今夏、日本を代表する野外音楽フェスティバル「FUJI ROCK FESTIVAL(フジロック・フェスティバル)」が、新潟県湯沢町の苗場スキー場で開催された。会場では、日本国内の音楽ファンに交じり、台湾から海を越えて訪れた参加者の姿も目立った。
世界各国のアーティストによるライブだけでなく、山や森林に囲まれた会場の開放感、偶然出会った音楽を楽しめる自由な雰囲気も、フジロックならではの魅力だ。台湾の音楽ファンの間でも、毎年の開催を楽しみにする人や、一度は苗場を訪れたいと考える人が増えている。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/李豪提供)
こうした「聖地巡礼」の中には、長年フジロックに通い続ける筋金入りのベテランだけでなく、目当てのアーティストを見るために台湾から日本を訪れたファンも少なくない。
『風傳媒日本語版(ストームメディア)』は今回、台湾の詩人・作家である李豪(リー・ハオ)氏と、フジロックへの参加経験を持つ台湾人6人にインタビューを実施した。目当てのアーティストや会場で感じた魅力、初心者が知っておきたい装備と宿泊事情について聞いた。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/李豪提供)
詩人・李豪氏、2023年以来2度目の苗場へ The xxやXGを追う 李豪(リー・ハオ)氏は、近年の台湾文学界で注目を集める詩人・作家の一人だ。
ベストセラーとなった詩集『自討苦吃的人(自ら苦労を買って出る人)』をはじめ、『瘦骨嶙峋的愛』『傾國傾城的夢』『剩下的盛夏只剩下了盛夏』『厭世者求生指南』『滿是空無一物』などの著書がある。 その繊細で感受性豊かな筆致は、現代人の孤独や心情を巧みに捉え、特に若い世代を中心に幅広い支持を集めている。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/李豪提供)
熱狂的な 音楽ファンとしても知られる李氏は、台湾国内外のインディーズ音楽や音楽フェスに足を運んできた。今年は2023年以来、2度目となるフジロック参加のため苗場を訪れた。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/李豪提供)
今回、特に楽しみにしていたのは、英国のバンドThe xxとMassive Attackのステージだったという。
藤井風のライブにも期待していたが、タイムテーブルが日本発のガールズグループXGと重なったため、最終的に断腸の思いで 両方のステージを半分ずつ見ることを選んだ。
李氏は、近年ガールズグループの音楽にも関心を広げているといい、「K-POPを追いかけるようになってからは、音楽やバンドを聴くうえでの『最終到達点』のようになっている」と笑った。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/李豪提供)
初心者には「自ら苦労を買う覚悟」を 今年の会場について、李氏は「例年通り素晴らしい雰囲気だった」と振り返る。
東京では台北以上とも感じる厳しい暑さに見舞われた一方、山間部に位置する苗場は、小雨が降ったものの比較的涼しく、過ごしやすかったという。
自然の中で行われる大型フェスである以上、相応の体力と準備が必要になるからだ。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
音楽フェス自体が初めてという人には、交通の便がよく、屋内会場もある都市型フェス「SUMMER SONIC(サマーソニック)」の方が参加しやすいとも話す。
一方、自分の体力や準備を試しながら、自然の中で音楽を楽しみたい人にとっては、キャンプ泊か民宿泊かを問わず、フジロックは 間違いなく最高の選択肢になる という。
「音楽フェスが好きな人には、生きているうちに必ず一度はフジロックを体験してほしい 」と李氏は語る。
大規模な野外フェスがどのように運営され、独自の空間や文化をつくり上げているのかを、現地で直接感じることに大きな価値があると強調した。
台湾人参加者を支える情報コミュニティー Ginaさんは2010年に初めてフジロックを訪れ、これまでに4、5回参加してきた。
台湾から参加する音楽ファンの負担を少しでも減らそうと、2012年にはFacebookグループ「富士搖滾臺灣民間總部」を設立した。
グループでは、チケットの購入方法、新幹線やシャトルバスを利用した移動方法、宿泊先の探し方、各ステージの感想など、台湾人参加者に向けた実用的な情報を発信している。
Ginaさんが今年、特に楽しみにしていたのはThe xxと藤井風だった。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
出演者だけでなく、豊かな自然や環境に配慮した会場づくりも、フジロックの魅力だという。森林の中に設けられた木道や、小川のせせらぎを感じながら歩ける環境は、何度も苗場を訪れる理由の一つになっている。
初参加者には、質の良いレインウェアを必ず用意するよう勧める。
会場は非常に広く、1日に2万歩以上歩くことも珍しくない。事前に足腰を鍛え、履き慣れたトレッキングシューズを用意することが重要だと話した。
「すべての出演者を見ようとすると、移動だけで疲れてしまう。自分の体力に合わせて予定を組むことが大切です」
Ginaさんは自身のコミュニティーでも詳しい参加ガイドを公開しており、来年も苗場を訪れたいとしている。
通訳スタッフが見たフジロックの舞台裏 最初の2回は一般客としてチケットを購入し、その後はボランティアスタッフとして参加している。主な担当は日本語と英語の通訳で、海外アーティストと日本側スタッフのコミュニケーションを支えてきた。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
一般参加者とスタッフ、双方の立場を経験してきた黄さんは、今年の会場について、各ステージ間の距離が以前より遠く感じられたと話す。
また、グリーンステージのスクリーンについても、昨年の全面を使った正方形に近いデザインと比べ、視覚的にやや小さく見えたという。
現在、黄さんがフジロックを訪れる目的は、特定のアーティストを見ることだけではない。会場全体の雰囲気や、フェスという空間そのものを体感することも、大きな楽しみになっている。
「会場内の医療体制や生活設備は、実際にはかなり整っています。必要以上の荷物を持たなければ、体への負担を減らせますし、活動や仕事が終わった後に重い荷物を背負って移動する必要もなくなります」
ボランティアについては、通常、公式サイトを通じて募集要項が公開される。ただし黄さんによれば、実務上は過去に参加経験のあるリピーターが優先される場合も多いという。
仕事は決して楽ではないが、それでも「来年もまた訪れたい」と力強く 話した。
13年通う参加者が語る「資本主義のユートピア」 阿農さんは、コロナ禍による影響を受けた時期を除き、13年にわたってフジロックに通ってきた。
これまで最も印象に残ったステージとして挙げたのは、ボブ・ディランのライブと、足を骨折していたFoo Fightersのフロントマン、デイヴ・グロールが、専用の椅子に座りながら歌った光景だ
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
今年、特に楽しみにしていたのは、グリーンステージに出演したポストロックバンドMogwaiだった。
阿農さんはフジロックを、冗談交じりに「資本主義のユートピア」と表現する。
自然に囲まれた会場には、理想郷のような心地よさがある。一方、そこへたどり着くまでには、チケットや交通費、アウトドア装備など、相応の費用がかかるからだ。
初参加者には「登山に行くつもりで準備してほしい」と助言する。
超人的な体力の持ち主でない限り、あくせく奔走してステージを追いかけることに固執せず、リラックスした気持ちで各エリアを歩きながら「バンドを拾う(偶然の出会いを楽しむ)」方が、思いがけない素晴らしい発見につながるという。
「台湾では、偶然良いバンドに出会うことを“撿團(バンドを拾う)”と表現します。フジロックでは、その楽しみ方ができるんです」
特に薦めるのは、ブルース、カントリー、ワールドミュージックなどを中心に楽しめる「FIELD OF HEAVEN(フィールド・オブ・ヘブン)」だ。
ブッキングを担当する人たちの目利きに信頼を寄せており、一日中そのエリアで過ごすだけでも、演奏力の高いアーティストに出会えるという。
ここに出演したアーティストの中には、その後、欧米を中心に活動の場を広げた例もあり、毎年新しい音楽を「拾う」ための場所になっていると話した。
キャンプから民宿へ 睡眠の質が体力を左右 今年で2回目の参加となったVeraさんは、昨年は友人とキャンプ泊を選び、今年は民宿に宿泊した。
両方を経験したことで、睡眠の質と快適さの面では、民宿のメリットが非常に大きいと実感したという。
今年はHYUKOHなどのステージを見るため、広い会場内を移動した。しかし、何度も各エリアを行き来したことで、想像以上に体力を消耗した。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
その経験から、初参加者には「条件が許す限り民宿を選ぶこと」と、「眠れる時に眠ること」を勧める。
少しでも時間があれば座って休み、必要に応じて仮眠を取る。音楽フェスで寝るのはもったいないと考えるよりも、最後まで楽しむために体力を残すことが大切だという。
ライブ以外では、会場内の飲食店の充実ぶりも印象に残った。
Veraさんはフジロックを「グルメフェス」と表現する。主催者がごみ袋を配布していることや、スタッフによってトイレが清潔に保たれていることなど、運営面の細やかさも高く評価している。
すでに友人たちと次回の参加計画を立てており、10人から15人ほどで民宿を利用することも検討しているという。
「迷っているなら、一度は来てみてほしい。人生で一度は体験する価値があると思います」と力強く語った。
防水性と保温性を最優先に 新潟のソウルフード「イタリアン」をハンドルネームにする参加者は、今年で9回目のフジロックとなった。
同氏は、フジロック独特の「場の空気」と音響環境を高く評価する。メジャー、インディーズを問わず、出演者の水準が高いと感じているという。
阿農さんと同様、特に推薦するのはFIELD OF HEAVENだ。
ジャズだけでなく、オランダのバンドがトルコ民謡を演奏するなど、国や地域の枠を越えた音楽に出会える点が魅力だと話す。台湾ではなかなか体験できない、フジロックならではの音楽空間だという。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
また、子どもへの教育や環境保全を重視する姿勢にも注目している。
主催者は会場内で、自然を大切にすることやルールを守ること、こまめに水分を補給することを来場者に呼びかけている。
回収したペットボトルを再利用し、翌年の公式グッズなどに活用する循環型の取り組みも印象に残ったと話す。音楽を楽しみながら環境問題について考えられる点に意義を感じているという。
装備については、見た目よりも機能性を優先すべきだと強調する。
写真映えする服装を選びたくなるものの、天候が変わりやすい山間部では、低体温症を防ぐための保温性と防水性を最優先にしなければならない。
会場内に設けられたアウトドアブランドのブースでは、機能性素材を日常生活に取り入れる方法も紹介されており、台湾の参加者にとって参考になるという。
事前にスクワットなどで脚力を鍛え、現地では十分に水分を取ることが、広い会場を楽しむための基本だと話した。
雨への備えと事前の音源チェック ハンドルネーム「杜老爺」さんは、今年が2回目の参加だった。
初参加時の経験を生かしたことで、今回は以前より快適に過ごせたという。その中で実感したのが、フジロックでは装備が快適さを大きく左右するということだった。
今年は雨に見舞われる時間帯もあったが、防水性の高い靴やパンツ、防寒着、レインウェアを用意していたため、落ち着いて対応できた。
天候が急変しやすい苗場では、事前の準備が重要だと強調する。
台湾の音楽ファンが熱狂するフジロックにおいて、著名詩人・李豪氏ら7人のベテラン参加者が、宿泊先の確保や脚力の強化、万全な機能性装備こそが苗場を攻略する最大の秘訣だと語った。(写真/黃信維撮影)
また、出演アーティストが多いため、日本の音楽事情に詳しい一部のファンを除き、台湾からの参加者が全出演者を事前に把握するのは難しいと指摘する。
そのため、開催前に出演者の音源を聴き、気になるアーティストを見つけておくことで、現地での体験がより充実すると助言した。
今年は定番のグリーンステージ、ホワイトステージ、レッドマーキーに加え、FIELD OF HEAVENや、会場の奥に位置するオレンジカフェにも足を運んだ。
中でも印象に残ったのは、FIELD OF HEAVENに出演したフランスの個性的なバンドだった。
メンバーは仮面を着け、独自の架空言語で歌うというスタイルで、台湾のバンド「恐龍的皮(The Dinosaur’s Skin)」を連想させたという。
山間部のゆったりとした雰囲気とも合い、今年のフジロックで最も印象的なステージの一つになったと振り返った。
最初に確保すべきは宿泊先 初参加者に向け、杜老爺さんが最も強調するのは、宿泊先を早い段階で確保することだ。
航空券や新幹線、シャトルバスは比較的手配しやすい一方、苗場周辺の宿泊施設には限りがある。
「一番難しいのは、間違いなく宿泊先です。開催日程が発表された段階で、できるだけ早く探した方がいい。そこさえ確保できれば、その後の装備やスケジュールは組みやすくなります」
今年は、AirPodsとスマートフォンのリアルタイム翻訳機能を組み合わせたことも、ライブ体験の向上につながったという。
これまで日本語が分からなければ、日本人アーティストが曲の合間に話す内容を理解するのは難しかった。
今回は翻訳機能を利用することで、メンバー同士の会話や観客への呼びかけを把握しやすくなり、ライブへの没入感が大きく高まったと話した。
自分のペースで楽しめる苗場 フジロックが台湾の音楽ファンを引きつける理由は、世界各地のアーティストが集まることだけではない。
目当てのライブを追いかけることも、森林の木道を歩きながら偶然聞こえてきた音楽に足を止めることもできる。飲食を楽しみ、環境保全への取り組みに触れながら、ゆっくりと一日を過ごす選択肢もある。
広大な会場で、すべてのステージを見ることは難しい。だからこそ、自分の体力や好みに合わせて過ごし方を選ぶことが重要になる。
今回取材した参加者の多くが共通して語ったのは、十分な準備をしたうえで、自分の歩調で楽しむことだった。
苗場で何を見るか、どこで休むか、どの音楽に足を止めるか。決まった正解がないこと自体が、フジロックが長年にわたり多くの音楽ファンを引きつけてきた理由の一つなのかもしれない。