トランプ米大統領は26日、イランに対し「ホルムズ海峡の全面開放」を求めている最後通牒の期限を再び延期すると発表した。当初27日に設定されていた期限は、これまでの「48時間以内」から「5日以内」、さらに今回の発表で「10日以内(4月6日まで)」へと引き延ばされた。トランプ氏は「イランは交渉を強く望んでいる」とし、「テヘランは贈り物として、ホルムズ海峡で複数のタンカーを放行した」と成果を強調した。一方で、要求に応じない場合は、発電所への壊滅的な打擊を辞さない構えを改めて示している。
「アメとムチ」の交渉術、深まる混迷
世界経済の命脈を握るホルムズ海峡を巡る対立において、トランプ氏は「イラン側が対話を求めてきている」とのシグナルを送り続けているが、事態は依然として各国の主張が食い違う「羅生門」の様相を呈している。
トランプ氏は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル(Truth Social)」への投稿で、今回の期限延期は「イラン政府からの要請に応じたもの」であると説明。平和交渉は「極めて順調」であると述べ、自身の姿勢を疑問視するメディアを「フェイクニュース」と批判した。『ロイター』によると、トランプ氏は閣議において、イランが合意を受け入れなければ「最悪の悪夢」となり「完膚なきまでに爆撃し続ける」と威嚇。その一方で、核兵器の野望を放棄すれば新たな繁栄の道が開かれると示唆し、硬軟織り交ぜた姿勢を見せている。
「ある意味、我々はすでに勝利した」
トランプ氏は『FOXニュース』(Fox News)の独占インタビューに対し、イラン側は当初7日間の延期を求めてきたが、相手が善意を示したため「寛大に10日間を与えた」と明かした。
同氏によれば、イラン側は当初パキスタン船籍のタンカー8隻の放行を提案していたが、最終的に10隻を放行したという。トランプ氏はこの動きを、イラン指導部が交渉を真剣に捉えている証拠であり「ギフト」であると評価。「ある意味、我々はすでに勝利した」と述べ、自身の外交戦略の正当性を強調した。
仲介国がトランプ氏の主張を否定、和平案「15カ条」巡り平行線か
「15項目の和平案」の全容と米側の説得
米国が提示した15カ条の計画は、厳しい経済制裁の解除と引き換えに、イランがあらゆる対立点において譲歩することを求めたものだ。『ロイター』によると、トランプ氏の特使であるスティーブ・ウィトコフ氏は、核計画の解体、ミサイル開発の制限、およびホルムズ海峡の管理権譲渡を含む要求リストの存在を認めた。
ウィトコフ氏は、トランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー氏と共に、イラン側に対し「現在は重大な転換点にある」と強調。「さらなる死と破壊を招く以外に、より良い選択肢はないはずだ」として、イラン側の説得を試みているという。
イラン側は「不公平」と反発、要求の縮小を求める
これに対し、イラン側は強い難色を示している。パキスタン経由で伝達された米側の提案について、あるイラン政府高官は「一方的かつ不公平であり、米国とイスラエルの利益にしかならない」と断じた。
WSJが仲介国の話として伝えたところによれば、イラン側は停戦交渉入りを承諾する条件として、15カ条に及ぶ過度な要求の縮小を求めている。特に、ミサイル計画を交渉の出発点とすることや、ウラン濃縮活動の永久停止については断固として拒否する構えだ。
広がる悲観論、停戦への道のりは遠く
イラン側はさらに、米国およびイスラエルによる不可侵の保証と、これまでの損害に対する賠償を要求。あわせて、ホルムズ海峡の正式な管理権も主張している。ロイター通信は地域筋の情報として、イラン側が停戦合意にレバノンを含めるよう求めているとも報じた。
こうした双方による「最大化された要求」の衝突を受け、仲介国の代表者たちの間では「双方が受け入れがたい条件を堅持しており、停戦が実現する可能性は極めて低い」との悲観的な見方が大勢を占めている。
イランの民間人死者1500人に迫る、レバノンでは100万人が避難
停戦交渉が進められる一方で、現地では戦火による犠牲者が急増している。『ニューヨーク・タイムズ』紙によると、人権活動家通信社(HRANA)は、これまでにイランの民間人1,492人が犠牲になったと報じた。レバノン保健省は26日、同国内の死者が1,110人を超えたと発表。イスラエル当局によれば、イランの攻撃によるイスラエル側の死者は少なくとも16人、米軍の戦死者は13人に上っている。
レバノンで深刻化する人道危機
レバノンの情勢は特に深刻だ。『ニューヨーク・タイムズ』は、イスラエルとイスラム教シーア派組織ヒズボラの戦闘により100万人以上のレバノン人が避難を余儀なくされ、その多くが首都ベイルートへ逃れていると伝えた。イスラエルがレバノン南部での占領拡大を計画する中、10万人以上が学校や公共施設に設置された避難所での生活を強いられている。
イスラエルによる「斬首作戦」と暗殺リスト
一方、交渉の内情を知るパキスタンの情報筋がロイター通信に語ったところによると、パキスタンが米国に対し、イスラエルへ圧力をかけるよう求めた結果、イランのアッバス・アラグチ外相とモハンマド・バーゲル・カリバフ議長がイスラエルの暗殺対象リストから除外されたという。これについてイスラエル軍の報道官はコメントを避けている。
止まらないテヘランの反撃
トランプ大統領はイランが敗北の淵にあると主張しているが、テヘラン側の反撃は止まっていない。ロイター通信によると、イランは26日、テルアビブやハイファ、およびイスラエル中部の町に対し、数波にわたるミサイル攻撃を実施した。
イスラエル軍の発表によれば、少なくとも1発の弾道ミサイルがテルアビブに着弾。集束弾を搭載した他のミサイルから散布された小型爆弾により、建物や車両に被害が出たという。また、ヒズボラが北部ナハリヤへ放ったロケット弾により、男性1人が死亡した。
これへの報復として、イスラエルはイラン南部のバンダレ・アッバスやシラーズ近郊の村を攻撃したほか、イスファハンの大学施設にも着弾が報告されている。
米国株が5週続落、S&P 500は1.7%の大幅下落
中東での戦火拡大は、凄惨な人道的悲劇のみならず、金融市場にも激震を走らせている。『ニューヨーク・タイムズ』によると、26日のニューヨーク株式市場は1月以来の最大の下落幅を記録。開戦以来、最も「悲惨な一日」となった。S&P 500種株価指数は1.7%下落し、4年ぶりとなる5週連続の下落に向かっている。アジアや欧州の株式市場も全面安の展開となった。
ホルムズ海峡封鎖で原油・LNGが急騰
市場の混乱を招いている最大の要因は、原油価格の狂乱的な高騰だ。世界の石油供給の5分の1を担う要衝、ホルムズ海峡は、2月28日の開戦以来、事実上の閉鎖状態が続いている。
『ニューヨーク・タイムズ』によれば、国際的な指標である北海ブレント原油の先物価格は約5.7%急騰し、1バレル=108.1ドルと今週最高値を付けた。ロイター通信は、過去4週間の紛争により原油価格が約40%上昇したと指摘。さらに、アジア向けの液化天然ガス(LNG)は約67%、食料生産に不可欠な窒素肥料も約50%値上がりした。この影響はプラスチック、テクノロジー、小売、観光など、あらゆる産業を深刻な窮地に陥れている。
インフレの再燃と住宅ローン金利の上昇
エネルギー危機に伴い、世界経済には再びインフレの暗雲が立ち込めている。ニューヨーク・タイムズ紙が引用した経済協力開発機構(OECD)の予測によると、イランでの戦争によるエネルギー価格の高騰を受け、今年の米国のインフレ率は4.2%に達する見込みだ。これは昨年後半の予測値(3%)を大幅に上回る。
米国の債券市場では長期金利の上昇が続いており、指標となる10年物国債利回りは昨年7月以来の高水準を記録。これに連動して住宅ローン金利も上昇している。連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)によれば、30年物固定金利の平均は6.38%に達し、9月第1週以来の高水準となった。シンクタンクのオックスフォード・エコノミクスは、ホルムズ海峡の航行中断や石油施設の閉鎖が長期化すれば、世界経済はさらに深刻な事態に見舞われると警鐘を鳴らしている。