日本のサイバー被害607件、9カ月で前年通年超え トレンドマイクロが100億円相当支援
トレンドマイクロ台湾・香港地区ゼネラルマネージャー、洪偉淦氏は、AIがコンピューティングやセキュリティ産業そのものに革命的な変化をもたらしていると指摘。今後の企業における保護対象はAIが中心となり、防御手法も従来とは大きく異なるとの見方を示した。(撮影/魏鑫陽)
日本企業がサイバー攻撃の被害に遭うケースが増加の一途をたどっている。トレンドマイクロ(東証:4704)の指摘によると、日本で2026年1〜9月に公表された事件発生数は607件に上り、2025年通年の594件を上回った。
9月単月でも86件発生しており、8月比で約18%増加した。攻撃頻度の高まりや、大企業からサプライチェーンへとリスクが波及する現状を受け、同社は「日本サイバーレジリエンス計画」の立ち上げを発表した。最大100億円相当の製品利用ライセンス枠を提供するとともに、専門家によるサービスを組み合わせ、日本企業および個人の防御力強化を支援する構えだ。
トレンドマイクロによると、同計画の初期段階では重要インフラストラクチャーや大企業、さらにそのサプライチェーンに属する中小企業を優先して支援し、その後は組織のニーズや要件、利用可能なリソースに応じて段階的に推進していく。同社は販売パートナーやシステムインテグレーター(SIer)、マネージドサービスプロバイダー(MSP)と連携し、要件を満たす組織はパートナーを通じて最大10日間の専門サービスを無料で受けることができる。
サーバーやサプライチェーンに拡大するリスク
トレンドマイクロ傘下の脅威リサーチチーム「TrendAI」は、2026年1~9月に日本で公表されたサーバー攻撃発生数がすでに前年通年を超えたと指摘する。日本の自由民主党(自民党)・国家サイバーセキュリティ対策本部長も先日、サイバー空間は「有事」にあると表現した。直近でも、日本の小売、金融サービス、カーシェアリング、鉄道事業関連企業でサイバー攻撃の被害が相次ぎ、数百万人の顧客データに影響が及んでいる。
トレンドマイクロのインシデント・レスポンス(IR)チームが最近の動向を分析したところ、攻撃者はインターネットに公開されているアプリケーションの既知の脆弱性を悪用し、ウェブサーバーにWebシェルを仕掛けて企業ネットワークへの侵入拠点を確保していることが判明した。その後、権限の昇格や内部システムでのラテラルムーブメント(横展開)、または接続されたデータベースへのアクセスを試みるもようだ。こうした攻撃は外部向けサービスの脆弱性を起点としており、迅速にパッチを適用しなければ、内部システムや顧客データに甚大な影響を及ぼす恐れがある。
TrendAIのフォワードルッキングスレットリサーチ共同責任者、ライアン・フローレス(Ryan Flores)氏は、最近の日本のサイバー事件にAIが直接関与しているとは限らないとしつつ、攻撃者による偵察や脆弱性分析の迅速化、多言語でのフィッシングコンテンツ作成をAIが支援し、攻撃の規模拡大を容易にしていると指摘する。「組織はアタックサーフェス(攻撃対象領域)を縮小し、脆弱性を修正して攻撃を受ける確率を下げる必要がある」とフローレス氏は強調する。
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また、同社のリサーチディレクター、ロバート・マッカードル(Robert McArdle)氏は、最近の事件についてサイバー犯罪活動のピークと見なすべきではなく、今後の新たな常態(ニューノーマル)となる可能性があると警鐘を鳴らす。攻撃の量、速度、持続性はいずれも深刻化する公算が大きい。これに対しトレンドマイクロは、企業向けサーバーやアプリケーション、クラウドサービスの脆弱性の整理と修正を優先するとともに、サーバーの書き込み権限の制限、データベースの異常アクセスの監視、さらにサプライヤーのインシデント通知やサービス復旧に関する能力の再評価を実施するよう推奨している。
エンジニアの派遣、MDRサポート提供も
「日本サイバーレジリエンス計画」の柱の一つは、最大100億円規模となる「TrendAI Flex」の利用ライセンス枠を提供し、要件を満たす日本の組織が「TrendAI Vision One」プラットフォームを導入して既存の防御態勢を拡大、更新できるよう支援することにある。提供枠は製品ライセンスであり、現金による支援ではない。対象となる組織、提供枠の割り当て方法、交換条件、およびパートナーの参加方法については、計画の進展に伴い別途発表される予定だ。
ライセンスの提供に加え、トレンドマイクロは最前線にデプロイメントエンジニアや技術専門家を派遣する計画も立てている。参加組織のセキュリティエクスポージャーの評価、脆弱性の特定、リスク改善の優先順位付けを支援し、防御機能の展開を加速させる狙いがある。初期段階におけるエンジニアリングサービスは、国家の重要インフラ、経済活動、サプライチェーンに関わる組織に優先して投入される。さらに、要件を満たす企業は、脅威の継続的な監視、インシデント調査、対応支援を含むManaged Detection and Response(MDR)のサポートも受けることができる。
トレンドマイクロの最高経営責任者(CEO)、陳怡樺(エバ・チェン)氏は、日本が同社にとって重要な基盤であると述べ、経済やインフラ、地域社会を支える組織や個人が直面しているサイバーセキュリティ課題に対し、自社がリソースを投入する責任があるとの認識を示した。「いかなる組織も、この課題に単独で立ち向かうべきではない」とチェン氏は語る。
中小企業や消費者も支援対象に
同計画は小規模企業や一般ユーザーも対象に含んでいる。トレンドマイクロは、日本の新規顧客向けに「Worry-Free Business Security Services」の60日間無料トライアルを提供するほか、LINE公式アカウントをはじめとする企業と顧客の接点において、AIを活用した詐欺検出機能の統合を推進する。関連するLINEサービスは現在協議および準備段階にあり、2026年末までに商用展開の準備を終える見通しだ。
消費者向けには、トレンドマイクロ傘下の「TrendLife」が、「Trend Micro ScamCheck」を90日間無料で利用できる特典を提供する。漏洩した個人情報を悪用した電話や電子メールなどの詐欺を識別できるよう支援するものだ。この特典は日本の顧客のみに適用され、2026年12月31日までに有効化する必要がある。
トレンドマイクロは、同計画を通じて顧客やパートナーと共同で参加状況を追跡し、セキュリティ対策の現代化の進捗状況と防御効果を検証していくとしている。攻撃対象領域が大企業からサプライチェーンへと拡大する中、リソースが限られている中小企業に当計画がどこまで実効性をもってリーチできるか、またライセンスや専門家サービスの実際の提供方法がどうなるかが、今後の推進効果を占う上での注目点となる。
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