2026年のノーベル化学賞が7日に発表された。スウェーデン王立科学アカデミーは、フランスの化学者アンリ・B・カガン(Henri B. Kagan)氏と、日本の化学者、硤合憲三(そあい・けんそう)氏の2人に授与すると発表した。授賞理由は「不斉有機合成における非線形効果と自己触媒作用の発見」で、2人の画期的な貢献が評価された。2人は賞金1200万スウェーデン・クローナを等分する。
受賞したのは、仏パリ南大学(パリ第11大学、現在はパリ・サクレー大学に統合)名誉教授のカガン氏と、東京理科大学名誉教授の硤合氏だ。授賞理由の「不斉有機合成における非線形効果」と聞いても、専門外の人には何のことか分かりにくい。
ノーベル化学委員会のハイナー・リンケ委員長は、授賞理由について「アンリ・カガン氏と硤合憲三氏は、1世紀以上にわたる化学の謎、つまり『ホモキラリティー(homochirality)』がどのように生じるのかという問題に解決策を示した。2人が開発した化学反応は実に驚くべきものだ」と説明した。
「ホモキラリティー」と言われても、ますます分からないかもしれない。

生命の世界は一方向だけを好む
19世紀にはすでに、フランスの化学者ルイ・パスツールが顕微鏡を使い、酒石酸の結晶に互いに鏡像となる2種類の形があることを発見していた。
「鏡像異性体(エナンチオマー)」と呼ばれるこれらの分子は、化学組成はまったく同じでも、立体的な配列の向きが逆になっている。人の左手と右手の関係と同じだ。
ところが、生体を構成する分子では、二つの鏡像型が同じように存在するのではなく、一方だけが選ばれる強い「ホモキラリティー」の偏りがみられる。人体のたんぱく質を構成するアミノ酸や、DNAを構成する糖分子は、ほぼすべてが一方の鏡像型で存在している。
この「キラリティー(掌性)」の違いは、現代の製薬にとって極めて重要だ。薬の分子のキラリティーの向きが人体の分子と合わなければ、体内で本来期待される作用を十分に発揮できない。
左手が右手用の手袋に入りにくいのと同じように、薬の分子が特定のたんぱく質や酵素、受容体と結合する必要がある場合、分子の立体的な向きが合わなければ、化学式がまったく同じでも、構造の違いによって同じ作用を示すとは限らない。
ノーベル委員会の発表資料は、1960年代のサリドマイド(thalidomide)の悲劇が痛ましい教訓になったと指摘している。この薬は1950年代に「安全な吐き気止め・睡眠薬」として妊婦に販売されたが、薬の分子の二つの鏡像型が体内でまったく異なる作用を示し、結果として多くの新生児に先天異常をもたらした。史上最も深刻な薬害の一つとなった。
科学者や医学者は薬害が起きた仕組みを突き止めたものの、「単一のキラリティーを持つ分子と結合する適切な薬をどう作るか」という問題は解決できなかった。 (関連記事: ノーベル物理学賞、南極の氷を「望遠鏡」に ハルツェン氏が単独受賞、宇宙起源の高エネルギーニュートリノを発見 | 関連記事をもっと読む )
人工的な化学合成でキラルな分子を作ると、たいてい左と右の鏡像型がほぼ半分ずつ生じるからだ。一方の鏡像型だけをいかに選択的に得るかが、化学における大きな課題となった。














































