2025年にノーベル化学賞を受賞した北川進・京都大学特別教授と、ノーベル生理学・医学賞を受賞した坂口志文・大阪大学特別栄誉教授が2026年3月3日、日本記者クラブで記者会見を開いた。北川氏は多孔性金属錯体(MOF)を活用した環境・エネルギー分野での応用について、坂口氏は制御性T細胞(Tレグ)を基盤とする新たながん免疫療法やアレルギー疾患治療の可能性について語り、それぞれ最新の研究動向と社会実装への展望を示した。
会見では、日本の科学技術力の低下が懸念される中、研究環境の改善や民間による基礎研究支援の重要性についても提言が相次いだ。
北川氏「空気を資源に変える時代へ」
北川氏は、21世紀を「気体の時代」と位置づけた。空気中に存在する二酸化炭素や窒素、酸素などを、事実上無尽蔵の資源として活用する社会へ転換すべきだと訴えた。
北川氏らが開発したMOFは、ナノレベルの無数の孔を持つ材料で、特定の気体分子を分離、貯蔵、濃縮できるのが特徴だ。現在、世界では55社以上のスタートアップ企業がMOFの実用化に取り組んでおり、セメント工場から排出される二酸化炭素の回収や、インドネシアでのメタン貯蔵の実証試験などが進んでいるという。
北川氏は空気を「見えない金(インビジブル・ゴールド)」と表現し、資源に乏しい日本が化石燃料依存から脱却し、循環型社会を築く上で重要な技術になると強調した。また、福島第一原発のトリチウム分離についても、原理的には可能だとしつつ、実用化には膨大な投資が必要になるとの見方を示した。
坂口氏、がんとアレルギー治療の新たな可能性示す
一方、坂口氏は、自己の組織を攻撃してしまう過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞(Tレグ)の発見と、その臨床応用について説明した。
坂口氏によると、Tレグを減少させることで、がん細胞に対する免疫攻撃を強めることが可能になる。既存のがん免疫療法と組み合わせることで、治療の有効率を現在の20~30%程度から40~50%程度まで高められる可能性があるという。
さらに、将来的にはがんの転移を防ぐことで、20年後にはがんをコントロール可能な病気にしたいとの目標も示した。花粉症をはじめとするアレルギー疾患についても、花粉の飛散時期に合わせてTレグの働きを一時的に高める内服薬が開発されれば、将来的には根本的な治療につながる可能性があると述べた。
研究者が研究に専念できる環境づくりを
日本の研究環境の課題について、北川氏は、研究者が多くの雑務に追われ、研究に集中できる時間が著しく不足している現状を指摘した。その解決策として、実験機器の保守や分析を専門技術者が担う「コアファシリティー」の整備など、研究を支える基盤づくりが不可欠だと強調した。
また、研究評価のあり方についても、論文の被引用数といった画一的な指標だけでなく、社会への波及効果や新しい学問領域の創出など、多面的な観点から評価する仕組みが必要だと訴えた。
坂口氏も、研究を社会の一つの文化として捉えるべきだと主張した。政府による「選択と集中」だけでなく、地方大学も含めた幅広い研究基盤を維持することが重要だと指摘。自身が米国滞在中、民間財団から長期的な支援を受けて研究を続けることができた経験を振り返り、日本でも民間資金による基礎研究支援が根付く成熟した社会の実現を求めた。
世界を、台湾から読む⇒風傳媒日本語版 X:@stormmedia_jp
編集:小田菜々香












































