「2027年台湾侵攻論」は誤読か 元幹部自衛官「台湾海峡の平和は軍事だけで決まらない」

2026-07-29 07:23
2026年7月3日、中国共産党中央軍事委員会主席の習近平国家主席は、新たに上将へ昇進した張曙光氏(左上)、王剛氏(右上)と記念撮影に臨んだ。前列右は中央軍事委員会副主席の張升民氏。(写真/AP通信)
2026年7月3日、中国共産党中央軍事委員会主席の習近平国家主席は、新たに上将へ昇進した張曙光氏(左上)、王剛氏(右上)と記念撮影に臨んだ。前列右は中央軍事委員会副主席の張升民氏。(写真/AP通信)

米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン元司令官は2021年、米議会での証言で、中国が2027年までに米国の介入を抑止しつつ、台湾侵攻を実行できる軍事能力を整える可能性があるとの見方を示した。

この発言を基にした時間軸は、その後「デービッドソンの窓(Davidson Window)」と呼ばれるようになった。米国、台湾、日本、オーストラリアなどは2027年を一つの目安とし、インド太平洋地域における防衛計画の見直しや軍備の再編を進めてきた。

さらに、米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ元長官が、習近平国家主席は2027年までに台湾侵攻の準備を整えるよう中国軍に指示したと述べたことで、「2027年台湾侵攻論」は国際社会に広く浸透した。

しかし、中国語に堪能で、幹部自衛官や防衛省防衛研究所の中国研究者としての経歴を持つ目白大学の五十嵐隆幸准教授は、この見方が「2027年に中国軍が必ず台湾を攻撃する」という意味で受け止められていることに疑問を投げかける。

五十嵐氏は7月23日、新著『台湾有事――歴史・軍事・安定メカニズム』を刊行した。同書では、「2027年台湾侵攻論」の前提を改めて検証し、台湾海峡問題を単なる軍事問題として捉えることの危うさを指摘している。

米軍のデービッドソン新インド太平洋軍司令官(大将)は、かつて台湾に売却されたオリバー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲート「テイラー(USS Taylor FFG-50)」(台湾引き渡し後は「銘伝」と命名)の艦長を務めた経歴を持つ。(ウィキペディアより)
米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン前司令官。(資料写真/ウィキペディアより)

「中国が侵攻するか」の結論を出す本ではない

​五十嵐氏は台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の単独インタビューで、本書の目的について、中国が台湾に武力侵攻する、あるいは侵攻しないという結論を示すことではないと説明した。

台湾海峡問題を理解するには、歴史、軍事、中国政治、台湾社会の動向、国際政治など、複数の視点から総合的に検討する必要があるという。

「そうした基盤があって初めて、中国が武力行使を選択するのか、台湾海峡の平和と安定を維持するために何が必要なのかを冷静に議論できる」

中国の軍事力が過去20年間で飛躍的に強化され、台湾海峡周辺の緊張が高まっていることは否定できない。日本政府が最悪の事態を想定し、必要な防衛態勢を整えることにも一定の合理性があると五十嵐氏は認める。

一方で、同氏が懸念するのは、日本社会において「中国は必ず台湾に武力侵攻する」という考え方が、安全保障政策を議論する際の既定の前提になりつつあることだ。

「最悪に備える」と「必ず起きる」は異なる

台湾海峡問題は、本来、軍事力だけで説明できるものではない。

現在の中台関係は、100年以上に及ぶ歴史、中国共産党の対台湾政策、台湾の民主化、米中関係、台湾海峡の平和を長年支えてきた抑止の仕組みなど、さまざまな要因が重なり合って形成されている。

五十嵐氏は、安全保障政策では最悪のシナリオに備える必要があるとしながらも、「最悪の事態に備えること」と「最悪の事態が必ず起きると決めつけること」は全く異なると強調する。
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同氏が改めて検証したいのは、防衛力整備そのものの是非ではない。そうした政策を支える前提が、日本社会で歴史、政治、軍事の各面から十分に検討されてきたのかという点だ。

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