AI(人工知能)大手OpenAIは米東部時間3日、新世代の旗艦モデル「GPT-6 Astra」を発表した。高度なコンピューター操作、高度なプログラミング、複数段階にわたる自律的な調査・研究を兼ね備えるのが特徴で、OpenAI共同創業者兼社長のグレッグ・ブロックマン(Greg Brockman)氏は「AGI(汎用人工知能)時代へようこそ」と宣言した。
米メディア『Axios』によると、AstraはOpenAIがこれまでに手がけた中で最大規模の訓練を経たモデルで、米テキサス州にある演算拠点「スターゲート(Stargate)」で10万基超のGPU(画像処理半導体)を投入して訓練された。また、訓練過程の監督に他のAIモデルを大規模に活用した初めてのモデルでもあるという。
ただしAstraは当初、「Daybreak Access」プログラムに参加する特定の機関にのみ提供され、その後、ChatGPT Plus、Pro、Business、Enterpriseの契約者やAPI開発者向けに順次展開される予定だ。
米誌『WIRED』は、利用者数の多い無料版ChatGPTで将来利用できるようになるかについて、OpenAIが現時点で一切言及していない点を指摘している。
APIの利用料金は、Astraが入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドルで、期間限定のプロモーション価格で提供されている「GPT-5.6 Sol」(入力4ドル、出力20ドル)のちょうど2.5倍にあたる。
パソコン操作から専門ソフトの自律操作まで
OpenAIはAstraについて、「世界で最も知能が高く、最も人間の意図に沿ったモデル」だとしている。
公式データによると、最難関の数学ベンチマーク「FrontierMath Tier 4」で98%、抽象推論能力を測る「ARC-AGI-3」でほぼ満点となる99.9%、脆弱性悪用能力を評価する「ExploitBench」で100%を記録した。
インターネット接続を必要としないローカル環境でのOS操作能力を測る「OSWorld 2.0」では、Astraは1タスク平均40分で成功率72.6%を達成し、GPT-5.6 Solの65.7%(平均約75分)を上回った。
米メディアの報道によると、Astraはアプリケーションソフトを直接操作する能力も示している。
さらに「FreeCAD」と「Blender」を使って自動車のトランスミッションのアニメーションを作成したり、Blenderで建築モデルを構築した後、そのまま「Unreal Engine 5」に読み込んでインタラクティブに移動できる仮想空間を生成したりすることもできたという。
学術面では、Astraは「素数の間隔(gaps between prime numbers)」に関する純粋数学の研究にも貢献した。
実務面では、遺伝子配列解析やPower BIを使ったデータ処理に対応できるほか、W-2源泉徴収票を読み取って米連邦個人所得税申告書(Form 1040)を自動作成したり、実際のインターネット上で運転免許関連機関(DMV)の予約や物件探しを代行したりすることも可能だという。
OpenAIのリサーチ担当バイスプレジデント、アメリア・グレース(Amelia Glaese)氏は、「モデルがより自律的にタスクをこなせるようになるにつれ、私たちはモデルに対して、より高いレベルの信頼を築く必要がある。今後、利用者は一つひとつの操作手順を指示するのではなく、より高いレベルで全体を指揮するようになる」と述べた。
サイバー能力が初めて「Critical」の水準に到達
一方、「GPT-6 Astra」の高い自律性は、サイバーセキュリティー面で強い懸念も呼んでいる。
OpenAIは、社内の「Preparedness Framework(準備度フレームワーク)」に基づき、Astraがサイバーセキュリティー能力で「Critical(重大)」の水準に達した初めてのモデルであることを認めた。
これは、適切なツールが与えられれば、人間が一つひとつ手順を指示しなくても、防御の強固なシステムに対して自律的に未知の脆弱性を発見し、悪用できる水準を意味する。
未公開の脆弱性を対象とした社内評価では、Astraは攻撃チェーンを構築する過程で、自律的に2件の新たなゼロデイ脆弱性(0-day)を発見し、実際に悪用することに成功した。
専門のレッドチームによるテストでも、防御を強化したブラウザ環境への侵入に成功し、サンドボックス(sandbox)から脱出した上で、ホスト側で任意のコマンドを実行したという。
『Axios』は、今年7月、OpenAIのテスト中のAIエージェントがサンドボックスを抜け出し、AI開発プラットフォーム「Hugging Face」のシステムに不正アクセスした問題が発生したばかりであり、AIの自律性が高まることへの業界の懸念を一段と強めていると指摘する。
これについてOpenAIは、広範に提供されるAstraには厳格な制限を導入し、概念実証(PoC)用の脆弱性悪用コードの生成を制限している。
高度なサイバー能力については、「Daybreak Blue」のアクセス枠を通じ、本人確認を経た防御目的のサイバーセキュリティー関係者に提供するとしている。
チーフサイエンティストが警告「スケーリングを見合わせる可能性も」
特に比較的単純な課題では、Astraは出力するテキストを自ら調整し、外部から見える推論手順を少なくしたまま答えを導き出すことができるため、人間の審査者がその過程を把握しにくくなるという。
『ロイター通信』は、こうした特性によって、AIエージェントを導入する企業が、その判断に至った理由をコンプライアンス上検証することが難しくなる可能性があると指摘している。
OpenAIのチーフサイエンティスト、ヤクブ・パチョツキ(Jakub Pachocki)氏はメディアに対し、「これまで私たちは、モデルの思考を理解できることを当然のものと考えてきた。しかし能力が飛躍的に向上するにつれ、監視はますます難しくなっている」と述べた。
さらに、「モデルが人間の意図に沿っているかを監視する能力が、一定の水準を下回ることは容認できない。十分な監視能力を確保できなければ、それは将来の開発を制約するボトルネックになる」と指摘した。
その上で、「十分な確信を取り戻せるまでは、スケーリングを見合わせる」とし、監視可能性を確保できない場合には、モデルの大規模化を一時的に止める可能性にも言及した。
AGI時代は到来したのか シリコンバレーの専門家「転換点はすでに昨年訪れていた」
ブロックマン氏が宣言した「AGI時代」については、テック業界内でも評価が分かれている。
OpenAIはAGIを「大半の経済的価値を持つタスクにおいて人間を上回る自律的なシステム」と定義している。
一方、批判的な見方をする向きは、Astraが複数業界の専門業務を対象に設計されたベンチマーク「GDPval」のスコアをいまだ公表していないことや、一部のコーディング能力や知能指標では競合するAnthropicの製品に後れを取っていることを指摘する。
また、「ARC-AGI-3」で記録した99.9%というスコアも、Responses API環境で外部ツール、メモリ、エージェントソフトウェアを組み合わせて得られたものであり、基盤モデル単体で得られた結果ではないとの見方もある。
ベテランのテック起業家で、過去に2度、自らの会社をAppleに売却した経験を持つビル・グエン(Bill Nguyen)氏は、AGIへの転換点は実際には昨年11月、Anthropicが「Opus 4.5」を発表した時点ですでに訪れていたと指摘する。
「アイデアを一つ提示するだけで、モデルは自らツールや外部プログラムを見つけ出し、仕事を完成させてしまう。サム・アルトマン(Sam Altman)氏やダリオ・アモデイ(Dario Amodei)氏でさえ、これらのモデルの能力を過小評価しているのではないかとさえ思う」
その上でグエン氏は、「今、本当の限界はモデルの能力の上限ではなく、企業や個人がどこまで仕事をAIに委ねる覚悟と野心を持てるかだ」と語った。