門間一夫氏、金融の「失われた30年」終了も実体経済は「失われた40年」へ 成長戦略より「ビジョン主導」の政策転換を提言

金融正常化と株高でも実体経済の停滞は深刻化しており、政府は根拠薄弱な成長戦略よりも、国民課題に直結した明確なビジョン提示で民間活力を引き出すべきだ。(写真/日本記者クラブ提供)
金融正常化と株高でも実体経済の停滞は深刻化しており、政府は根拠薄弱な成長戦略よりも、国民課題に直結した明確なビジョン提示で民間活力を引き出すべきだ。(写真/日本記者クラブ提供)

みずほリサーチ&テクノロジーズの門間一夫エグゼクティブエコノミストは2026年2月16日、日本記者クラブで「変容する内外経済と金融政策」と題して講演し、日本経済は金利のある世界への移行と株価上昇により金融面での「失われた30年」は終了したものの、実質GDPの低迷という意味での「失われた40年」は依然として進行中であり、解決の糸口が見えない状況にあるとの認識を示した。門間氏は、世界経済が供給制約による低成長とインフレの併存という構造的変化に直面する中、日本もその波に飲み込まれており、従来の成長戦略に固執するのではなく、国民的課題を解決するための明確なビジョンに基づく政策運営へ転換すべきだと訴えた。

門間氏はまず、世界経済の現状について、米中対立による分断、気候変動対策、先進国の人手不足といった「供給制約」が成長率を押し下げると同時にインフレ要因となっていると分析した。各国政府がこれによる国民の不満を和らげるために拡張的な財政政策を採ることで、さらにインフレが長引く悪循環にあると指摘。日本においても、2022年以降の急激な円安と世界的なインフレ波及により物価が上昇し、日銀が利上げに動かざるを得ない状況になったことで、30年続いた「金利のない世界」は終わったと説明した。一方で、日本の実質GDPは低迷を続けており、潜在成長率は政府試算の0.5%をも下回っている可能性が高く、製造業の鉱工業生産もコロナ前水準を回復していないことから、産業基盤の弱体化は明らかだと警鐘を鳴らした。

株価がバブル期並みの高値を更新している点については、企業がコーポレートガバナンス改革や海外展開を進め、国内経済の縮小とは無関係に企業価値を高める経営に成功した結果であり、必ずしも日本経済全体の成長を意味しないと解説した。家計においては、名目賃金は上昇しているものの物価上昇には追いつかず、実質賃金は2019年比で累積約4%のマイナス状態にあるとし、消費者の生活実感はリーマンショック時以上に悪化しているとの見方を示した。

今後の金融政策に関して、門間氏は日銀の追加利上げ判断は「円相場次第」であると予測した。為替が1ドル158円から159円程度の円安水準になれば、早ければ3月や7月にも利上げが行われる可能性があるとし、最終的な政策金利の到達点(ターミナルレート)は1.5%程度を見込んでいると述べた。また、日銀が2026年1月以降、円安が基調的なインフレ率に与える影響を強く警戒する姿勢に転じている点にも言及した。

財政問題については、GDP比230%を超える政府債務残高は過去15年間問題が生じていないことから、直ちに財政危機に陥るわけではないとしつつも、財政健全化を進めるならば、政府債務の裏側にある民間資産、特に富裕層への課税強化といった「富の再分配」とセットでなければ国民生活をさらに困窮させると論じた。その上で、エビデンスの乏しい「成長戦略」に固執するのではなく、経済安全保障や脱炭素、あるいは介護・保育といった労働供給のボトルネック解消など、国民生活に必要な課題を解決するための「ビジョンベースの政策推進」こそが政府の役割であり、明確なビジョンがあれば民間企業はそれに応じて投資を行う底力があると強調し、「進化を諦めるな」という言葉で講演を締めくくった。

編集:小田菜々香

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