一橋大学経済研究所の宮本弘暁教授(元IMFエコノミスト)は2026年2月13日、日本記者クラブで「2026年経済展望 激動の世界と日本を読む」と題して講演した。
宮本氏は、日本経済が長年患ってきた「日本病」からの脱却には、労働市場の流動化を通じた産業の新陳代謝が不可欠であると提言。あわせて、インフレと金利上昇局面における財政の持続可能性について、楽観視せず規律を維持すべきとの見解を示した。
宮本氏は冒頭、日本経済の現状について言及。名目GDPが600兆円を超え、日経平均株価が一時は5万8000円台をつけるなど、デフレからインフレへの転換という大きな「潮目の変化」にあると評価した。
一方で、長年の「低成長・低物価・低賃金」に加え、政府債務が対GDP比で約240%に達する「高債務」という「3低1高」の症状を「日本病」と定義。1人当たりGDPが世界38位(2024年)まで低下するなど、失われた30年で日本経済が深く傷ついた事実を強調した。
今後のメガトレンドとして、宮本氏は「人口構造の変化」「テクノロジーの進歩」「グリーン化(脱炭素)」の3点を挙げた。特に人口減少については、2056年に日本の人口が1億人を割り込み、台湾やオーストラリア一国分の人口が消滅する規模であると警告する。
その上で、労働供給が制約される中での経済成長には「生産性の向上」が唯一の解であり、そのためには衰退産業から成長産業へ人・モノ・カネを移動させる「経済の新陳代謝」が必要不可欠であると論じた。
講演の中で宮本氏が改革の「一丁目一番地」と位置づけたのが労働市場改革だ。データ上、労働市場が流動的な国ほど生産性が高く、賃金も伸びやすい傾向にあるという。
技術サイクルが短命化する現代において、労働者が変化に対応し適材適所を実現するためには、解雇ルールの明確化や退職金課税の見直しなど、働き方に中立な制度設計が必要だと指摘。市場の流動性を高めることが、結果として労働者自身の利益にもなると主張した。
財政面に関しては、インフレによって名目GDPが拡大し、当面は債務残高対GDP比が低下する「スマイルカーブ」の形状を描くとのシミュレーション結果を紹介した。しかし、これは一時的な現象に過ぎず、2030年代半ば以降は再び上昇に転じるリスクがある。
さらに長期金利が想定より1%上昇するだけで、財政の持続可能性が劇的に悪化するデータを提示し、金利のある世界では財政規律が一層重要になると訴えた。
また、政府が進める「責任ある積極財政」や産業政策については、高債務や高齢化が進んだ経済では財政乗数(財政出動の効果)が低下する傾向にあると指摘。政府が投資先を決めるよりも、民間投資を促進するための規制改革こそが政府の役割であるとの認識を示した。
質疑応答では消費税減税について問われ、「経済学的には全く賛成できない」と明確に反対した。GDPギャップがほぼゼロの状況での減税はインフレを加速させるだけであり、社会保障財源の観点や財政への信認を損なうリスクがあるためだ。
宮本氏は最後に、恩師の言葉である「Try not to get comfortable(現状に満足するな)」を引用。人口減少を所与の条件として受け入れた上で、現状維持バイアスを打破し、構造改革に挑戦し続けることこそが、若者が希望を持てる豊かな日本を再構築する道であると結んだ。
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編集:柄澤南













































