【台湾海峡の深層】頼清徳総統の「3つの変化」 中台関係に微妙な変化、中国も注視

台湾の頼清徳総統は最近、中国の呼称を「中国大陸」へと改めた。これは中台関係の改善を模索する意図があるとみられている。(写真/柯承恵撮影)
台湾の頼清徳総統は最近、中国の呼称を「中国大陸」へと改めた。これは中台関係の改善を模索する意図があるとみられている。(写真/柯承恵撮影)

台湾の頼清徳(らい・せいとく)総統は2月24日、海峡交流基金会(海基会)が主催した旧正月恒例の台湾系企業家交流イベントに出席した。頼総統はあいさつの中で中台関係に触れ、中国側を指す呼称としてあえて「中国大陸」や「大陸」という言葉を用いた。

総統はこれまで、強い「二国論」の色合いを帯びた「中国」という呼称を多用してきたが、今回の「大陸」や「中国大陸」という表現は、中華民国憲法および「両岸人民関係条例」における中台関係の定義に合致する。頼総統のこの「言い換え」は各界で広く注目を集めており、旧正月に合わせた善意の表明であり、中台関係の改善を模索する動きではないかとの憶測を呼んでいる。

総統は同イベントにおいて、2013年の香港訪問および2014年の上海訪問の経験を回想し、当時から一貫して中台の平和的発展を望んでいたことを強調した。頼総統は、蔡英文前政権から自身の政権に至るまで、民進党政権は一貫して「現状維持」を望んでいると述べ、中台共通の目標は両岸の人々の福祉を増進することにあると指摘。交流と協力を通じて、平和と共栄の方向へ進むことを期待すると語った。その過程で、頼総統は対岸を「大陸」あるいは「中国大陸」と呼び変えた。 (関連記事: 2027年台湾有事は起こるのか 中国軍の真の標的は台湾にあらず?専門家が読み解く「太平洋の両岸」 関連記事をもっと読む

海基会トップ人事に見る「再起動」のシグナル

​また、中国当局も注視している第2の動きが、頼総統が旧正月前に海基会の新董事長(会長)として蘇嘉全(そ・かぜん)氏を任命したことだ。この人事には、中台関係を「再起動(リセット)」させたいという意図が透けて見える。

前任の呉豊山(ご・ほうざん)氏は在任中、中台関係の「氷解」を積極的に模索したが、一方で中国側に対し、「『92年コンセンサス(九二共識)』の中に、中華民国の立ち位置はあるのか」と問い直した経緯がある。台湾側から見れば、これは台湾の主体性を確保するための発言であったが、中国側にとって「92年コンセンサス」の機能とは、中華民国と中華人民共和国という政治的問題を棚上げし、実務的な交流を優先させることにあった。ここに中華民国の立ち位置を明示することを強要すれば、中国側には「二つの中国(両岸二国)」を認めることと同義に映り、受け入れがたいものであった。

呉氏の当時のアプローチはやや急進的であったと言えるが、新たに就任した蘇氏はその路線を継承していない。政治的な問題、すなわち「92年コンセンサスの中に中華民国の立ち位置はあるか」といった議論に深入りすることを避け、蘇氏は柔軟な姿勢を維持しながら「オリーブの枝(和解の象徴)」を差し出すことに注力している。現在、蘇氏は頼政権において、中台関係の新たな活路を拓くための「機動力のある布石」としての役割を担っている。

總統賴清德、陸委會主委邱垂正、海基會董事長蘇嘉全2月24日出席海基會舉辦的台商新春聯誼活動,舉杯向台商敬酒。(楊騰凱攝)
賴清徳総統、行政院大陸委員会(陸委会)の邱垂正主任委員、海峡交流基金会(海基会)の蘇嘉全董事長が2月24日、海基会主催の台湾企業家新春交流会に出席した。賴総統はこの日、対岸を「中国大陸」と呼ぶ表現に改めた。(写真/楊騰凱撮影)

頼清徳総統による「微調整」、中国側は注視

第3の動きとして、台湾メディアがあまり注目していない点がある。旧正月期間中、中国浙江省の「浙江小百花越劇院」および山西省の伝統芸能「打鉄花(鉄花打ち)」チームの訪台公演が、大陸委員会(陸委会)によって許可されたことだ。

特に、浙江小百花越劇院は15年ぶりの訪台であり、同劇団に所属する中国で絶大な人気を誇る若手俳優、陳麗君(ちん・れいくん)氏の来訪を陸委会が認めたことは、中台間のエンターテインメント・文化交流の再接続を意味する。北京側にとって、これは台湾が中台関係を調整しようとしている重要なシグナルと映っている。

これら3つの動きは、中国国務院台湾事務弁公室(国台弁)が3月4日に行った旧正月後初の記者会見でも言及された。頼総統が投じた「カード」に対し、大陸側がしっかりと注視していることがうかがえる。

浙江小百花越劇院青春越劇《我的大觀園》春節期間在桃園展覽中心演出。(新華社)
浙江小百花越劇院の青春越劇「我的大観園」が、旧正月期間に桃園エキシビションセンターで上演された。(写真/新華社)

『風傳媒』は3月5日の陸委会定例記者会見において、これら芸術団体の訪台審査の経緯、および文化交流を通じて中台の相互作用を促進する意図があるかを質問した。これに対し、陸委会の梁文傑(りょう・ぶんけつ)副主任委員は次のように述べた。「こうした文化交流に対する我々の立場は単純だ。政治活動や統一戦線工作を行わないのであれば、手続きに従って審査する。これら2つの団体についても審査を経て、すでに公演は終了している。好評であったかどうかは『承知していない』が、彼らの活動はすでに完了している」。

陸委會副主委梁文傑3月5日主持例行記者會,他提醒,近期有不少民眾擔心自己是否在不知情的狀況下取得大陸戶籍,若不確認清楚,未來就職公職或遭到檢舉,都可能影響到台灣身分。(楊騰凱攝)
行政院大陸委員会(陸委会)の梁文傑副主任委員が3月5日、定例記者会見を主宰し、浙江小百花越劇院および山西打鉄花チームの台湾公演に関する審査について説明した。(写真/楊騰凱撮影)

総統を調整に駆り立てた「3つの要因」

​頼清徳総統が公の場で呼称を「大陸」と微調整した背景について、元海峡交流基金会(海基会)副理事長で元台湾大学国家発展研究所所長の周継祥(しゅう・けいしょう)氏は、『風傳媒』の取材に対し、国際的な地縁政治と国内選挙という「3つの背景的要因」が影響していると分析した。

周氏は第1の要因として、ドナルド・トランプ米大統領の訪中および習近平国家主席との首脳会談(米中首脳会談)を挙げた。首脳会談を前に、各国が前向きな雰囲気作りを進めている中、台湾があえて火種を作る必要はない。米中双方から不満を買うことは、台湾にとって最悪の結果を招くからだ。最近では、トランプ氏による対台武器売却の延期示唆や、中国側による台湾海峡上空への軍用機派遣の停止が数日間続いているが、これらはいずれも双方が関係緩和を模索している表れである。

2025年10月30日,美國總統川普(左)和中國國家主席習近平在韓國釜山會晤。(美聯社)
米国のドナルド・トランプ大統領(左)は3月末にも中国大陸を訪問し、習近平国家主席といわゆる米中首脳会談を行う可能性がある。(写真/AP通信撮影)

第2の要因は国際地縁政治、特に現在のアメリカ・イスラエルによるイランへの軍事作戦である。戦況には不確実な要素が多く、斬首作戦が成功したとはいえ、イランが直ちに降伏したわけではない。この状況下で、米国は中国大陸が明に暗にイランを支援することを当然望まない。こうした国際情勢もまた、各方面を関係緩和へと向かわせる要因となっている。

第3の要因は、年末に控える台湾の統一地方選挙である。過去、民進党が掲げてきたイデオロギー的な「抗中」路線は、地方選挙においては必ずしも有効ではない。地方選挙で最も重要となるのは民生問題である。昨年、台湾では3700社以上の建設業者が廃業し、地方では多くの空き店舗が目立つなど、民間経済は非常に厳しい状況にある。地方レベルの選挙では、有権者により具体的な経済展望を示す必要があり、与野党が共感を持って民生経済に焦点を当てることへの期待が高まっている。

中国側も両岸交流の推進を模索

​周継祥氏は、頼清徳総統のパブリックイメージはすでに固定化されているものの、就任以来、頼総統が談話を通じて中台関係を調整しようと試みる姿勢は随所に感じられたと指摘する。総統という重責に就いたことで頼総統の視野は広がり、多くの事象に対して新たな考えを持つに至っている。周氏は、頼総統が頑迷固陋(がんめいころう)でない限り、今後も中台関係の微調整を継続していくことは確実であるとの見解を示した。

また、中国側の視点について、周氏は「今年の共産党対台湾工作会議でも両岸交流の推進が強調された。融合発展を望む以上、交流がなければそれは実現し得ないからだ。中国の対台湾政策の根幹は依然として平和発展の追求であり、これこそが大陸側の期待である」と分析した。

海基會副董事長周繼祥9日出席「海基會25週年回顧與前瞻論壇」。(顏麟宇攝)
周繼祥氏(右)はかつて海峡交流基金会(海基会)の副董事長を務め、両岸交流に関する問題について非常に深い理解を持つ人物だ。(写真/顏麟宇撮影)

蘇嘉全氏が持つ「人の和」の優位性

​周氏は、頼総統が蘇嘉全(そ・かぜん)氏を海峡交流基金会(海基会)の董事長に起用したことを「好手」と評価する。海基会のトップには強いイデオロギーは不要であり、地方政治家出身の蘇氏は、利害調整や意思疎通において卓越した手腕を持つからだ。中台関係の進展において、「天の時、地の利、人の和」は不可欠な要素である。現在、中台間には「地の利」があり、地政学的な「天の時」も巡ってきている。蘇氏の人事はこの「人の和」を補完するものであるという。

20260123-海基會於23日舉行第12屆董監事第1次臨時聯席會議,圖為新任海基會董事長蘇嘉全(中)。(劉偉宏攝)
新任の海峡交流基金会(海基会)董事長の蘇嘉全氏は、中国大陸に対して柔軟な姿勢を示し、いわば「オリーブの枝」を差し出す意向を表明している。(写真/劉偉宏撮影)

周氏は、蘇氏が今後主導的に取り組むべき二つの課題を挙げた。第一に、中国大陸との交流を理由に「反浸透法」に基づき司法当局から調査を受けている村里長(村長・町長に相当)らに対し、積極的に関心を示すことだ。周氏は「大陸への観光旅行で接待を受けることは、学術交流における相互の接待と同様、本来大きな問題とされるべきではない」と主張する。

第二に、中台関係の推進において焦燥感を避けることだ。蘇氏はまず信頼できる学者や台湾系企業家(台商)を通じて中国側の「底線(レッドライン)」を把握し、十分な準備を整えた上で慎重にアプローチすべきである。中台関係は極めて複雑であり、経験者であればその困難さは明白である。周氏は、蘇氏に対し「功を焦ることなく、まずは実質的な進展を模索し、着実に歩みを進めるべきだ」と助言した。

最後に周氏は、蘇氏が「人の和」という基礎の上に立ち、関係の突破口を開く上で極めて適した人材であると結んだ。

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編集:柄澤南

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