7月末、中国の政府系シンクタンクや大学の研究者の見方がメディアで盛んに報じられた。中国が台湾を取り囲む大規模な「包囲演習」を前回実施してから半年がたつなか、下半期に再び大規模演習が行われる可能性は高くないというものだった。大規模演習はすでに効果が薄れ、コストも高いため、むしろコストが低く効果の大きい複合的な圧力を強める可能性があるとの見方だ。加えて、習近平国家主席は9月にワシントンでトランプ米大統領と会談する予定で、西側諸国と中国の関係も全体として安定し、管理可能な状態にあるとされていた。
しかし、分析には人民解放軍の視点や図上演習の想定も踏まえる必要がある。中国軍の関連文献を見ると、大規模演習には、上半期の各段階で各軍種が行った単独訓練や、海空合同訓練を含む複数軍種による統合作戦を総括し、さらには複数戦区による戦役レベルの統合作戦の経験と成果を高める意味がある。
ところが、それから3カ月もたたないうちに、中国軍は突然、空母を西太平洋での遠洋訓練に派遣すると発表した。これほど大規模な動きは、少なくとも当時の研究者の見立てには含まれていなかったようだ。
今回、中国軍の空母「遼寧」(艦番号16)を中心とする打撃群が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過して西太平洋に入った際、台湾側の対外発表は、4月20日に「遼寧」が台湾海峡を南下した際の対応と比べても、日本より一歩遅れた印象があった。
10月15日、台湾国防部(国防省に相当)が日中、記者団に「遼寧」の編隊が西太平洋で訓練していることを確認した。一方、日本側は前日の14日に「遼寧」など4隻が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋へ進出し、石垣島南方の海域で艦載機の発着艦を行ったことを公表。15日にはさらに、艦載戦闘機やヘリコプターの発着艦を約10回確認し、艦隊が南シナ海方向へ航行したことを明らかにした。台湾メディアの一部では、台湾側の発表の遅れを印象づける形になったとの指摘も出た。
同日の台湾側の記者会見は説明が簡略で、「遼寧」の映像記録を示した前回と比べ、筆者には前回ほどの確信が感じられなかった。一方、日本側は今回、「遼寧」など中国艦艇の写真と監視した航跡図を公表している。
筆者は学生時代、恩師から「文章は図表に及ばない」と教えられたことを思い出す。ただ、図表の作成は文章以上に手間がかかるため、一般には多用されない。ある程度整った図であれば、軍事の基礎知識が少しでもある人なら一目で状況を把握できる。公式サイトに適時掲載すればよく、必ずしも記者会見を開く必要はない。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
空母「遼寧」打撃群の遠洋訓練、「認知戦」で先手を取ったのは誰か
10月14日午前7時32分、中国人民解放軍海軍の微信(WeChat)公式アカウントは、「14日、中国人民解放軍海軍は空母『遼寧』の編隊を西太平洋の関連海域に派遣し、訓練を実施する。これは年度計画に基づく定例訓練で、部隊の実戦化訓練の水準を検証・向上させ、使命遂行能力を絶えず高めることを目的としており、関連する国際法と国際慣行に合致し、特定の国や目標を対象としたものではない」と発表した。
中国軍のこれまでの重大な軍事行動を見ると、海上の主力部隊が所定の位置に着いたり、兵器の試射などの軍事任務が一定の段階に達したりした時点で、対外発表を行うことが多い。
そこで筆者は、中国側の発表を見た時点で、次は日本側が「遼寧」の動向を先に公表するか、あるいは夜になって中国側が追加情報を出すのを待つことになると考えた。日本側が翌日まで情報を留保せず、その日のうちに公表することを期待するとともに、台湾側や国家安全会議の呉釗燮秘書長も同時期に情報を示すのではないかと注目していた。
実際、日本側は14日、「遼寧」と055型駆逐艦「鞍山」(艦番号103)、「無錫」(同104)、052D型駆逐艦「淮南」(同123)の計4隻が東シナ海から沖縄本島と宮古島の間を通過して太平洋へ進出し、石垣島の南約250キロの海域で艦載機の発着艦を行ったことを公表した。
翌15日には、艦載戦闘機と艦載ヘリコプターの発着艦を約10回確認したほか、4隻が南シナ海方向へ向かったことも明らかにした。
台湾では15日、国防部情報参謀次長室の潘俊光大佐が、同編隊が西太平洋に入ったと説明した。
一見すれば「遼寧」打撃群1個の動向にすぎない。だが、4月20日、5月19日、10月14日の中国艦隊の航行や準備、訓練の過程とその前後を比較すると、中国、台湾、日本の三者が世論・宣伝を含む「認知戦」で先手を取ろうとしていることが分かる(別表参照)。
そのなかで筆者は、台湾以西については台湾側の情報把握と発表が比較的充実する一方、台湾以東から西太平洋にかけては、日本側の把握と情報公開がより充実しているとみる。日本側が西太平洋で継続的に警戒監視・情報収集を行っていることが背景にあると考えられる。

「遼寧」は西太平洋へ、ソブレメンヌイ級駆逐艦は台湾海峡を急速南下
最近、中国のある軍事専門家は、台湾国防部が発表する中国艦艇の隻数には「遼寧」打撃群の4隻が含まれており、これまでは明示的に公表していなかっただけだとの見方を示した。
しかし、その指摘が全面的に正しいとは限らない。筆者は毎日、台湾周辺海域における中国軍機・艦艇の数の変化と、その他の関連情報を注視している。
10月9日の中国メディアの報道によると、軍と地方による「双擁」の取り組みを深め、国防教育を進め、軍と政府、軍と住民の団結を強化するため、中国海軍の駆逐艦「福州」が初めて福州に「里帰り」し、「軍艦の帰郷」と銘打った都市と艦艇の交流行事を行うことになった。
16日から18日まで福州市馬尾区の青州作業区埠頭で、「福州」、巡視船「海巡06」、救難船「東海救助115」が一般公開され、市民に予約を呼びかけた。14日には「福州」が入港したと報じられている。
台湾国防部の発表と照らし合わせると、中国艦艇は13日が6隻、14日が10隻、15日が9隻だった。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
浙江省舟山を拠点とする東部戦区海軍第3駆逐艦支隊の956E型駆逐艦「福州」(艦番号137)が台湾正面の海域に入っていなかったとすれば、13日の6隻に「遼寧」打撃群4隻を加えると14日の10隻となり、数はかろうじて合う。
しかし、14日に「福州」が馬尾港に入ったのであれば、15日の中国艦艇数は10隻に戻るはずだが、実際の総数は9隻だった。
また、13日から15日にかけて中国の公務船は6隻から7隻に増えた。これは筆者の予想とも合致した。「海巡06」はもともと福州を拠点としている一方、「東海救助115」は上海市に所属するためだ。
このため、筆者は「福州」と「東海救助115」が上海・舟山方面から台湾海峡を北から南へ航行し、福州の馬尾港に入った可能性があるとみている。
19日午前9時26分の台湾国防部の発表では、18日の中国艦艇は6隻と平常の水準に戻ったようにみえる一方、公務船は9隻に増えた。
科学調査船「海洋地質8」「北調996」「探索3号」はそれぞれ高雄の南西、鵝鑾鼻の南西、花蓮の東方で活動しており、中国の科学調査船による活動が今後頻繁になるという筆者の以前の推測とも一致する。
中国の軍事専門家も、実は中国軍の演習を把握していない
10月11日以降、メディアは、頼清徳総統の国慶日(双十節)演説後、中国の北部、東部、南部の各海域を所管する海事当局が、12日から17日にかけて渤海、黄海、浙江省東部沖、南シナ海などで実弾射撃訓練を実施すると発表したと報じた(別図参照)。

同じ11日、中国国防部は「国防部報道官、頼清徳氏のいわゆる『双十』演説について記者の質問に答える」と題する談話を公表した。
その末尾では、「近年、民進党当局は一党の私利のために『独立』を図って統一を拒み、外国にこびへつらい、いわゆる『全民皆兵』『全台戦場』を強引に推し進め、台湾の人々を『台湾独立』の戦車に縛り付け、台湾海峡の安定を損ない、台湾の未来を犠牲にしている。解放軍が台湾島周辺で常態的に演習・訓練を行っているのは、『台湾独立』の妄動と『外部干渉』の企図を抑止し、台湾の民衆の安全と福祉を守るためであり、当然のことで、非難されるいわれはない」と主張した。
各方面はこれを前述の実弾射撃訓練と結びつけて解釈したが、筆者はむしろ、「解放軍が台湾島周辺で常態的に演習・訓練を行っている」という一文の裏にある警告を十分に読み取っていなかったとみている。後述する分析もこの点と関係する。
11日以降、台湾国内の各政治的立場のメディアコメンテーターや退役将官、中国の軍事専門家らは、12日から17日に中国沿岸沖で行われた大半が定例の小規模実弾射撃と、一部の実装備を用いた作業、軍事訓練・活動を、頼総統を対象としたものと受け止めた。
しかし筆者は、これらは年度計画に基づく定例の軍事訓練だったとみている。中国の軍事専門家自身も、その実態を十分に把握していなかったのではないか。
また15日には、中国のある軍事専門家が「御用カメラマンが完全に失敗!WZ-7が列島線を横断、日本の航空自衛隊F-15Jは全力を尽くしても手も足も出ず」とする趣旨の報道を行った。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
この報道は、中国軍の高高度無人偵察機がより高い高度を飛び、日本の戦闘機がそれ以上に上昇できないため、従来とは異なり中国軍の無人機を下方から撮影する形になった、と中国側の能力を強調するものだった。
しかし筆者は、この軍事専門家が用意された原稿を読み上げているだけではないかと疑っている。
その専門家は、中国軍の高高度無人偵察機WZ-7が東シナ海から台湾と与那国島の間を南下して西太平洋に入ったとしている。
しかし、日本側が14日に公表した情報によると、東シナ海から台湾と与那国島の間を通過して太平洋へ進出したのは推定中国無人機1機だった。一方、Y-9情報収集機とWZ-7偵察型無人機は東シナ海上で活動していた。
日本側の概略図では、それぞれの航跡が別々に示されている。WZ-7の航跡は沖縄本島の西方にあり、「東シナ海から台湾東方を南下した」という説明とは一致しない。
筆者はこの報道を見て、冒頭から前提が誤っているので、その先を読む気にもならなかった。大学院時代、教授から「脚注を間違えていれば、その先は読まなくていい」と言われたのと同じような意味である。
「遼寧」通過の浙江東方空域で、日中の電子戦をめぐる攻防
日本側は15日、日本周辺の安全保障環境が一層厳しさを増していることを踏まえ、自衛隊と米軍が共同訓練を実施したと発表した。
日本側は、この訓練を通じ、日米が力による一方的な現状変更を許さないという強い意志を改めて示すとともに、自衛隊と米軍の即応態勢を示し、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化したとしている。
14日には、航空自衛隊第9航空団のF-15戦闘機2機、E-767早期警戒管制機1機と、米軍のF-22戦闘機4機が、沖縄本島北西の東シナ海上空で各種の戦術訓練を行った。
一方、日本側によると、14日午前には推定中国無人機1機が東シナ海から台湾と与那国島の間を通過して太平洋へ進出した。Y-9情報収集機とWZ-7偵察型無人機は東シナ海上で活動した。
筆者は、Y-9やWZ-7の機種、任務特性、能力を踏まえると、中国側が日米の軍事力に対し、各種レーダーや装備の電子的な諸元の収集、通信傍受などの情報収集を行っていた可能性があるとみる。
また、WZ-7については、北部戦区海軍の「遼寧」打撃群が任務航路を航行する間、海空目標の監視を支援していた可能性もある。
日本側が捕捉した中国軍無人機の航路を台湾国防部が公表した中国軍機の動向概略図と照らし合わせると、14日午前7時55分から午後4時35分にかけて、無人機1機が尖閣諸島(中国名・釣魚島、台湾名・釣魚台)の北から南下し、台湾東方の空域を経て台湾の防空識別圏(ADIZ)の南東縁から南縁へと移動したようにみえる。
さらに台湾の東から南西へ回り込み、金門の南方空域を経て中国大陸に戻った可能性がある。18日時点でも、中国艦艇1隻が尖閣諸島の北方に展開していた。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
以上から筆者は、「遼寧」打撃群が山東省青島を出港し、黄海を経て東シナ海へ進出したのと前後して、浙江省東方から日本の南西諸島周辺の空域では、日中双方の早期警戒・情報収集活動が展開され、電子戦を意識した攻防の様相を呈していたとみている。
15日午後には、Y-9情報収集機1機が引き続き鹿児島県南西から沖縄本島西方にかけての東シナ海上空で活動した。
筆者は、日本が3月に熊本県の健軍駐屯地へ配備した25式地対艦誘導弾など、九州方面に展開する自衛隊装備について情報収集していた可能性もあるとみている。25式地対艦誘導弾は長射程のスタンド・オフ・ミサイルで、射程は約1000キロに及ぶとの報道もあるが、防衛省は具体的な射程を公表していない。
また、日米共同統合演習「キーン・ソード27」に関連して、佐賀や長崎でも日米の装備が展開されると伝えられている。
日本側が保有する長射程ミサイルとその配備位置は、黄海や東シナ海で活動する中国艦艇にとって重要な軍事的要素となる。
筆者は、中国側が江蘇省塩城北東の沿岸から沖合にかけて47日間にわたって行った実弾射撃訓練についても、近海防御を基礎として、各部隊が交代で展開し、ミサイル防衛、対艦、防空など各種兵器の試射を行う意味があったとみている。
さらに、中国軍の戦区区分と日本側が示した中国軍機の活動区域を踏まえれば、前述の中国軍機はいずれも東部戦区所属部隊から派遣された可能性がある。
「遼寧」の展開、日比のEEZ・大陸棚境界交渉を意識したものか
筆者は、漁業権と海洋権益、さらには主権をめぐる問題は相互に密接に関係すると考えている。
10月14日、「遼寧」艦隊は石垣島南方の海域に進出し、艦載機の発着艦訓練を行った。
この空母打撃群の展開位置について、筆者は、5月28日に日本とフィリピンが開始で合意した、両国間の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚の海洋境界画定交渉との関連も意識されている可能性があるとみている。
なお、台湾外交部はこの日比交渉について、国際法に基づき平和的な対話で海洋問題を解決することは台湾の一貫した立場と一致するとして評価する一方、台湾の領土と関連海域における権利は守られるべきだとの立場を示している。
筆者は、この問題についてすでに6月11日の拙稿「中国の国家級の軍・警察の巡航連動、日比の境界画定をめぐる動き」で論じているため、ここでは詳述しない。
今回の一見すると正確な位置取りについて筆者は、2022年8月初めに中国海軍の作戦艦艇が台湾南東海域へ展開し、2026年6月には中国海警局の船隊が常態的な巡航を続けるなか、10月14日には中国軍の空母打撃群が必要に応じて即応態勢を引き上げられる位置に進出するとともに、西太平洋における日米の軍事活動への対応を意識したものとみている。
「遼寧」艦隊が西太平洋へ進出した背景として筆者が注目するのは、近年、日本が与那国島、石垣島、宮古島などの南西諸島で対艦・防空能力の強化を進めていることだ。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
さらに、高市早苗首相は昨年11月の国会答弁で、台湾をめぐる有事について、武力行使を伴う事態に発展した場合には、日本の安全保障法制上の「存立危機事態」に該当する可能性があるとの認識を示した。一方で、実際に該当するかどうかは個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して判断するとの従来の立場も強調している。
中国側はこの発言に反発しており、筆者はこうした一連の動きも、中国が日本の南西諸島に対する軍事的圧力を徐々に高める背景の一つになっているとみている。
これに対し、「遼寧」が5月25日から29日にフィリピン東方から北北東の海域で活動・演習し、26日から28日にかけて計170回の艦載機の発着艦訓練を行った動きは、フィリピン側に圧力を加える意味合いが強く、今回とは性格が異なる。
今後、台湾の防空識別圏南東縁の海空域は、中国軍が大規模演習のたびに段階的に軍事力を投入し、活動を常態化させる重要区域になっていく可能性がある。
米日比などが第1列島線で中国との軍事的な競争を強めるなか、中国による台湾への軍事的な締め付けも一段と強まるだろう。
同時に、中国の日本やフィリピンに対する軍事的な反応も速くなっており、相手国からの抗議や米国の関与を以前ほど意識せず活動を拡大しているように筆者には映る。
「遼寧」打撃群の展開、与那国島への統合打撃を想定か
中国側は対外的に、「遼寧」艦隊の西太平洋での遠洋訓練について、年度計画に基づく定例訓練であり、特定の第三国を対象としたものではないと説明している。
だが筆者は、この説明をそのまま額面通りに受け取ってはいない。
こうした第1列島線を越える遠洋訓練では、事前に統合遠洋航海訓練や安全確保などの計画が策定され、想定される相手や訓練任務、性格、目的、訓練科目などが定められていると考えられるからだ。
筆者自身、人民解放軍に関するあらゆるテーマに精通しているわけではない。各種の公開情報や軍事書籍、中国軍関連文献などを読み比べ、総合的に分析することで判断している。
前回の4月20日、「遼寧」打撃群は、17日に海上自衛隊の護衛艦「いかづち」が母港の横須賀から西へ向かい、日本の南西諸島付近を通過したのを追うように南下した。
その後、台湾海峡北部に入り、北から南へ南シナ海へ向かい、米国、フィリピンなどが実施していた「バリカタン」演習を含む周辺の多国間軍事活動に対応する動きをみせた。
筆者は、その後に北部戦区海軍の「遼寧」打撃群と南部戦区の海上戦力が、米日比豪ニュージーランドなどの海上戦力に対して軍事的な存在感を示したことで、相手側の活動にも影響を与えた可能性があるとみている。
実際の図上演習や作戦研究では、演習任務、想定する相手、任務の性格と目的、企図、各種訓練科目などが設定されるのが一般的だ。
筆者は、4月20日から28日にかけての「遼寧」艦隊の動きも、南シナ海で活動していた外国軍の合同艦隊への対応を想定した訓練計画に沿うものだった可能性があるとみている。
今回、「遼寧」打撃群が西太平洋に入った時期は、日米共同統合演習「キーン・ソード27」が10月19日から日本全国や南西諸島周辺などで始まる直前だった。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
この演習には日米に加え、豪州、ニュージーランド、カナダ、フランス、ドイツ、オランダ、フィリピンなども参加する。
10月には、米海兵隊の新型地上配備型対艦ミサイルシステム「海軍・海兵隊遠征艦艇阻止システム(NMESIS)」が、台湾に近い与那国島に「キーン・ソード27」で初めて展開されることも明らかになった。自衛隊の地対艦ミサイル部隊も展開する。
14日に「遼寧」打撃群が活動していた石垣島の南約250キロの海域は、NMESISの公表されている一般的な射程を超える。
一方、中国海軍の055型駆逐艦などが搭載する長射程ミサイルや、「遼寧」の艦載戦闘機J-15の行動範囲を考えれば、筆者は、有事には与那国島を含む南西諸島の軍事施設を攻撃対象として想定できる位置関係にあるとみている。
「遼寧」打撃群が浙江省東方の海域を航行していたころ、米海軍の原子力空母「セオドア・ルーズベルト」(USS Theodore Roosevelt、CVN-71)を中心とする空母打撃群も西太平洋に入っていた。
同空母は9月27日に米西海岸サンディエゴを出航し、10月16日午前、神奈川県の米海軍横須賀基地に入港した。巡洋艦「チョーシン」(USS Chosin、CG-65)と駆逐艦「ディケーター」(USS Decatur、DDG-73)が同行しており、「キーン・ソード27」に参加する。
一方、今回の中国軍北部戦区の「遼寧」打撃群について、日本側の情報によれば、随伴艦は055型駆逐艦「鞍山」(艦番号103)、「無錫」(同104)、052D型駆逐艦「淮南」(同123)だった。
遠洋総合補給艦は確認されていない。
前回と比べると、打撃群には055型駆逐艦が1隻増えている。前回は「無錫」(同104)と052D型駆逐艦「開封」(同124)が随伴していた。
中国の軍事専門家の一部はこの点を取り上げているが、中国軍の空母打撃群が複数の防空・対潜能力を持つ水上戦闘艦を組み合わせる編成自体は、米海軍の空母打撃群にも通じるものがある。
また筆者は、遠洋総合補給艦が随伴していないことから、少なくとも現段階では長期間の遠洋行動を想定した編成ではない可能性があるとみている。
今後、日本側は中国海軍の901型遠洋総合補給艦や、後方支援・護衛に加わる可能性がある054B型フリゲート「漯河」(艦番号545)の動向にも注意を向けるとみられる。
北部・東部戦区の「戦役級」統合作戦、素早く攻めて素早く引く
近年、台湾の現職総統、前総統、さらには副総統らが外遊する際、中国軍東部戦区は外遊前や台湾帰国後、1週間以内、あるいはそれより早い時期を選び、海空戦力を台湾周辺に展開して「統合戦備警戒パトロール」(中国側呼称「聯合戦備警巡」)を実施してきた。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
今回、中国軍は14日早朝、J-16、J-11、Su-30、JH-7、Y-8電子戦機などの主力機・支援機、無人機を合わせて延べ13機出動させ、このうち延べ11機が台湾海峡の中間線を越えて台湾北部、中部、南西部の空域に入り、中国艦艇と連携した海空合同訓練を実施した。
ちょうど13日早朝には、蔡英文前総統が台湾へ戻っていた。
報道によると、蔡氏は10月5日夜に米サンフランシスコへ向けて出発し、訪米中にはナンシー・ペロシ元米下院議長と会談した。その後、「Stanford DEFCON 2026 科学技術と国家安全保障に関するシンポジウム」に招かれ、講演した。
こうした動きが、再び中国側が設定する「レッドライン」に触れたのだろうか。
筆者が今年継続的に観察してきたなかで、一つ特徴的なのは、「統合戦備警戒パトロール」に投入される中国軍機が、すでに何度も延べ20機を下回っていることだ。
それでも、台湾側には中国軍のより大規模な演習時と同様、指揮・統制・通信・情報・監視・偵察(C4ISR)をはじめとする態勢を維持するための人的・物的負担が生じる。
筆者は、今後こうした比較的小規模な航空戦力による活動が新たな常態になる可能性があるとみている。
また、台湾周辺海域で確認される中国艦艇はおおむね6~8隻規模となっている。これには、尖閣諸島周辺や台湾東方で活動する中国海警局の船舶は含まれていない。
最後に筆者が注目するのは、14日午前9時30分ごろ、中国軍東部戦区の海空戦力の主力が台湾西部から南西部にかけて「C字型」に包囲するような「統合戦備警戒パトロール」の態勢を取ったことだ。
同日、日本側は北部戦区海軍の「遼寧」打撃群が東シナ海から太平洋へ入り、石垣島南方で艦載機の発着艦訓練を行ったことを発表した。
台湾西側の東部戦区部隊と、台湾東方の西太平洋へ進出した北部戦区海軍の空母打撃群が同時期に活動したことで、結果として台湾を東西から挟むような態勢になった。この点を筆者は警戒すべき動きとみている。
さらに、東部戦区に属するとみられるY-9情報収集機とWZ-7偵察型無人機が東シナ海から日本の南西諸島西方で活動し、別の中国軍無人機が東シナ海から台湾と与那国島の間を通過して太平洋へ進出した。
筆者は、これらを総合すると、北部戦区と東部戦区の軍事活動が点、線、面で連動する実戦的な態勢を示しており、複数戦区による戦役レベルの統合作戦を意識した訓練だった可能性もあると考える。
中国軍上層部の汚職問題などを理由に、実際の作戦能力が低下しているから年末まで大規模な演習はあり得ない、と楽観的に断定することはできないだろう。
「遼寧」艦隊、西太平洋入りから1日で南シナ海へ フィリピンへの威嚇か
台湾国防部が15日、「遼寧」の西太平洋での遠洋訓練について説明すると、一部メディアは「国防部が遼寧艦編隊の西太平洋での演習を認めた直後、日本が同艦隊のバシー海峡方向への航行を公表した」と報じ、台湾側の情報発信の遅れを指摘した。 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )
台湾国防部が16日に公表した中国軍機の活動によると、15日午前9時30分から午後8時45分にかけて、主力機・支援機が延べ5機、台湾の防空識別圏南西から南南西の縁にかけての広い空域で活動し、バシー海峡周辺にも接近した。
一方、日本側は15日、「遼寧」打撃群が太平洋から南シナ海方向へ航行したことを公表している。
これらを合わせると、筆者は、前述の中国軍機が「遼寧」艦隊の南シナ海入りに伴う警戒・支援任務を行っていた可能性があるとみている。
また、「遼寧」が西太平洋の訓練海域を比較的早く離れた背景については、台風30号(チャンパー)の予想進路を避けるためではないかとの見方も報じられている。
これは、筆者が十数年にわたって中国軍の大規模演習と、台湾周辺海域における中国艦艇の展開を観察してきた経験とも合致する。
台風が台湾東方海域に接近する場合、中国軍機・艦艇は沿岸部で事前に台風対策を取ったり、洋上の艦艇が進路を変更して台風を回避したりしてきた。
特に2022年8月以降、中台関係がたびたび緊迫し、中国軍が台湾周辺の海空域で頻繁に活動するようになった。
筆者は一般の人とは少し違い、こうした時こそ台風が来て、軍事的緊張を一時的にでも和らげてくれないかと思うことがある。いわば「水で火を消す」ようなものだ。
そのため筆者は、台風が23日前後に台湾、あるいは日本の南西諸島方向へ向かえば、米中日台がいったん冷静になる時間をつくる可能性もあると考えている。
もちろん、これは台風による休業や休校を期待しているという意味ではない。
台風の影響次第では、19日から29日まで予定されている日米共同統合演習「キーン・ソード27」の一部訓練が中断・変更される可能性も考えられる。
台風30号は10月14日に発生した。進行速度と気象当局の予想進路を踏まえれば、22日前後に台湾東方海域へ接近する可能性がある。
ただし、艦艇が洋上で台風を回避するために進路を変更するまでにはなお時間があり、過去には台風接近の数日前になってから具体的な回避行動を取った例もある。
この時期、中国軍南部戦区の報道官は、15日にフィリピン軍艦が中国が領有権を主張する黄岩島(スカボロー礁)周辺で艦載ヘリを発艦させ、同機が中国側の主張する「領空」に侵入したとして、南部戦区が海空戦力を投入し、追跡・監視したうえで警告し、退去させたと発表した。
このタイミングで「遼寧」が台風回避のため南シナ海へ向かえば、結果的にはフィリピンに対する中国側の軍事的圧力を補強する形になる可能性もある。
筆者は、「遼寧」打撃群が南シナ海にとどまる間、従来の例にならえば、南部戦区海軍の部隊と実動の合同訓練を行い、機を見て海南島三亜に入港し、休養や補給を行う可能性があるとみる。
再び西太平洋で遠洋訓練を行う場合、早ければ10月23日前後に南シナ海を出航し、台風が台湾や日本の南西諸島周辺を通過するのを待って進出することも考えられる。
その頃には、日米共同統合演習「キーン・ソード27」も終盤に入る。
あるいは従来のように、外国軍による西太平洋での合同演習が終わった後、中国軍が改めて西太平洋へ展開する可能性もある。
中国軍の南部、東部、北部の各戦区に属する海空戦力の動きは、「キーン・ソード27」が行われる期間中、地域の安全保障を考えるうえで引き続き大きな注目点となるだろう。
※筆者の陸文浩氏は中華戦略学会研究員。
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編集:梅木奈実 (関連記事: 【寄稿】「5月20日」前に中国空母「遼寧」が西太平洋へ 日米南西諸島演習への対抗か | 関連記事をもっと読む )













































