日本外国特派員協会(FCCJ)にて、円の将来と歴史的な円安の背景について議論する記者会見が開催され、前財務官で国際経済研究所理事長の中尾武彦氏と、前日銀政策委員会審議委員で慶應義塾大学教授の白井早由里氏が登壇した。
現在、ドル円相場は1ドル=162円台を推移し、40年前のプラザ合意以来の安値水準に接近している。両氏は、過度な円安が日本経済に与える負の影響や、金融・財政政策における課題と展望についてそれぞれの見解を述べた。
過度な円安に警鐘、利上げ加速を主張
中尾氏は、実質実効為替レートで見ると現在の円の価値は1990年代のピーク時の3分の1にまで低下しており、著しく過小評価された過度な円安水準にあると指摘した。
円安の要因について、貿易収支が均衡する中で所得収支の黒字が海外で再投資されている構造的背景に加え、日米の金融政策の姿勢の違い、特に名目金利差が資本の流出を引き起こす最も重要な要因であると強調した。過度な円安は輸出企業の競争力向上というメリットがある一方で、海外への生産移転が進んだ現代においてはGDP拡大への効果は限定的である。
むしろ輸入インフレによる購買力の低下や消費・投資の停滞、海外投資家による不動産や企業の買収を招き、日本の世界のGDPに占めるシェアが15%から3.5%へ急落するなど国力を著しく低下させると警鐘を鳴らした。そのため、日銀はデフレ脱却やインフレ目標への過度なこだわりを捨て、金利正常化に向けてより着実かつ速やかに利上げを進めるべきだと訴えた。
さらに中尾氏は、日本の対GDP比公的債務残高が200%を超える極めて高い水準にあることについて、低金利による利払いの抑制に依存している現状に懸念を示した。将来的な国債の借換時に金利上昇が本格化すれば、利払い費の急増により財政規律が揺らぎ、最悪の場合はギリシャのような債務危機や信用格下げを招く恐れがあると指摘した。
また、片山財務相が年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の国内資産運用拡大に言及したことについては、運用利回りの観点に立った純粋な経済的判断であれば問題ないとしつつも、国債の価格維持操作や円安抑止を目的とした政府介入であるならば市場経済において極めて不健全であるとの見解を述べた。
円安の背景に強いドルと政権内の矛盾
白井氏は、現在の円安について、米国の強い経済データと高金利環境、さらにはウォルシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派的な姿勢に基づく強いドル需要が背景にあり、アジア通貨全体に共通する下落圧力の一環であると説明した。
その上で、日本独自の要因として日銀の利上げの遅れに加え、高市政権内における政策の不整合を挙げた。一つは円安に対する姿勢の矛盾であり、政権周辺のリフレ派が円安のインフレへの影響を軽視する一方で、財務省や片山財務相は過度な円安を懸念し為替介入を行っている点を指摘した。
もう一つは財政政策の不透明感であり、「骨太の方針」の原案から財政健全化の文言が消え、370兆円規模の官民投資枠組みが打ち出されたことで、市場が金融緩和の継続と財政拡大を意識し、長期金利の上昇やさらなる円安を誘発していると分析した。
一方で白井氏は、日本のインフレは食料とエネルギーによるコスト推移の面が強く、中小企業の価格転嫁率が55%にとどまる中で性急な利上げを行えば企業経営に打撃を与えるとの慎重な見方も示した。
また、日銀のマイナス金利政策導入から10年を迎えたことに関し、当時反対票を投じた理由として、量的・質的金融緩和(QQE)と矛盾する政策を事前の兆候なしにサプライズで導入したことが、金融機関の収益や市場に大きな混乱を与えたと振り返った。
今後の展望については、政権の政策の整合性が取れ、米国のインフレが低下に向かえば1ドル=160円前後やそれ以上の円高方向への安定も見込めるが、低金利や財政規律なき状況が続けば、165円を超える円安へのリスクも残されていると締めくくった。
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編集:小田菜々香













































