「日本はカニのようなもの」硬い殻の内側は無防備 テンプル大ブラウン教授がロシア対日工作の歴史と現代の「スパイ天国」に警鐘

硬く見える「カニの殻」も一度砕かれれば内部は無防備、歴史が証明する日本の防諜体制の甘さは現代も続く国家的な急所となっている。(写真/FCCJ提供)
硬く見える「カニの殻」も一度砕かれれば内部は無防備、歴史が証明する日本の防諜体制の甘さは現代も続く国家的な急所となっている。(写真/FCCJ提供)

テンプル大学ジャパンキャンパスのジェームズ・D・J・ブラウン教授(政治学)は1月20日、東京・丸の内の日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見し、新著『Cracking the Crab: Russian Espionage Against Japan, from Peter the Great to Richard Sorge(カニを割る:ピョートル大帝からリヒャルト・ゾルゲに至るロシアの対日スパイ活動)』の出版に合わせて講演を行った。

ブラウン氏は、帝政ロシア時代から太平洋戦争終結までのスパイ活動の系譜を詳説するとともに、日本がG7諸国で唯一包括的なスパイ防止法を持たない現状を指摘し、現代においても日本がロシアによるインテリジェンス工作の「聖域」となっている可能性に強い懸念を示した。

堅牢に見える「カニの殻」も一度砕かれれば内部は無防備、歴史が証明する日本の防諜体制の甘さは現代も続く国家的な急所となっている。FCCJ
堅牢に見える「カニの殻」も一度砕かれれば内部は無防備、歴史が証明する日本の防諜体制の甘さは現代も続く国家的な急所となっている。(写真/FCCJ提供)

ブラウン氏は著書のタイトルにある「カニ(Crab)」という比喩について、ソ連の伝説的スパイ、リヒャルト・ゾルゲが残した言葉に由来すると説明した。ゾルゲは日本社会を「殻は非常に硬いが、一度内部に入り込んでしまえば中は柔らかく、美味しい」と評したという。

これは、日本の排他性や外国人に対する警戒心といった「外壁」は厚いものの、一度信頼を得て内部ネットワークに浸透すれば、情報管理が極めて甘く、重要機密へのアクセスが容易になるという日本のセキュリティ文化の欠陥を鋭く突いたものである。ブラウン氏は、この「外は硬いが中は脆い」構造こそが、歴史的にロシアが対日工作を成功させてきた最大の要因であると分析した。

講演では、ゾルゲや尾崎秀実といった著名な事例に加え、これまであまり光が当てられてこなかった工作員の実態も明らかにされた。

その一例として、戦時中にソ連側へ日本の外交暗号書や電信記録を横流ししていた外務省の暗号係、イズミ・ケンジ(Izumi Kenji)の事例が紹介された。イズミの情報提供により、ソ連は日本の外交通信の多くを解読し、戦略的に利用していたという。

また、戦後の冷戦期における衝撃的な事例として、北朝鮮生まれのソ連工作員イェヴゲニー・キム(Yevgeny Kim)が挙げられた。

キムは福島県出身の実在の日本人「クロバ・イチロウ」の失踪に乗じてその戸籍を乗っ取り、約30年間にわたり日本人になりすましてスパイ活動に従事していた。ブラウン氏は、こうした「背乗り」の手法が実際に日本国内で長期間成功していた事実は、日本の防諜体制の脆弱さを如実に物語っていると強調した。

ブラウン氏は歴史的教訓を踏まえ、現代日本のセキュリティ体制についても言及した。日本には包括的なスパイ防止法が存在せず、1980年代には「スパイ天国」と揶揄された状況が本質的に変わっていないと指摘。特定秘密保護法などの法整備は進んだものの、依然として不十分であり、特に「影響工作(インフルエンス・オペレーション)」への対策が急務であると訴えた。

ブラウン氏は具体的な懸念材料として、近年の選挙において、ロシア政府がボットやトロール(ネット上の扇動者)を使用し、参政党への支持を拡大させるような世論操作を行っていた可能性を示す専門家の分析を紹介した。これは単なる情報窃取にとどまらず、日米同盟の離間や日本国内の分断を狙ったハイブリッド戦の一環であると警鐘を鳴らした。

ブラウン氏は現在、1945年以降の冷戦期から現代に至るスパイ活動をまとめた次作『Spy Paradise(スパイ・パラダイス)』を執筆中であり、日本の情報セキュリティ体制の抜本的な見直しが必要であると結んだ。

編集:小田菜々香

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