2026年2月に実施された衆議院議員選挙は、高市首相が率いる自民党の圧勝に終わった。自民党が過半数を大きく上回る議席を獲得し、野党や無所属の有力議員の多くが落選する中で、無所属の緒方林太郎氏は、得票率51.93%の圧倒的な勝利で、5期目の当選を果たした。
緒方氏は、外務省出身で、外交に精通している。その緒方氏は、無所属というニュートラルな立場で、日本の外交をどのように見ているのか。日本で相変わらず「台湾有事」が議論され、反中感情が高まる中で、日中関係、日台関係についての考えを聞いた。(インタビュー・文:早田健文)
【緒方林太郎(おがた・りんたろう)プロフィール】
衆議院議員
1973年、福岡県北九州市生まれ。東京大学法学部在学中に外交官試験に最年少合格。1994年、外務省入省。中東アフリカ局、国際法局条約課などで課長補佐を務める。2005年、外務省退職。2009年、衆議院議員選挙で民主党から出馬し、初当選(福岡9区)。2度の落選を経験。2021年、衆議院議員選挙に無所属で当選。2024年、2026年も無所属で連続当選。現在5期目。国会では衆議院会派「有志の会」に所属。
日本の「親台湾」は反中感情の裏返しか
Q:日本の台湾に対する認識は、偏りすぎている。現政権の民進党や台湾独立勢力の考え方はたくさん伝わってくるが、そうではない部分の台湾は伝わっておらず、台湾の全体像が見えないのではないか。
A:日本の親台湾派と言われる人たちは、結局、親チベット、親内モンゴル、親ウイグルとかとほぼ同じなのです。「反中」「嫌中」の反射的効果として見えることが多い。私からすると、それはどこか違うのではと感じます。
私は、台湾に親近感を持って接しています。しかし私は、「反中」「嫌中」の反射的効果としての親台湾ということは、絶対しないと決めています。中国が嫌いだから、それと対立している台湾と仲良くしなければいけない。それでは台湾側にも失礼だと思います。台湾の人々の中にも、そういう日本の事情について、気付いている人たちもいるわけです。
台湾は日本に親近感を示してくれている。しかし、台湾という地域、「中華民国」という「国」の国際社会での位置付けからして、日本では政府間はダメだ。だから、国会など非政府間のやり取りなど、どのような形でもいいから関係は大事にしなければいけない。それはその通りだと思います。ただ、私はそこに健全でないものを感じることがあります。
正直に言いますが、台湾にも良いところもあれば悪いところもある。それをフラットに見て、良い付き合いができるように、と常に思っています。中国がけしからんという状況が強くなればなるほど、皆が台湾に付く。つまり、台湾が中国との関係の関数になっている。それは良くないなと思います。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
台湾統一と「92年コンセンサス」 平和的解決をどう考えるか
Q:前回の衆議院選挙の時に緒方さんは、「台湾と中国が合意の上で統一するなら、それはそれで良いではないか。ただし武力は駄目だ」と語った。「反中」「嫌中」の風潮が色濃い現在の日本で、選挙の際になぜ敢えてそのような発言をしたのか。
A:今、平和に対する意識が、すごく高まっています。私には、戦争をしてはいけないという強い思いがあります。そして、私がもともと外務官僚だったこともあります。
つまり、中国と台湾が合意の上で平和的に統一されることは、日本として立ち入る話ではない。内政事項である。ただし、平和的な手段でない時はダメだ。それを含めて内政事項だというのはダメだ。
実はこれ、私が考えて発言したものではなく、日中国交正常化の時の大平外務大臣の国会答弁です。基本的には内政事項である。その基本的には、というところにものすごく重きを置いているわけです。これは先人の知恵です。私は、交渉に携わった外務官僚の人たちの交渉経緯なども知っています。最近、私が心配しているのは、そうした経緯を学ばない、知らない国会議員が増えてきたことです。非常に気になっています。
逆に、中国の日本担当の外交官などと話すと、彼らは非常に勉強しています。外務大臣やった人などは別でしょうが、日本の国会議員は臆病なのかどうか分かりませんが、遠巻きに中国側にけしからんというは言う。では、本当に中国の外交官や政治家と向き合って議論できるほどの積み上げがあるのかというと、非常に怪しい。
例えば、中台関係で「92年コンセンサス」(注)というよく分からない曖昧模糊としたものがあって、それをどう捉えるか。何を意味するかということについて議論があります。しかし、中国や台湾に対して関心を持っているという割には、知らないのです。関心を持っているように見えるけれど、実際にじっくり話すと、よく知らないという人たちが多い。
私は、軍事でやる時まで内政事項だというのはダメだ、ということを中国の外交官にははっきりと言っていますし、これからも中国側にはっきり言い続けたいと思います。常にポジションを変えない。国内向けに聞こえの良い話をし、国外向けに厳しい話をするということではなく、内でも外でも、すべてにおいて同じメッセージを発することができる自分でありたいと思っています。
(注)「92年コンセンサス(中国語は「九二共識」)」は、国民党の李登輝時代の1992年、台湾側窓口団体「海峡交流基金会」と中国大陸窓口団体「海峡両岸関係協会」が香港で会談を行った際、双方が口頭で「1つの中国」を認めたというものだ。国民党はこれを「1つの中国、各自解釈(一中各表)」と説明し、「中国」とは中華民国のことであり、中国大陸側がこれをどう解釈しようが構わないと主張した。中国大陸側は台湾の国民党のこの解釈を認めたことはないが、黙認する形で「92年コンセンサス」を双方の交流の基礎と位置付けた。これに対して独立を志向する立場の民進党は、「1つの中国」に関する合意の存在を認めず、「92年コンセンサス」を認めるよう求める中国大陸の要求を拒否し続けている。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
中国外交官と交わす「武力統一」を巡る議論
Q:そうした話をされるときに、中国の外交官からはどのような反応があるか。
A:やはり、分離勢力、独立勢力の策動は、我々は絶対に認めることができない。我々だって平和に統一できるようにしたいけれども、分離独立勢力の策動が激しいので、それに対して我々はありとあらゆる手段で防いでいかなければならない。こうした言い方が多いと思います。
基本的に平和統一するのであればどうぞ、ただしそうでない時にまで内政事項だというのはダメだ。この日本の立場は、良くできた理屈だと思います。これに対してノーとは言いにくいのです。中国側もこれを言われると、いや我々は何が何でも武力を通じても統一してやる、とは言いにくい表現になっていると思います。
だから、日本の先人は優れていたと感じますし、この理屈をワンボイスで、実は国会議員は皆が言わなければならない。それはおそらく、台湾との関係でも十分に理解され得るものだし、分離独立を煽っていることにもならないでしょう。だけれど、国会議員の中には、台湾に行って台湾独立を支援する人たちがいます。何かと威勢の良い人たちがいるわけです。それで本当に大丈夫なのかなと思います。
これはそれほど単純な話ではありません。世界で一番難しいテーマなのです。
中国が主張する「分離独立」と台湾海峡の現状維持
Q:分離独立勢力の動きは受け入れられないというのが、中国側の一貫した姿勢だ。その分離独立とは何なのか。
A:「中華民国」という表現は「台湾」とはまた別の響きをしています。特に台湾の人たちは、「台湾」という言葉を使う時と「中華民国」と使う時を、非常に上手く使い分けていると感じます。では、分離独立というのは、より強く主権を主張するような動きのことを言うのではないかと思いますが、それが何かというのは人によって分かれるのではないですか。
おそらく、今、求められているのは、今のステイタス・クオー(現状維持)、あの状態を巧みに継続していくことなのかなと思います。実際、本当に独立ができるのかというと、それはできないわけです。だからといって、中国側にべったり寄っていけるのかというと、民進党とか国民党とかいろいろありますが、それもやはり台湾の内政上、そうではないでしょう。
まったく違う政治体制がもう80年弱も続いているわけです。そうすると同じ民族であったとしても、考え方も違うし、文化も違い、それぞれの地域に独自性が根付いていくと思います。ですから、今の状態がずっと続くことで、ステイタス・クオーを維持していくことがベストではないかと、私は思います。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
ただ逆に言うと、今のステイタス・クオーが続くことは、北京側からすると、既成事実がより固定化していくと見えるのだろうと思います。彼らからすると、今の状態のまま進んでいくことは、分離独立主義者の策動がより進んでいると見えるでしょう。今の状態が固定されてしまうこと自体が、北京側からすると、分離独立主義者の策動が功を奏して、我々から離れていっていると見えるのではないでしょうか。
そう見えるからこそ、今、より分離独立の運動のように見える具体的なアクションがあると、より遠ざかっているように見える。そうすると、地域の安全保障環境が非常に不安定になります。
だから、今ある状態をずっと続けていくということ。それが良いか悪いかではなく、価値判断を挟まずに、それ以外に何か方法があるのか。台湾があって、中国があって、ベクトルがどっちに向いてもおそらくうまくいかない。であれば、できるだけステイタス・クオーを維持する。それもまた議論があると思いますが、もうあれこれ言わずにじっとしていること。政治体制としてそれ以外に取れる道がないのではと思います。
「台湾有事」は日本と無関係ではない 米軍基地と安全保障上のリスク
Q:それによって戦争を引き起こさないということが、日本にとってもそれはやはりベストだということか。
A:「台湾有事は日本有事」という表現が正しいかどうかは分かりませんが、日本が無関係でいることはできないと思います。
今、アメリカがトランプ大統領の下で本当に台湾防衛にコミットするのか、それはだんだん怪しくなってきていると、皆が感じているわけです。「台湾有事」が起きた時に、嘉手納基地や普天間基地から米軍が動かないという選択肢は、少なくともトランプ大統領になる前であれば想定できなかったわけです。
本当に「台湾有事」になった時、日米安保条約とか、台湾防衛とか、すべての仕組みが機能するのであれば、中国は同時に嘉手納と普天間の無効化を図ります。自由に出てくることができる基地がすぐそこにあるのに、それを放置して台湾侵攻など絶対しません。そうしたことも、無関係とは言えない。だから、それ以前の問題として、そういう状態に絶対しないということです。
ただ、私がすごく恐れているのが、やはり習近平があれだけ物を言った以上は、台湾との関係で何か成果を求める可能性が高いことです。祖国統一とか、台湾は絶対取り戻すとか言っているわけです。それに、人民解放軍との関係がどうなのかですね。
高市首相の「台湾有事」発言をどう見るか
Q:そうした状況の中で高市首相が「台湾有事」に関する発言を行って、中国との関係を非常に悪化させて今に至る。これについては、どういうお考えか。
A:意図的に言ったのではないかという話がありますが、私は全然違う見方を取っています。当時、高市さんは総理になって気分も高揚して、今でもそうですが全部の答弁を朝から早起きして全部チェックしています。朝3時半ぐらいからやっていると聞いたことがあります。あまり寝てないそうです。それで、おそらく少しぼんやりしていた可能性があります。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
また、高市さんは閣僚経験が多いものの、外交、安保を担当したことがありません。 外相、防衛大臣、官房長官をやったことがない。そうした閣僚をやると、何を言ってはいけないかに対する基礎的な素養が付きます。例えば、日米安全保障条約とか安全保障法制全体に関して、絶対に具体的な国の名前を絶対に特定しないというのは、最低限の素養です。
どれほど執拗に聞かれても、個別具体的な話をしない。国会で問い詰められた時でもこれ以上は言ってはいけない。そうした、総理になる前に備えておく必要のある最低限の知識を持っていなかった可能性があります。しかも、朝早く起きて頭がぼんやりしていた。あの高市発言は、そうしたことの不幸な副産物にしか、私には見えません。
ただし、言った以上は翻すこともなかなか難しい。私は個人的には、正直に申しますが、バカなこと言ったなと思いました。
例えば、1990年代後半、「周辺事態」(現在は重要影響事態)に台湾を含むのかという質問に対して、「日米安保条約6 条が想定する極東と極東周辺を超えない」と答えた外務省の北米局長が更迭されています。「周辺事態」の概念の中に台湾を含むのか聞かれて、極東全般を含むということなのでまあ当然含むのでしょうね、といったことを言って更迭されました。
ですから、私のような外務官僚をやった人間からすると、今回の高市答弁はそんなことを言ったら、誰が言っても首が飛ぶというぐらいの重大な発言です。外務省の常識として、国の名前とか、対象としてどこを含むかなど、絶対言わない。
安全保障法制の時でも、あえて地域を特定して議論をしたのはホルムズ海峡の閉鎖だけです。今まさに問題になっているこれだけは、地域を特定しました。しかし、「重要影響事態」「存立危機事態」に、絶対に国の名前を出さないのは常識だったはずです。
それを、ぼんやりして言ってしまった。言った以上は、なかなか覆せない。撤回すると、それはそれで別の問題になってしまう。言ったものを撤回すると、逆にそこで発動の可能性を閉じることになるので、それもできない。ありとあらゆる可能性を持っておかなければならないのに、それを余計なことやったと思います。
日中4文書による関係悪化の「火消し」は可能だったのか
Q:高市発言を解決する方法はないのか。
A:実は火消しができなかったかというと、私はできたような気がします。実は、高市さんの発言に対する私の火消し案があって、それは、過去の日中間の4文書を使うことです。
最初が周恩来・田中角栄の日中共同声明(1972年9月29日)。二つ目が鄧小平・福田赳夫の日中平和友好条約(1978年8月12日署名)。三つ目が江沢民・小渕恵三の日中共同宣言(1998年11月26日)。最後の四つ目は胡錦涛・福田康夫の日中共同声明(2008年5月7日)。そのうち、一番台湾について毒々しく書いてあるのは、江沢民・小渕恵三の時の文書です。「中国は一つ」という表現が出てきます。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
高市さんの国会答弁であの事件が起きた後、できるだけ早いタイミングで、国会で誰かやらせ質問をして、高市さんにこの98年の宣言を再確認させるのは、一つの火消しになり得たのではないかと、私は思っています。かつての文書を再確認させるだけです。これなら高市さんだってうんというわけです。それだとうまくいったのではないかと思います。
あの98年の時、江沢民にものすごく迫られて、日本側はいろいろと言わされています。台湾に関するところは、もう非常に毒々しいと思うぐらいです。日本側は、日本が日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き順守し、改めて「中国は一つ」であるとの認識を表明する、とまで言っているわけです。これをできるだけ早いタイミングで高市さんに確認させ、表明させておけば、ここまで悪化しなかったと思います。火消しも悪かったですね。
日本はどこまで行っても大平答弁のラインを超えられません。大平答弁はよくできています。高市さんは、いずれにせよ不勉強です。彼女がなぜ外相や国防相のポストに置いてもらえなかったかというと、やはりこうした不安があるからです。だけど、本当は身につけなければいけなかったけど、身についていない人が総理になってしまった。その人が、ぼんやりして余計なこと言ってしまった。戦略的には考えていないと思います。これが私の読みです。
細る日中対話ルート 緒方氏が「対中強硬派」を批判する理由
Q:緒方さんは選挙の中で、高市政権には中国とのコミュニケーションの糸がないと指摘している。これはどういうことなのか。
A:なぜそういうことになっているのか。かつて、中国と日本との間で、議員関係など重層的なコミュニケーションの糸がありました。20年ぐらい前であれば、野中広務さんは、当時の中国の副主席の曽慶紅さんと仲が良く、コミュニケーションがありました。何か物事が起きると、そのルートで話しをして、それを持ち上げて、表でお互い収めてしまう。そのような感じでした。
その後、ダメになっていった決定的なきっかけが、おそらく尖閣の国有化の時の日中間です。民主党政権の時、ルートが細く、メッセンジャーとなった人間も悪かった。当時、胡錦涛と野田佳彦が確かウラジオストクかどこかで会っていますが、野田さんは尖閣国有化について理解が得られていると思っていた節があります。それを言った時に、胡錦涛がぶ然とした顔したことがありました。その辺りから、もう全然駄目です。
安倍さんの時代は、自民党で「保守派」「対中強硬派」みたいな人たちが台頭します。その中でも、二階俊博さんという人は一つのルートだったのでしょう。しかし、次第に、中国と接点を持つことで「媚中派」だと指差されるようになりました。特に二階さんがいなくなってから深刻です。
だから私からすると、これもはっきり言いますが、「対中強硬派」とか「保守派」とか言っている人は、単に中国側の理屈と向き合う覚悟と勇気のない臆病者に見えます。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
中国側は中国側で、それなりの理屈を持っているわけです。それを是とするわけではありません。それと戦う気持ちを持たなければいけません。あなたはそう言っているけれど、私はこう考える。こうした論戦をやる。丁々発止でやるだけの勇気がないのではないか。私にはそう見えてしまいます
「合意できないことに合意する」外交対話の重要性
Q:自分の殻に閉じこもっている。
A:楽ですよ。だって、川の対岸から向こうに向かって、バカ、と叫ぶだけです。対岸から絶対に矢が飛んで来ない距離でバカと言うことは、簡単です。今の「保守派」「対中強硬派」は、それをやっているように見えます。
そうではなく、中国側と厳しいやり取りをする。私は中国の外交官ともやり取りしますが、時々、結構きついな、鋭いところを突いてきたなと思うことがあります。その理屈で来るのかと。だけれど、やはり常にやり取りをすることによって関係は醸成されていくものです。
外交の世界ではよくあることですが、「アグリー・トゥ・ディスアグリー(Agree to disagree)」という言葉があります。合意できないことに合意する。中国となんて「アグリー」できることはそれほど多くないわけです。お互い違いますから、「アグリー・トゥ・ディスアグリー」をどれだけ作っていけるかが大切なのです。
純粋に本当に「アグリー」ができればそれに越したことはありません。だけど、「アグリー・トゥ・ディスアグリー」を作らなければならない時には、それなりに会話できる間柄でないといけません。物事を解決しようとする時に、中国との関係ではこの「アグリー・トゥ・ディスアグリー」という言葉がものすごく重要です。
それをやるためには、お互いに信頼感が必要です。裏切らないということ。私とあなたは考え方が違うけど、違うことをお互いに尊重しようということです。しかし、その尊重するという姿勢に疑義があっては、「アグリー・トゥ・ディスアグリー」は成立しません。実は今はこの状態なのです。中国と「アグリー」は無理だからやろうとは思わない。「アグリー・トゥ・ディスアグリー」は大変だ。という状態です。
かつては、野中さんのように自民党の人たちも中国といろいろな付き合いがあって、いろいろなルートの中でこれができたけど、今もう細くなっています。今は外交レベルでもほとんどコミュニケーションがありません。噂に聞くところでは、在中国の日本大使は、ほとんど中国の要人と会えていないそうです。
そうすると、本当に怖いと思うのです。過去の戦争の歴史を見ると、実はミスコミュニケーションから戦争につながっているケースがものすごく多いのです。不慮の事故と相手の意図の読み間違いが、結果としてエスカレーションしていったことは、大変に多いわけです。第一次世界大戦はその典型です。バルカン半島で気がついてみたら、もうすごいことになってしまった。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
今、日中関係のコミュニケーションの糸が少ないことは非常に危険であり、お互いの意図を読み間違える可能性があります。例えば、東シナ海で日本の海上自衛隊と、中国の人民解放軍が不慮の形で接触があった。中国国内が日本は「新型軍国主義」だと言ってエスカレートしてきた。日本もエスカレートしてきた。それを収束させる方法がない時の怖さを、誰も感じてないのかと思うのです。私は強く感じています。
第一次世界大戦は、セルビアという国で、オーストリア・ハンガリー帝国のフェルディナント皇太子が、セルビア独立主義者のプリンチィプという若者によって殺害されたことが、そこまで発展していったのです。そうした過去の戦争の歴史、戦争はどうやって起こるのかに対する透徹した目が、今この辺りの国会議員の中に欠けているのではないかと危惧しています。
公明党や野党に残る中国とのパイプ
Q:中国との対話ルートとしては、自民党のかつてのパイプが細っている。それ以外の政党ではどうか。
A:公明党は見えないところ多いのですが、公明党の議員にはやはり自分たちが中国との関係を切り開いてきたという自負心が、薄くなっているとはいえまだあります。田中角栄訪中の前に日中国交正常化のきっかけを作ったのは、公明党の竹入義勝さんが先に乗り込んで、向こうが思っていることを全部メモにして、それを持って帰って来たことにあります。当時の外務省と官邸で、これならいけるということで、最後は総理の判断で田中角栄訪中ということになった。まさに井戸を掘ったわけです。
公明党の役割は、国交正常化後も含めて大きかったと思うし、そこで培ってきた人脈もありますし、意識も引き続き高いと思います。ただ、だいぶ薄れてきているのも同時に感じるところです。また、野党になってしまったのも影響があるかもしれません。
他の野党、立憲民主党、国民民主党、参政党、チームみらいを含めて、現職の議員で中国との関係で何かを考えようという人は、限られた人を除けばとても寂しい状況にあるというのが、私の率直な感想です。
党派を超えた日中対話ルートは構築できるか
Q:そうした状況の中で、中国とのパイプを作ろうとされている緒方さんだが、仲間はいるのだろうか。
A:自民党の中にもしっかりした人がいますし、公明党の中にもしっかりした人はいます。今は、党派を超えてということが、私はとても重要だと思っています。どのような形ででもいいから、水面下でやれる道は重層的に、特定の人に依拠するのではなく、重層的に存在していることが重要です。何か一つ太いものが繋がっているより、いろいろなルートでいろんな繋がりがあるというのが良いのでしょう。
しかし、今、与党の自民党と日本維新の会のあたりは、何かおかしなヒロイズムなのか、中国に対して厳しく言うのがカッコいいぐらいに思っている人たちがいます。確かにカッコはいいのです。だけど、そうした威勢の良いことだけ言っている人たちは、いざという時に役に立たない。
今これだけ日中関係が悪くなって、困っている人たちは結構たくさんいるわけです。経済界などを含めて、皆、困っている。しかし、威勢のいいことだけ言っている人たちは、手を打てない。コミュニケーションができない人たちが、何かできるでしょうか。何か役に立つでしょうか。役に立っていません。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
私は去年、日本の中国大使館での人民解放軍98周年記念レセプションに参加しました。中国の人民解放軍が好きとか嫌いとかではなくて、コミュニケーションの糸だけはきちんと持っておこうという考えからです。事前に、自衛隊、防衛省の制服組に何人くらい参加するのか聞いたら、陸海空の将補クラスが行くとの話でした。幕の部長クラスだと思います。将補さんたちが行くのであれば、まあよかろうと思って、私も行きました。
それに対して「保守派」の人たちから、「媚中派」だ、大使館のレセプションのみならず人民解放軍のレセプションまで行くなど何ごとだ、などとかなり批判されました。今でもネット上で見ると、緒方林太郎は「媚中派」だとか書かれています。だけど、よく考えてみれば、今、中国国内において高市発言に一番激しく反応しているのはもしかしたら習近平かもしれないけど、おそらく同様に激しく反応しているのは軍人です。軍人がけしからんと言っているはずです。
では聞くけれど、あなた方、中国の軍人に対して何らかのリーチを持っていますか。軍人と話せる間柄にありますか。ないじゃないですか。中国の武官と会話して、日本のメッセージを伝えるルート持っていますか。ないでしょう。そうなのであれば、中国とコミュニケーションを持つことイコール「媚中派」だという今の論調は、かなり危険だと思うのです。
その雰囲気が自民党とかの間に漂っているので、そんな雰囲気を振り切って中国とコミュニケーションしなければならないと思っている人以外は、皆、中国と接点を持つことを自制しています。
「媚中派」のレッテルが日中対話を妨げる
Q:多くの人は「媚中派」のレッテルを貼られることが怖い。しかし、緒方さんは、レッテルを貼られることは恐れない。
A:「媚中派」だと言われるのを、皆、怖がっているわけです。そんな雰囲気が漂っているくせして、いざとなった時、何の役にも立たない。それではだめでしょう、と思っています。
「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス(他に打つ手はなかったと信じたい)」(陸奥宗光の回顧録『蹇蹇録』にある一節)ということだと思います。私は「媚中派」とかなんとかって言われますが、陰で言わずに面と向かって私に言って来い、面と向かって抗議して来いという思いがあります。面と向かって言ってくれれば、これまで言ってきたようにきちんと反論してあげます。
私は、中国に胡麻をすったりしてない。言うべきことを常に言っている。何度も言いますが、直接の接点を持つことなく、遠くから「中国けしからん」とだけを言っている人間は、私からするとただの臆病者にしか見えません。
本当にやり取りすると、私などはまだ議員外交のレベルですが、やはり彼らは勉強をしています。彼らとやり取りすると、時折、彼らの理屈がかなり政治化していることを感じます。私が最近ものすごく気になっているのは、中台関係においても、中米関係においても、中国が「我々は一緒に日本と戦った。そのレガシーを我々は大事にしよう」という論調を、非常に強めてきているように見えることです。
中台関係でも、台湾の国民党主席と会った時、習近平はその理屈を持ち出しています。中米の時でも同じ雰囲気だったのだろうと思います。これを出されることの危険性、怖さ。日本を「新型軍国主義」だというのはそれなのです。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
日本の軍国主義と戦ったという、そういう歴史まで絡めて持ってこようとしている。やはり、よく話をしてみると、彼らの理屈が分かります。中国が日本を新型軍国主義だと言っているのは荒唐無稽だ、と皆は言っています。しかし、実はその後ろにはそうした論理展開があります。「太平洋戦争、第二次世界大戦で、我々は一緒に戦った。日本は敵国だ」。そうした論理が潜んでいるというところまで思いを致せている人間がどれくらいいるでしょうか。国会にはいません。
「新型軍国主義」をバカなレッテル貼りだと思っている人が大半です。私もバカだと思いますが、その背後にそれなりの理屈があります。そして、その理屈はなかなか断りにくいところがあります。こうしたことは、相手と直接話してみて、そうした中で感じていかなければならないはずです。しかし、威勢の良い人たちは、たぶん誰も考えてない。荒唐無稽、の一言で終わっています。
中国の「法戦」と向き合う議員外交
Q:緒方さんを「媚中派」だと批判をする人たちで、正面切って緒方さんと論争しようという人はいるか。
A:ぜひお越しいただければ、いくらでもご議論させていただきます。面と向かって、人民解放軍の98周年レセプションに行くなんて「媚中派」だ、お前はけしからん、という方がここに来られたいというのであれば、喜んで議論したいと思います。「媚中派」だとすごく言われますが、私が「媚中派」でないことは、これでご理解いただけると思います。
私と面と向かうことができないのに、中国側と面と向かうことができるわけがありません。私と面と向かうことができないのに、さらにさらにやっかいな。さらに面倒くさい中国の外交官とだなんて、無理ですよ。
私は国益意識を強く持っているつもりです。やっかいな中国の外交官と対峙しても、私ははっきり言います。例えば、南シナ海での「九段線」(中国が権利を主張するために地図上に引いている破線)は絶対に受け入れられない、と私が言います。そうすると相手も、国連海洋法条約のどこに基づいている、と反論します。
彼らは今、「法戦」という言葉使います。法律上の戦いです。彼らはよく勉強しています。それは、国際法の戦いにも勝つためです。私が外務省の国際法局にいたから非常に気になるのかもしれませんが、正直に言って「法戦」を戦えるだけの素養を兼ね備えた国会議員など、私から見るともう壊滅的です。ほぼゼロです。そういう状況なのです。
中国との対話ルート構築は進むのか
Q:中国とのパイプ作りで、感触はあるか。
A:まだ全然できていません。日中関係の全体に引きずられています。だけど、いろいろなルートで、いろいろな人たちと会って、相互往来をできるだけ進めたいと思います。
実は、中国の人の方が、意見が違うということに対する寛容度が高い気がします。これは中国の歴史を見れば分かります。中国の3000年ぐらいの歴史を見ると、世の中いろいろな人がいるということが、彼らの歴史観の中にあります。日本は意見が違うことに対する寛容度が低い。「和をもって貴しと為す」という文化なのかもしれません。
中国の人の方が意外に、あの「アグリー・トゥ・ディスアグリー」に対する寛容度があると思います。まあ、人なんてそんなものだよね、という「アグリー・トゥ・ディスアグリー」を受け入れる素地が、まあまあ彼らにあります。 (関連記事: 【寄稿】南シナ海から台湾海峡へ 中国海警局が揺さぶる第1列島線の秩序 | 関連記事をもっと読む )
もちろん、激論になります。決して折り合っていません。折り合わないことについて、折り合っているだけです。だから、日本人の方が、「アグリー・トゥ・ディスアグリー」ということについて、もう少し透徹した考え方を持つべきではないかと思うことが多いです。
あれだけの国を治めていくとなると、いろいろなことをやらなければならない。中国の内政なんて、今でも結構「アグリー・トゥ・ディスアグリー」の要素がとても多い。全部言うことを聞け、ということができるのは、中国の歴史の中で極めて稀なケースです。
日中関係の現実 「隣人は変えられない」
Q:日本と中国はどのような関係であるべきか。
A:隣人は変えられない。地理的に隣人であることは変わらないわけです。しかし、日本は幸運なことに、中国と陸で接していません。私は外務省でいろいろな大陸国家を訪ねて、国境を陸路で越えたことがありますが、やはり陸で中国と国境を接するというのは、ものすごい圧力感じると思います。ネパールとの国境、パキスタンとの国境、インドとの国境、タジキスタンの国境、キルギスの国境などの近くまで行きました。すごい圧力だと思います。怖いです。
だから、海で切り離されていながら、隣人であるというのは、ちょうど良いぐらいのポジショニングにある、と私は思っています。中国はこれから人口が減っていきますが、それでも日本の10倍以上の人口を持っている。かつて戦略的互恵関係という言葉を使っていましたが、うまくやるということです。
ただ、その中で我々がすごく気をつけなければいけないのが、太平洋の米中二分論のような話です。今から10年以上前、一時期あったと思います。太平洋の勢力圏を二分しようといった話です。これを結構恐れています。
かつては、習近平からオバマに太平洋二分のようなことを言って、これは上手くいかなかったのですが、実は図らずも10年経って、まさにトランプ政権下でアメリカが手を引こうとしています。そうすると、南北アメリカ大陸はアメリカの勢力圏だ。こちら側は中国の勢力圏だ。そのような話になって、中国の意向抜きに日本の政治体制が維持できなくなるような、そのような状況にはしてはならないと思います。
そこはやはり、東アジアの安全保障にアメリカをしっかり引き止めるということも含めて、やっていかなければなりません。日本は海で切り離されているので、それが可能な地理的条件もあるわけです。ですから、中国とはうまくやっていかなければならないけれども、太平洋二分論のような形で中国の勢力圏に入ってしまうようなことは絶対やってはいけない。それが日本のポジショニングではないかなと思っています。
日本と台湾はどう向き合うべきか 「反中の副産物」にしない関係
Q:中国は日本の外交にとって非常に重要な一環だが、その中で台湾が今、クローズアップされている。日本と台湾はどのように付き合いを進めるべきか。
A:最も親日的であり、私は親近感を持っています。あの地域が平和でなければならない時に、もちろん台湾に住んでいる方の意思、自分で決める決定権を尊重することは言うまでもありませんが、独立の方にあまり偏らないようにしなければならない。かといって、中国の方に強制的な形で行ってしまうというのも良くない。
親日である台湾に対して、我々の思いは本当に十分に答えられているのだろうかと、時々思うことがあります。つまり、冒頭言いましたが、日本の親台勢力の中には、反中、嫌中の副産物としての親台であるケースが結構あるように見えます。それは、本当に台湾の人たちの日本に対する思いに応える行為であろうかと、私は非常に疑問を持っています。
中国という特殊な要素をあえて脇に置いて、その上で、親日である台湾の思いに答える道を探らなければならない。私はいつもそう思っています。
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編集:梅木奈実


















































