒機などから情報支援を受けられれば、敵ミサイルを回避した後に反撃の機会を得られる可能性が高まるという。
人民解放軍のKJ-500早期警戒管制機(写真)。詳細な性能は公表されていないが、数百キロ規模の広域監視能力を持つと分析されており、長距離の視程外戦闘を支える重要な情報・指揮統制基盤となる。(資料写真、中央社)
機体より少ない最新ミサイル 強力なF-16Vを生かせるか 一方、別の軍事事情に詳しい関係者は、AIM-120C-8が台湾空軍の戦力向上にとって極めて重要で、パイロットの生存性にも関わるにもかかわらず、なぜ台湾軍が当初200発しか調達しなかったのかと疑問を呈する。
台湾空軍が2000年代以降に導入してきたAIM-120C-5やC-7については、少なくとも400~500発程度の在庫があるとこの関係者はみており、より新しいC-8への置き換えを一段と進めても不自然ではないと主張する。
米国側が大量売却に慎重なのか、それとも台湾軍側の調達判断が保守的だったのか、という疑問だ。
軍事関係者は、脅威の切迫度を比較すれば、米軍などNATO軍が展開するドイツと台湾のどちらがより直接的な航空脅威にさらされているのか、と疑問を投げかける。
航空戦力の規模を比べても、ドイツ空軍は多数のユーロファイターを運用する一方、F-35Aを35機調達している。
それでも米国が承認したC-8の数は台湾の約5倍だ。
この関係者は、台湾空軍が強力な航空機を手にしながら、それに見合う最新の長射程空対空ミサイルを十分に確保できていない状態を、「牙のない虎」に例える。
軍の武器調達事情に詳しい別の関係者は、その背景には米国側の政策判断があると説明する。
台湾軍としては、必要な兵器を一度に調達できるなら当然その機会を利用したい。
しかし米国の台湾向け武器売却では、先進装備を段階的に供与する方式が長く取られてきたうえ、中台間の軍事バランスも考慮されてきたという。
2020年以前、人民解放軍空軍の主力戦闘機ではPL-12やロシア製R-77などの中距離空対空ミサイルが広く使われていた。
この関係者によれば、当時は台湾が国産の経国号戦闘機(IDF)に搭載する天剣2型中距離空対空ミサイルや、F-16用のAIM-120C-5、C-7でも一定の対抗が可能だった。
さらに当時は、台湾のF-16A/Bブロック20をF-16V仕様へ改修する事業がまだ進行中で、新造F-16Vブロック70も到着していなかった。
このため米側からみれば、より新しいAMRAAMを早い段階で台湾へ大量に売却する必要性は低かったという。
軍関係者は、米国の台湾向け武器売却は従来から段階的に進められ、中台間の軍事バランスも考慮されてきたと指摘する。写真は戦力温存のため台東の志航空軍基地へ移動する台湾空軍のF-16V。(資料写真、張曜麟撮影)
台湾海峡の航空戦力バランスに変化 次世代AIM-260はまだ遠い では、なぜ台湾へのAIM-120C-8売却は200発にとどまったのか。
この軍関係者は、最新兵器を一度に大量供与するのではなく、段階的に売却すること自体が、米国の対台湾武器供与では珍しくないと指摘する。
加えて、AIM-120C-8はAMRAAMシリーズの輸出向け最新型の一つであり、生産能力には限界がある。
米軍自身やNATO加盟国を含む同盟・友好国からの需要も大きい。
近年、人民解放軍ではJ-20やJ-16などの先進戦闘機の配備が進み、PL-15の運用も広がっている。
この関係者は、台湾海峡をめぐる航空戦力のバランスが以前より台湾側に厳しくなっているからこそ、米国も台湾へのC-8供与を認めたとみる。
台湾軍は今後も空対空兵器の更新を進める方針であり、この関係者は、今後数年間でC-8によるC-5やC-7の置き換えがさらに進む可能性があるとみている。
ただし、米軍が中国の新世代長射程空対空ミサイルへの対抗手段として開発してきた次世代兵器は、AIM-120C-8ではない。
それが、ロッキード・マーチン製のAIM-260統合先進戦術ミサイル(JATM)だ。
米国防当局とロッキード・マーチンは2026年9月、AIM-260の生産能力と納入を大幅に拡大するための枠組み合意を締結した。
AIM-260は既存の空対空ミサイルより射程や交戦能力を高めた次世代兵器とされるが、具体的な射程や性能の多くは機密扱いで、公表されていない。
台湾空軍が短期間のうちにAIM-260を入手できる可能性は高くないと、この軍関係者はみる。
一方、米軍でAIM-260の生産が本格化すれば、AMRAAMの生産・配分に余裕が生まれ、台湾向けにより多くのAIM-120C-8を供給できる可能性もあるという。
ただ、別の軍事事情に詳しい関係者は、台湾空軍のすべてのF-16VがAIM-120C-8を使って長距離交戦できる体制を整えることは、あくまで短期的な最低目標にすぎないと指摘する。
中国はPL-15に加え、長射程のPL-17をすでに運用しているとみられ、PL-16と呼ばれる新型についても、配備が始まりつつあるとの分析がある。
こうした中国側の新型ミサイルの性能には未公表の部分も多いが、台湾空軍が台湾海峡上空で一定の抑止力を維持するには、AIM-120C-8の十分な数量を確保するとともに、将来的にはAIM-260のような次世代空対空兵器の導入を米国側に働きかけていく必要があると、この関係者はみている。