台湾では電力需要が増加を続けている。AIや半導体産業の急速な発展を背景に、「電力は計算力であり、国力でもある」との認識が強まるなか、台湾最大の電力供給事業者である台湾電力(台電)にとって、電源開発は大きな課題となっている。
こうしたなか、裁判所は8日、台中発電所のガス火力第2期計画をめぐり、環境影響評価の審査手続きや判断基準に瑕疵があったとして、環境影響評価の審査結果を取り消す判決を下した。これにより、当初予定されていた発電所拡張計画に不透明感が生じている。
台中発電所のガス火力第2期計画をめぐる環境影響評価の審査結果が裁判所に取り消されたほか、前月には興達発電所第2期計画の環境アセスメントも審査が継続となった。さらに、協和発電所の更新・建て替え計画では環境アセスメントに約7年を要した。
近年、台湾では発電所建設に必要な期間が当初の想定を上回るケースが相次いでいる。こうした状況下で、いかに安定した電力供給を確保するかが、台電にとって避けて通れない課題となっている。
台中ガス火力第2期、環境アセス審査結果を裁判所が取り消し 上訴か再審査か 台湾中部の電力供給と石炭火力削減目標を左右する台電の「台中発電所第2期新規ガス火力発電設備計画」をめぐり、先週の裁判所判決によって計画に不確実性が生じた。
台北高等行政法院(高等行政裁判所に相当)は、環境部(環境省に相当)が同計画について行った環境影響評価で、判断や審査基準に瑕疵があったとして、審査結果を取り消した。
「台中発電所第2期新規ガス火力発電設備計画」をめぐる環境影響評価の審査結果は、裁判所の判決で取り消された。(資料写真、台中市政府提供) 裁判所が環境影響評価の審査結果を取り消した背景には、地域住民や環境保護団体による訴えがある。
住民らは、2024年に第1段階の環境影響評価を通過し、第2段階の環境影響評価を実施しないとした審査過程が拙速だったと主張していた。
判決理由では、同計画が新たなガス火力発電設備の建設を中心とする一方、既存の石炭火力設備6基を予備電源として残す計画であることが指摘された。
裁判所は、環境部が審査の過程で、石炭火力とガス火力が併存して稼働する場合の大気環境や地域環境への総合的な影響を十分に評価していなかったと判断した。
さらに、工事期間中の汚染に関する評価基準に誤りがあったほか、天然ガスの輸送・貯蔵過程で生じる可能性があるメタン漏出など、温室効果ガスに関するリスクについて具体的な評価や対応策が十分に示されていなかったとした。
一方、裁判所は、原告側が求めていた「第2段階の環境影響評価を継続して実施するよう命じること」については認めなかった。
判決を受け、環境部は、審査手続きは法令に基づいて適正に行われたとの立場を示した。当時の第1段階の環境影響評価では十分かつ実質的な議論が行われており、専門的判断にも問題はなかったとしている。
台電の黄美蓮報道官は取材に対し、台電は司法判断を尊重するとした。
判決文を受領後、新たな資料の補充や争点をさらに明確化する必要があるかを慎重に検討するという。
第1段階の環境影響評価の結果は、その後の専門審査の進捗や事業の実施時期、大気汚染物質削減の実効性にも直接影響することから、台電は環境部の今後の対応や必要な評価作業を全面的に支援する方針を示している。
一方、環境保護団体は環境部と台電に対し、住民の意向を踏まえて上訴を断念し、より厳格な第2段階の環境影響評価へ移行するよう求めた。
環境保護団体は、環境影響評価では地域の環境収容力も考慮すべきだとし、第2期ガス火力計画の設備容量を2600メガワット(MW)へ引き下げるよう提案している。
また、第1期計画の環境影響評価で示した約束と同様に、予備となる石炭火力設備の稼働条件や、運用終了時期を明確に定めるよう所管当局に求めている。
台中第2期に続き、興達発電所第2期も環境アセス難航 台電による発電所の更新・建て替え事業が難航しているのは、台中だけではない。
9月初旬に開かれた興達発電所第2期計画の環境影響評価に関する専門委員会でも、地元住民から強い反発が起きた。
これまで台電を支持してきた里長(町内会長に相当)らも相次いで反対に転じている。その背景には、第1期工事をめぐる安全上の問題やガス爆発事故に対する地域住民の懸念がある。
台電は当初、ハイテク産業の発展や台湾南部の電力需要の増加に対応するため、既存の発電所敷地内に2基のガス・コンバインドサイクル発電設備を新設し、合計280万キロワットの発電能力を確保する計画を立てていた。
しかし、環境影響評価の審査当日には地元の里長や住民らが台北まで出向いて抗議した。
住民側は、第1期工事に伴う住宅の損傷や騒音、安全上の問題が現在も十分に解決されていないと訴え、「第1期の問題すら解決していないのに、なぜ第2期を建設するのか」と反発した。
台電に既存の問題を先に解決するよう求め、それが実現しなければ第2期計画には反対するとの姿勢を示している。
台湾電力は当初、既存の発電所敷地内にガス・コンバインドサイクル発電設備2基を新設し、総設備容量280万キロワットを確保する計画だった。(資料写真、台湾電力提供) 事前に公表された計画によれば、興達発電所第2期計画は、将来の台湾南部における電力需要に対応するための重要な電源整備事業と位置づけられている。
半導体、AI、ハイテク産業の発展によって南部の電力需要が今後も増えると見込まれることから、地域内の発電能力をあらかじめ整備し、安定供給を確保する必要があるというのが台電側の説明だ。
しかし、発電所に最も近い地域の住民にとって、この計画は将来の電力需要だけの問題ではない。過去の工事によって地域が負担してきた生活への影響と直結する。
住民は環境影響評価の審査で、第1期工事中に周辺住宅で深刻なひび割れやタイルの剥落が発生したと涙ながらに訴えた。
過去の問題が解決されないまま第2期工事に進むことは受け入れられない、というのが住民側の立場だ。
環境アセスに7年、協和発電所にみる電源開発の長期化 新たな発電所開発が当初の想定より遅れるなか、特に長期間を要したのが、台湾北部・基隆市にある協和発電所の更新・建て替え計画だ。
2017年末に計画が提出されて以降、2025年までに6回の専門委員会審査を経た。計画案も3度変更され、第2段階の環境影響評価を経て承認に至った。
環境影響評価に要した期間は、近年の台湾の発電所計画の中でも最長となった。
環境影響評価の長期化によって、協和発電所の新たなガス火力1号機が稼働できるのは早くても2032年、2号機は2034年になる見通しだ。
一方、台湾北部では電力供給がすでに逼迫しており、とりわけ北部・東部の電力網が抱える供給上の負担は、南部や西部からの電力融通だけでは対応できない状況にある。
環境影響評価の審査過程では、環境保護団体や地域住民、審査委員から、海洋生態系、埋め立て、土壌汚染などの問題について相次いで懸念が示された。
こうした議論によって審査期間は繰り返し長期化し、昨年2月になって、環境影響評価の本審査で台電に関連事項の補足・修正を求めたうえで、協和発電所の更新・建て替え計画が承認された。
発電所計画が相次ぎ難航、台電はどう対応するのか 台電による新たな発電所計画が環境影響評価によって相次いで遅れ、将来の電力供給の安定性への懸念が高まるなか、台湾では以前から「半導体産業も自ら電力供給源の確保を考えるべきではないか」との議論が出ていた。
台電の曾文生董事長(会長に相当)は、数カ月前に国際半導体製造装置材料協会(SEMI)と意見交換した際、世界の大手テクノロジー企業がすでにエネルギーを将来の価値を測る重要な要素と捉えており、半導体製造やサプライチェーンを支える最も重要な要素の一つが電力だと述べた。
これまで台湾の電力利用者には、「申し込んで料金を支払えば電力を使える」という認識が一般的だった。
しかし現在、電力は単に公共事業者が一方的に供給するだけのものではなくなりつつある。
曾氏によると、台電内部でも電力供給の考え方を変えようとしている。
産業の高度化に合わせて発電所を次々と建設するだけではなく、テクノロジー業界とともに、財務面やサプライチェーンとの連動、再生可能エネルギーの調整について考える必要があるという。
台湾電力の曾文生董事長(会長に相当)は、電力供給のあり方を見直し、産業の高度化に合わせて発電所を次々と建設するだけではない新たな供給モデルが必要だとの考えを示している。(資料写真、顔麟宇撮影) 曾氏は、AIの発展に対応するため、台湾の天然ガス発電設備への投資規模は2024年に中国、米国に次ぐ世界3位となり、2025年も中東や東南アジア諸国の投資が増えるなかで世界6位だったと説明した。
現在、台電が確保している電力供給資源と発電設備の建設ペースを踏まえれば、国内の半導体産業やAIデータセンターの増加する電力需要には十分対応できるとの認識を示している。
従来の電力事業では、長期的な投資計画に10年程度を要することも珍しくなかったが、現在のテクノロジー産業では投資判断の期間が3~5年に短縮されている。
企業がRE100(事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際イニシアチブ)の達成時期を2035年、2040年、2050年のどこに設定するかによっても、必要となる電力供給や調達のシナリオは大きく異なる。
さらに、台電が取引する再生可能エネルギー事業者は、かつて10社未満だった独立系発電事業者(IPP)中心の構造から、現在では数百社規模の事業者を抱える構造へと変化した。契約数も約100倍に増えているという。
曾氏は、今後の電力供給のあり方は台電だけで決めるのではなく、供給側と需要側が共同で判断していく必要があると強調する。
台電はエネルギー関連展示会やフォーラムを通じて産業界との対話を深め、多様で新しいビジネスモデルや市場メカニズムを活用しながら電力事業の転換を加速し、台湾の半導体・ハイテク産業の国際競争力を維持したいとしている。
一方、半導体受託生産世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)に自前で発電所を建設させるべきだとの議論について、黄氏は、現在はまだ概念的な議論の段階にあり、電力供給の責任を企業側に直接負わせる考えではないと説明した。
台電は引き続きハイテク産業と電力資源の配分について協議しているという。
安定供給を確保するため、台電は今年、合計520万キロワットの新たな発電設備を稼働させる予定で、2035年までにはさらに2600万キロワット分の設備を追加する計画だ。
既存の従来型発電設備についても、通常運用を終えた後、緊急時の予備電源として活用し、電力需給の調整に支障が生じないようにする方針だ。
専門家「公共事業が特定産業を支えるのか、議論が必要」 台電が、公共事業による電力供給を特定産業の需要にどこまで対応させるべきかという問題を提起したことで、公営企業の責任のあり方も議論になっている。
専門家は、現在、台電の負債が3000億台湾元を超える一方、今後、半導体や電子産業の需要に対応するための発電所建設には8000億台湾元近い費用が必要になると指摘する。
現在の台電にとって大きな負担であり、公共事業としての本来の役割を改めて考える必要があるという。
専門家によると、公営企業には、国民や産業、すべての電力需要家の需要に応える責任がある。
一方、台電がこの問題を社会に提示し、各界に議論を促していることは、同社が自らの財務問題に積極的に向き合おうとしている姿勢として評価できるとした。
ただし、現在の赤字が政府の政策を担った結果生じたものである以上、その赤字の解消や将来の投資については、台電だけに負担を負わせるのではなく、政府も責任を持って対応すべきだと指摘している。
これまで産業界の電力需要、とりわけTSMCが工場用地を選定する際には、政府が安定した電力供給を積極的に保証してきた経緯もある。
このため、今後も政府が調整役を担うことが最も現実的であり、最終的に「利用者負担」の考え方を取り入れることができれば、関係する各主体にとって利益のある仕組みになり得るとしている。