【北京観察】台湾の人気タレント・蔡康永氏、民進党候補の集会参加で中国に波紋 「重大なタブー」と批判、本人は「見学に来ただけ」

4日に開催された沈伯洋氏の選挙対策本部設立集会に姿を見せた人気司会者の蔡康永氏。(劉偉宏撮影)
4日に開催された沈伯洋氏の選挙対策本部設立集会に姿を見せた人気司会者の蔡康永氏。(劉偉宏撮影)

台北市長選挙(11月28日投開票)の与党・民進党公認候補、沈伯洋氏の選挙対策本部開設集会が4日に開催され、頼清徳総統、蕭美琴副総統、卓栄泰・行政院長(首相に相当)、蔡英文前総統ら同党の重鎮が一堂に会した。

またステージ下最前列の来賓席には、帽子と黒いマスクを着用し、イベントのメインビジュアルに近いオレンジ色のシャツを着たひときわ目立つ人物の姿があった。手には「台北順起來(台北を順風に)」と書かれた応援グッズを持ち、群衆と共にスティックバルーンを振っていた。この人物は、台湾の著名なテレビ司会者の蔡康永(ケビン・ツァイ)氏だ。

メディアから沈氏を支持しているのかと問われると、同氏は「見学に来ただけだ」と淡々と答えた。一方、同氏のマネジャーは、各候補の政策を理解するため、2名の台北市長候補にインタビューを行うことを検討していると補足した。

中国は国慶節(建国記念日、10月1日)の大型連休中だったこともあり、中国当局が即座に反応することはなかったが、8日に開かれる中国外交部(外務省)の定例記者会見で報道官が関連質問に応じるとみられている。また、蔡氏は中国大陸でも知名度が高く、今回の行動が明らかとなった後、記者の中国通信アプリ「微信(WeChat)」のタイムラインでは、体制内の学者や当局者が相次いで官製メディアの記事を転載し、独自の「政治的立場」をアピールする動きが見られた。

「単なる見学」では済まない可能性も

​近年、中国共産党の台湾政策には多くの変化が見られるが、唯一変わらないのは「台湾独立分子」を支援する人物が現れた際、ナショナリズム感情が確実に高揚するという点だ。沈氏の例はその典型だ。同氏が創設した民間防衛組織「黒熊学院」や、中国の浸透工作、認知戦に関する研究は、中台の政治的な言説において高度に象徴的な存在感を獲得している。中国で対台湾政策を統括する国務院台湾事務弁公室(国台弁)は2024年、沈氏を「頑迷な台湾独立分子」のリストに加え、さらにその後、中国の公安当局も同氏を立件し、捜査を開始したと発表した。

そのため、沈氏の選挙対策本部設立集会に蔡康永氏が姿を見せたことは、台湾の一般人から見れば「芸能人が選挙集会を見学しに来ただけ」に過ぎないかもしれない。しかし、中国の世論においては、「中国で長期にわたり知名度を誇る台湾のタレントが、中国当局にとって極めて敏感な立場にある政治家の周辺に公然と姿を現した」という文脈で解釈されやすい。

また蔡氏は最後方の一般席に座っていたわけではない。最前列の来賓席に姿を見せ、さらには応援グッズを手にしているところを写真に撮られている。これらの視覚的要素が重なることで、ソーシャルメディアが高度に政治化された環境下においては、「単なる見学」という釈明は極めて脆弱なものとなる。 (関連記事: 【コラム】台湾・台北市長選の「洋流」は自然発生か 沈伯洋氏本人の認知戦理論から読み解く選挙動員 | 関連記事をもっと読む )

沈伯洋氏の街頭演説(1) 民進党の台北市長候補・沈伯洋氏(右)が6日夕方、台北MRT剣潭駅周辺で「市長、よく聞け!」と題した街頭演説を開催し、熱狂的な支持者に囲まれながら入場した。中央社記者呉家昇撮影 115年10月6日
台北MRT剣潭駅近くで開催した街頭演説イベント「市長、話を聞いて!」に参加した沈伯洋氏(右)。(中央社)

中国紙・環球時報の元編集長、胡錫進氏は直ちにSNSに記事を投稿し、極めて直接的な言葉で蔡氏を批判した。胡氏は、今回の蔡氏の行動を「自らトラブルを招き入れた」と一蹴。中国大陸で多大な商業的利益を得ている公人として、仮に本当に「見学」が目的ならば会場の外周から観察すれば済むものを、最前列の来賓席に座ったことは一線を越えるだけでなく、地雷を踏む行為だと指摘した。

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