映画『霧のごとく(大濛)』ラストの「数字の羅列」が意味するもの 台湾白色テロと民主化の軌跡

金馬奨受賞監督の陳玉勲氏が手がけ、金馬奨で5部門を制した時代大作『霧のごとく(原題:大濛)』が、Netflixで配信開始された。(画像/映画『大濛』公式Facebookより)
金馬奨受賞監督の陳玉勲氏が手がけ、金馬奨で5部門を制した時代大作『霧のごとく(原題:大濛)』が、Netflixで配信開始された。(画像/映画『大濛』公式Facebookより)

金馬奨受賞監督の陳玉勲(チェン・ユーシュン)氏が手がけた時代映画『霧のごとく(原題:大濛)』が、Netflixで配信開始された。1950年代の台湾の白色テロ期を背景にした同作は、今年度の金馬奨で5部門を受賞し、制作費は約1億台湾ドルに上る。配信開始後、短時間で台湾のNetflixランキング首位に立ち、多くの視聴者の涙を誘っている。

『霧のごとく』のラストシーンは何を意味するのか

​物語は、嘉義の農家に生まれた少女・阿月(ケイトリン・ファン役)が、兄の育雲(ツォン・チンホワ役)が銃殺されたことを知り、遺体を捜すため一人で北へ向かうところから始まる。道中で、香港俳優の柯煒林(ウィル・オー)が演じる外省人の車夫・趙公道と出会い、二人は兄の遺体を引き取るための費用を工面しようと行動を共にする。

これまで『1秒先の彼女』などで知られてきた陳監督は、本作で作風を大きく転換し、庶民の視点から、歴史の霧に覆われた時代の不条理と残酷さを描き出している。笑いと温かさを交えながらも、観客の胸に深く残る作品となっている。

映画の序盤、兄の育雲は妹の阿月に、どうしても乗り越えられない苦しみに直面したときは、時計の針を少し先へ進めて考えるよう語りかける。「来年、再来年、10年後のことを考えれば、今の苦しみはたいしたことではないと思える」。この言葉は、物語全体を貫く伏線となっている。

郁雲は阿月に、人生が辛いときは時計の針が進む様子を想像するよう語りかける。(画像/Netflixスクリーンショット)
兄の育雲はかつて阿月に、乗り越えられない苦しみに直面したときは、時計の針を少し先へ進めて考えればいいと語っていた。「来年、再来年、10年後のことを考えれば、今の苦しみはたいしたことではないと思える」。(画像/Netflixより)

ラストで流れる民国年号とは

​映画の終盤、阿月は姉と再会した後、国防医学院で解剖実習用として送られていた兄の遺骨を見つける。その息をのむ場面で、阿月と育雲の口から、そして画面上に、民国53年、59年、62年、65年、67年、69年、73年、77年、78年、79年、80年、81年、82年……という中華民国暦、いわゆる「民国紀元」の年号が走馬灯のように流れていく。

多くの視聴者は、この年号の連なりが何を意味するのか疑問を抱いた。監督はこの数字を通じて、阿月個人の「兄を捜す旅」と、台湾社会全体が歩んできた「民主化への長い道のり」を重ね合わせたのかもしれない。

これらの年号は、現実の台湾近現代史において、権威主義体制の高圧、社会の覚醒、街頭運動の拡大、そして制度の変革へと至る重要な節目と重なっている。

『霧のごとく』が描かなかった台湾の現実の歴史

​以下では、映画のラストに登場する民国年号と、それぞれの年に台湾で起きた自由化・民主化に関わる重要な出来事をたどる。

映画のクライマックスで、民国の暦年が次々と画面を流れる。(画像/Netflixスクリーンショット)
息をのむ場面で、阿月と育雲の口から、そして画面上に、民国年号が走馬灯のように次々と流れていく。(画像/Netflixより)
映画のラストに流れる年号の羅列が何を意味するのか、多くの視聴者が疑問を抱いている。(画像/Netflixスクリーンショット)
多くの視聴者は、この一連の数字が何を意味するのか疑問を抱いた。(画像/Netflixより)

民国53年(1964年)「台湾人民自救運動宣言」

彭明敏(ホウ・メイビン)、謝聰敏(シャ・ソウビン)、魏廷朝(ギ・テイチョウ)の3人は「台湾人民自救運動宣言」を起草・印刷した。白色テロの高圧期にあって、3人は「大陸反攻(中華民国国民党政権は、中華人民共和国となっている大陸を武力で奪還する)」は不可能であるとし、新憲法の制定を主張した。 (関連記事: 【神木の島】台湾で東アジア最高木を確認 高さ84.1メートルのタイワンスギ「大安渓倚天剣」 関連記事をもっと読む

宣言は社会各界へ送付される予定だったが、配布前に3人は逮捕された。この行動は、権威主義体制下における代表的な政治的異議申し立ての一つとなった。

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