吉田修一氏の渾身の小説を実写化した映画『国宝』が、第98回米アカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされた。これを受け、李相日監督、ヘアメイクの豊川京子氏、歌舞伎メイクの日比野なおみ氏、歌舞伎床山の西松正氏が27日、日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を行った。
日本の実写映画が同部門にノミネートされるのは初の快挙であり、登壇者らは伝統芸能である歌舞伎を映画として再構築する上での葛藤と喜びを語った。

「完全な再現」への挑戦
李相日監督は、400年の歴史を持つ歌舞伎を映画化するにあたり、映画の観客が全く違和感を抱かないよう完全な再現性を求めたと語った。最大の挑戦は歌舞伎俳優ではなく映画俳優を起用した点であり、舞台上の姿だけでなく、芸術の極地に向かう役者の苦悩や生き様など、50年にわたる人生を表現することが重要であったと述べた。
また、歌舞伎特有の言葉の壁については、セリフの量よりもキャラクターの感情や状況が直接伝わる演出を意識したと説明。「ギリシャ悲劇やシェイクスピアにも通じる普遍的な人間ドラマが描かれていることが、海外で高く評価された理由ではないか」と分析した。
職人の矜持:にわか仕込みは「伝統に失礼」
キャリア45年を誇るヘアメイクの豊川氏は、当初、歌舞伎メイクも自身で担当するよう打診されていたという。しかし、練習を重ねる中で「にわか仕込みで行うのは、役者にも伝統にも失礼だ」と痛感。プロデューサーらを説得し、日本舞踊の谷口先生の助言もあって、日比野氏をチームに招き入れた経緯を明かした。
アカデミー賞ノミネートについては、決定当日の夜、撮影現場からの帰宅途中にプロデューサーからのLINEで知らされたという。「全く実感がなく、まさか本当に選ばれるとは思っていなかった」と驚きを隠さなかった。
「映画ならでは」の白塗りとアップの恐怖
OSK日本歌劇団出身で30年ほどの経験を持つ歌舞伎メイクの日比野氏は、映画ならではの難しさを語った。通常の舞台や日本舞踊のおさらい会であれば白塗りは数時間保てばよいが、映画の撮影では10時間以上もそのままの顔でいなければならない場合が多く、崩れにくい硬い「鬢付け油」を下地に使うなどの工夫をしたという。
また、客席から距離のある舞台とは異なり、映画は顔のアップが多用される。「至近距離で見ても美しい仕上がり」に細心の注意を払ったと振り返る。ノミネートについては、「何百年も続く日本の伝統芸能や、教えをいただいた師匠たちに与えられたものだと感じている」と謙虚に喜びを表現した。
5キロの重圧:俳優を支える床山の技
歌舞伎の床山として45年以上のキャリアを持つ西松氏は、銅板を土台とする歌舞伎特有の「かつら」が俳優に与える負担について言及した。『道成寺』や『連獅子』で使用されるかつらは3〜4キロに及び、簪(かんざし)などを含めると5キロに達することもある。
朝6時の支度開始から、1カットで20回もの着脱を繰り返す過酷な現場を支えたのは、師匠からの「役の性根(しょうね)を掴んで仕事をしろ」という教えだという。アカデミー賞のノミネートに対しては、「我々は舞台裏から俳優を支える仕事。このような場に招かれたこと自体、夢のようだ」と感慨深げに語った。
会見の最後には、主催者から登壇者へ特派員協会の1年間名誉会員証が贈られた。日本の伝統文化と映画製作のプロフェッショナルが融合して生み出された『国宝』の視覚芸術は、今や国境を越えて世界を魅了している。注目の第98回アカデミー賞授賞式は、日本時間3月16日に開催される。
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編集:小田菜々香












































