防衛省は2026年9月1日、防衛力変革推進本部の会議資料を公表し、現行の国家防衛戦略および防衛力整備計画に関する評価と今後の方向性を明らかにした。
2022年12月の戦略策定以降、12式地対艦誘導弾能力向上型やトマホークなどのスタンド・オフ防衛能力の配備、イージス・システム搭載艦の建造、無人アセットを活用した「SHIELD(同期型ハイブリッド統合沿岸防衛)」の構築、統合作戦司令部(JJOC)の創設、さらには宇宙作戦機能の強化など、防衛力強化は全体として着実に進展している。
また、防衛生産基盤強化法の施行により、長期的な部品不足への対応が進んだほか、自衛官の処遇改善を通じ、2025年度には新規採用者の増加や中途退職者の減少といった成果もみられた。
一方、国内外の情勢は戦略策定時の想定を上回る速度と複雑さで変化しており、既存の取り組みを継続するだけでは将来的な抑止力の維持が困難になるとして、防衛省は強い危機感を持って追加的な措置を講じる必要性を強調した。
国家防衛戦略の3目標 日米同盟の共同抑止・対処力を強化
日本の基本的な防衛政策では、力による一方的な現状変更を許容しない安全保障環境をつくること、同盟国や同志国との連携によって現状変更を抑止し、事態を早期に収拾すること、そして侵攻が発生した場合に日本が主体的に、同盟国の支援も受けながら侵攻を阻止・排除することの3つを防衛目標として掲げている。
これらを達成するため、日本自身の防衛体制の強化、日米同盟の共同抑止力・対処力の強化、同志国との連携強化という3つのアプローチを推進している。
特に米国は、2025年12月に公表した国家安全保障戦略と2026年1月に公表した国防戦略で、米国本土の防衛を最優先としながらも、インド太平洋地域における中国の抑止と、第1列島線に沿った拒否防衛の構築を明記している。
注目されるのは、米国が同盟国やパートナー国に対し、NATOで当時のトランプ大統領が設定した「中核的な軍事費としてGDP比3.5%、安全保障関連費として1.5%の計5%」という新たな基準を満たすよう求めている点だ。
日本はこれに呼応し、在日米軍の段階的な再編に合わせた日米の指揮統制機能の向上、南西地域を含むより実践的な訓練の拡大、ミサイルなどの共同開発・生産、艦艇や航空機の共同維持整備、サプライチェーンの強靭化などを通じ、日米同盟の近代化と実効性向上を加速させる構えだ。
中国のミサイル保有数は3150発 中露・北朝鮮の軍事連携も進展
安全保障環境が急速に悪化している背景には、周辺国による軍事力の広範かつ急速な増強がある。
第1列島線内での活動が常態化していることに加え、太平洋側での活動も活発化している。2025年には太平洋への空母展開が5回、艦載機の発着艦は約1460回に達し、同年6月には硫黄島東方での空母活動や、太平洋側で初めて2隻の空母が同時に運用される事態も確認された。
また、ロシアによるウクライナ侵略が続く中、北朝鮮との軍事協力も急速に進展している。
ウクライナ当局の主張によると、ロシアが使用する弾薬の約半数は北朝鮮製で、2024年中には少なくとも100発の弾道ミサイルが供給された。さらに北朝鮮は、2024年後半に1万1000人以上、2025年1月から3月にかけて追加で3000人の兵士をロシアへ派遣している。
加えて、中露の戦略的連携も深化しており、2026年6月には中露の爆撃機が日本海から東シナ海、太平洋にかけて初の長距離共同飛行を実施した。
ロシアは極東地域でも、ボレイ級戦略原子力潜水艦を3隻から5隻に増強するなど、軍備拡張を続けている。
ドローンとAIが変える現代戦 浮き彫りになる「コスト非対称性」
現代戦における「新たな戦い方」として、無人アセットの大量運用と人工知能(AI)を活用した意思決定が、戦局を左右する重要な要因となっている。
ロシアやウクライナでは年間数百万機規模のドローン生産が報告されており、米陸軍も今後数年間で少なくとも100万機のドローンを調達する予定だ。
数万ドル規模の安価な攻撃型無人機に対し、迎撃に使うパトリオットやSM-6などのミサイルは数百万ドル規模のコストがかかり、約140倍ものコストの非対称性が生じている。
日本は長射程ミサイルの導入を進めているものの、スタンド・オフ・ミサイルと組み合わせて運用する攻撃型無人機の取得には至っていない。SHIELD構想が完成した場合でも、無人アセットの総保有数は数千機規模にとどまる見込みだ。
さらに、米軍がAIモデル「NGA Maven」を活用し、標的特定から交戦までの時間を数時間から数分に短縮するなど「AIファースト」を掲げる一方、日本の防衛省・自衛隊では、AIの導入やデータ統合に必要な通信ネットワーク、クラウド基盤の整備は初期段階にある。
このため、意思決定の速度や精度で他国に後れを取る懸念が示されている。
宇宙空間やサイバー空間に対する攻撃の脅威も増大している。ウクライナ当局が確認したサイバー攻撃は、2021年の1350件から2025年には5927件へ急増しており、衛星の保護や高強度のサイバー攻撃に対する防衛能力の向上も急務となっている。
太平洋側に「防衛の空白」 弾薬確保など継戦能力も課題
日本の防衛態勢における重大な課題として、太平洋側の「防衛の空白」と、長期戦を見据えた継戦能力の不足も挙げられている。
また、ウクライナや対イラン作戦で、短期間に大量の弾薬が消費された実態も明らかになっている。トマホークは1000発以上、パトリオットは1060~1430発などが消費され、継戦能力の確保が抑止力の要であることが浮き彫りになった。
しかし日本では、利益率の低下などを理由に、航空機部品や回転翼機用シートなどの防衛事業から撤退する企業が相次いでおり、2024年にはB社、2026年にはA社が撤退している。
現行計画に基づく部品納入の改善により、全体的な可動率は向上しつつあるものの、一部の航空機などでは、企業の撤退や部品生産の終了によって部品取得までのリードタイムが長期化し、非可動状態を早期に解消することが困難な状況にある。
円安と装備品価格高騰 自衛官は3年間で約1万人減少
国内経済の動向と深刻な人材不足も、防衛力整備に大きな影響を与えている。
現行計画策定時の2022年度は1ドル108円を想定していたが、2026年7月時点では1ドル157円から163円台まで急激な円安が進行し、約17%増となった。国内企業物価指数の上昇も重なり、防衛装備品の取得価格は高騰している。
2023年度予算と2026年度予算を比較すると、SH-60Lヘリコプターは約42%増、P-1哨戒機は約50%増、F-35B戦闘機は約35%増、UH-2ヘリコプターは約66%増と、大幅な価格上昇がみられる。
人的基盤についても、少子化や民間企業との人材獲得競争の激化により、自衛官の数は2022年度の22万7843人から約1万人減少し、2025年度時点で21万7701人となっている。
防衛省の機械的な推計によると、このまま減少が続けば2035年には約18万人、2045年には約13万人まで激減すると予測されており、中長期的に現在の部隊編成を維持することは極めて困難な情勢となっている。
また、同志国との連携についても、平時の制度的な枠組みは進展しているものの、有事における実効的かつ実践的な協力体制の構築は、なお発展途上にある。
防衛省、三文書改定へ 無人機・AIなど非対称防衛能力を強化
こうした複雑かつ深刻な課題に対応するため、防衛省は三文書の改定を通じ、防衛力の変革を進める方針だ。
無人アセットの配備や費用対効果の高い防空システムの導入により、量的な優位性を持つ相手にも対処できる非対称防衛能力を大幅に強化する。
同時に、強靭な通信基盤を構築し、全領域のデータを統合してAIを活用した意思決定の迅速化を図る。太平洋側の警戒監視と空洋ミサイル防衛能力を補強し、シーレーン防衛の強化も進める。
防衛生産基盤の維持に向けては、官民連携(GOCO)の活用や法に基づく産業支援を拡充し、予備部品を確実に確保することで継戦能力の向上を目指す。
また、自衛隊員の処遇改善を継続するとともに、省人化・自動化技術の統合や民間活力の活用を進め、人的制約の克服に取り組む。
そして日米同盟を中核に、訓練、作戦、装備面での相互運用性を高め、同志国と連携した重層的な抑止力と、あらゆる事態で実効的な調整・協力を可能にする基盤を構築していく考えだ。