東京株式市場の高騰と歴史的円安の行方 FCCJディープダイブ討論会で専門家が徹底分析
FCCJ討論会における専門家らは、足元の円安を海外投資の拡大や金利差に起因する構造的な現象と分析する一方、東京株式市場については若手経営層への交代と積極的な資本投資が今後の成長と株価上昇を牽引するとの見解を示した。(写真/FCCJ提供)
日本外国特派員協会は2026年7月2日、東京株式市場と円相場の動向をテーマにしたディープダイブ討論会を開催した。
討論会では、元同協会会長のアントニー・ローリー氏がモデレーターを務め、アモーヴァ・アセットマネジメントのチーフ・グローバル・ストラテジスト兼チーフ・エコノミストのナオミ・フィンク氏が登壇した。
ほかにも、アトランティック・カウンシルのシニア・ノンレジデント・フェローで元国際通貨基金高官のホン・トラン氏、マネックスグループのグローバル・アンバサダーのジェスパー・コール氏が登場し、市場の現状と展望について議論を交わした。
円キャリー取引が株高と円安を支える
ナオミ・フィンク氏は現在の市場について、安価な円キャリー取引によって調達された資金が長天期資産へ向かう強い需要によって動いていると指摘した。円安が日本の輸出企業に多大な利益をもたらすという一般的な見解に対しては、輸出額と輸入額の伸びがほぼ重なっており、円安による輸出の利点は輸入コストの増加でほぼ相殺されていると分析した。
また、フィンク氏は低金利の円資金がAIサプライチェーンや関連インフラに隣接する高成長株へ集中的に流入しており、これが日経平均株価がTOPIXを大きく上回る要因であると説明した。世界の主要中央銀行が利下げに転じる中で、日本銀行だけが下方から中立金利を模索して利上げを進める特異な存在にあると述べた。
米国のイールドカーブについてフィンク氏は、市場が金利の長期高止まりを予想して実質利回りがドルを支えている一方、日本の金利上昇は主にインフレ期待と期間プレミアムによるものだと解き明かした。長期的な購買力平価の観点では1ドル100円前後が妥当であり、日銀短観でも多くの企業が為替の先行きを150円台と見込んでいることを明らかにした。
日本経済の成長力と構造的な円売り
日本経済の展望についてフィンク氏は、構造的な労働力不足を克服するためには投資固有の技術を取り入れ、自動化やインフラなどの強みを活かして生産性を高めることが不可欠だと語った。潜在成長率を現在の0.5%から1%へ引き上げられれば日本は勝利できるとし、株価下落局面では自社株買いや新NISAによる家計の買いが下支えになると述べた。
過去最高の経常収支黒字が円高要因にならない理由としてトラン氏は、貿易収支が赤字か均衡にあり、黒字の大半が海外投資組合からの第一次所得であることを挙げた。企業が現地で得た利益を円に換金せず留保しているため円の支えにならず、4月と5月に実施された総額730億ドル(約12兆円)規模の為替介入も単独では一時的な効果しか持たないと分析した。
円は200円へ?ドル高継続を予測
米国の姿勢についてトラン氏は、トランプ氏が重視するのは為替協調ではなく、関税や輸入枠を通じて貿易黒字国に対して対米投資や商品購入を迫る手法であると説明した。米国財務省もファンダメンタルズ重視の不介入方針を貫き日銀に引き締めを求めており、円安是正には為替介入よりも日銀が強い利上げ姿勢を示して円キャリー取引の巻き戻しを誘発させることが有効だと提言した。
ジェスパー・コール氏は実務家の見地から、今後12か月から15か月の間にドル円相場が1ドル200円へ到達するとの大胆な予測を示した。日本銀行が緩和解除に慎重で政策が市場の後手に回り続け、実質金利のマイナス状態が続く中で、高市早苗首相が打ち出した14年間で317兆円規模の包括的官民連携構造投資の財政需要を支えるために弱い円が必要とされていると解説した。
コール氏は、世界経済を左右する最大の確実な要因は、力を前面に押し出した「米国第一主義」だと指摘した。関税をちらつかせる米国の政策によって、10兆~15兆ドル規模の直接投資が米国に流入しており、これがドルの独歩高を招く主因になっているという。
また円安の恩恵について、上場企業の利益の約3分の2が海外で生み出されているため、円相場が10円下落するごとに企業利益が約8%押し上げられ、政府の税収も12~15%増えるとの見方を示した。
円安の世代差と日本企業の強み
消費者への影響について、コール氏は、円相場が10円下落するごとに消費者物価指数が0.6~0.7%上昇し、輸入に依存するエネルギーや食料品の値上がりが、特に高齢層の生活を直撃していると指摘した。一方、20代や30代の若い世代では、好調な企業業績を背景に10~12%の賃上げが実現しており、円安の恩恵を受けやすいとの見方を示した。
過去30~40年は、米国のインフレ率が日本を上回っていたため、長期的には円高傾向が続いてきた。しかし今後は、構造的な労働力不足や供給制約を背景に、日本のインフレ率が恒常的に米国を上回り、円の価値が長期的に下落するとコール氏は予測した。
また、米国がAI分野でソフトウェアという「頭脳」を担う一方、データセンター用の冷却ファンやロボットの減速機など、フィジカルAIを支えるハードウェア分野では日本企業が強い競争力を持つと評価した。
一方、資産インフレについては、東京のマンション価格が新入社員の年収の25倍にまで高騰し、ローン返済額が初任給の47%を占めるなど、負担感がバブル期のピークと同水準に達していると指摘。今後数年以内に社会的な反発が強まり、日銀が利上げに追い込まれた結果、ドル円相場は1ドル=160円程度まで戻る可能性があると予測した。
為替介入と今後の投資戦略
質疑応答で為替介入のタイミングを問われたナオミ・フィンク氏は、極端な変動やファンダメンタルズからの乖離を冷ますために財務省は不意を突くサプライズ介入に踏み切る可能性があると述べた。
ホン・トラン氏は、現在の米国のAI関連企業は過去最高水準の利益に支えられ、株価収益率も極端な割高水準ではないことから、ドットコム・バブル崩壊時のような深刻な景気後退にはつながりにくいと分析した。市場には豊富な待機資金があり、資金が業種間を移動するセクターローテーションによって相場が下支えされるとの見方を示した。
個人の資産運用について、フィンク氏とトラン氏は、特定のテーマに資金を集中させず、長期的な視点に立って幅広い資産へ分散投資していると明かした。これに対し、コール氏は集中投資を重視する姿勢を示し、特定部品で世界シェアの60~70%を握りながら、株価純資産倍率(PBR)が0.4~0.5倍にとどまる日本の中型バリュー株や、米国のスタートアップへの投資に魅力があると語った。
さらにコール氏は、世界で最も過小評価されている資産の一つとして、日本の地方や農村部の不動産を挙げた。アジアの中間層が拡大する中、今後高まるレジャー需要の受け皿になる可能性があるという。
また、官民連携プロジェクトの恩恵が期待される東京海上日動火災保険などの大手金融機関や、豊富な映像コンテンツを持ち、アジア展開の余地があるTBSなどの企業にも注目していると述べた。これに対しフィンク氏は、防衛など特定のテーマに偏るのではなく、日本経済全体の生産性向上につながる分野横断的な取り組みに注目すべきだと指摘し、討論会を締めくくった。
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