パキスタン領空を避けていた台湾の中華航空(チャイナエアライン)と長栄航空(エバー航空)が29日、同国上空の飛行を再開した。両社は25日以降、パキスタン領空を通過せず、一部の欧州便をロシア上空などへ迂回させていた。
パキスタンのホワジャ・アシフ国防相は28日、米ブルームバーグに対し、同国の航空政策は「一つの中国」原則に従っており、「中国の航空会社だけにパキスタン上空の飛行を認めている」と説明していた。
しかし、その数時間後にはパキスタン民間航空局(CAA)が中華航空と長栄航空に対し、10月28日から2027年3月27日まで同国領空を飛行することを認める文書を発行したことが判明した。
29日朝には台湾の民間航空機が実際にパキスタン領空の飛行を再開しており、飛越許可が運航にも反映された。
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一方、パキスタン紙『Dawn』によると、同国民間航空局は台湾の2社を対象とする飛行禁止を知らせるNOTAM(航空情報)を発行していなかった。外交関係者も同紙に対し、台湾の航空会社を禁止する政策決定があったとの見方を否定している。
国防相が「一つの中国」を理由に台湾の航空会社の飛行を認めていないと説明する一方、航空当局は同じ日に両社へ飛越許可を出しており、パキスタン政府内の説明と実際の航空行政には食い違いが残っている。
25日からパキスタン領空を回避 少なくとも12便がロシア上空へ ブルームバーグが引用した航空機追跡サイト「フライトレーダー24(Flightradar24)」のデータによると、中華航空と長栄航空は10月25日午前以降、パキスタン領空を飛行していなかった。
両社が運航するアジア―欧州間の少なくとも12便が、その後ロシア領空を経由したという。
台湾の航空会社は、ロシアによるウクライナ侵攻後、多くの欧米・アジア系航空会社と同様にロシア領空を避ける運航を続けてきた。ただ、台湾政府が台湾の航空会社によるロシア領空の飛行を正式に禁止したことはない。
台湾の陳世凱・交通部長は28日、航空会社が利用する飛行経路について、各社が自ら申請するものだと説明し、政府として航空会社の判断を尊重する考えを示した。
中華航空と長栄航空は、パキスタン領空を避けた具体的な理由についてコメントしていない。
パキスタン領空を利用できない場合、アジアと欧州を結ぶ航空便は、ロシア上空を通る北側のルートのほか、インドからオマーン、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアなど中東方面を経由するルートや、中央アジア方面を通るルートを選択する必要がある。
「一つの中国」理由に一時制限か 正式な禁航措置は確認されず ブルームバーグは28日、アシフ国防相の発言を基に、パキスタンが「一つの中国」政策を理由に台湾の航空会社による領空通過を認めていないと報じた。当初の報道では、台湾の航空会社を一律に領空から排除する措置を取った国は初めてだとしていた。
アシフ氏はブルームバーグに「航空部門は『一つの中国』政策に従っており、中国大陸のみを認めている」と説明。「パキスタン上空を飛行することを認めているのは中国の航空会社だけだ」と述べた。
一方、AP通信が確認したパキスタン民間航空局の文書には、台湾航空2社に対する従来の飛行制限についての記載はなく、28日の許可がそれ以前の決定を覆したものなのかどうかも明記されていない。
『Dawn』も、航空当局が飛行禁止を知らせるNOTAMを発行していなかったと報じている。
このため、25日から28日にかけて台湾の航空会社への飛越許可がどのような行政上の手続きで停止していたのか、あるいは許可更新を巡る混乱だったのかなど、詳細は依然として明らかになっていない。
台湾政府は「空域の政治化」と反発 台湾行政院は29日、パキスタンが一時的に台湾の航空会社に領空を開放しなかったことについて、「一つの中国」を理由に空域を政治化したとして遺憾の意を表明した。
陳明祺・外交部政務次長(副外相)は29日、ブルームバーグTVのインタビューで、中国が今回の対応の背後にいた可能性があるとの見方を示した。ただ、中国による関与を裏付ける具体的な証拠は示していない。
中国外務省は、ブルームバーグによるコメント要請に直ちには応じなかった。
パキスタンが28日に出した飛越許可は2027年3月27日までとなっている。台湾交通部によると、これは国際航空の冬季ダイヤの期間に合わせたもので、その後の夏季ダイヤについては通常の手続きに従い改めて申請することになる。
2026年5月25日、中国・北京で習近平国家主席(右)と会談するパキスタンのシャバズ・シャリフ首相。(AP通信)
パキスタン領空を避けるため、台北発ローマ行きの中華航空便がロシア領空を経由して飛行したことが、航空機追跡サイト「Flightradar24」で確認された。(Flightradar24公式サイトより)
中国とパキスタン、政治・安全保障面でも緊密 パキスタンは1951年5月21日に中華人民共和国と国交を樹立した。
パキスタン外務省は中国との関係を「全天候型戦略的協力パートナーシップ」と位置付け、中国を最も緊密な友好国・パートナーの一つとしている。両国は政治や安全保障、経済など幅広い分野で緊密な関係を築いてきた。
習近平国家主席が進める巨大経済圏構想「一帯一路」の下では、「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」を中心に中国から大規模な投融資が行われている。
国際通貨基金(IMF)の資料によると、2025年6月末時点でパキスタンの中国に対する二国間政府債務は約235億ドル、中国系商業銀行への債務は約57億ドルに上る。
台湾を巡る航空問題、アフリカでも 台湾を巡っては、航空路の利用が政治問題となる事例が今年に入って相次いでいる。
頼清徳総統は4月、台湾と外交関係を持つアフリカ南部のエスワティニを訪問する予定だったが、セーシェル、モーリシャス、マダガスカルの3カ国が相次いで領空通過の許可を撤回したため、訪問を延期した。
6月には、ケニア・モンバサで開かれた国際会議に参加予定だった台湾の研究者らが、台湾の旅券を認めないことを理由に入場証の発行を拒否される問題が起きた。
台湾外交部によると、研究者らは旅券や携帯電話を一時的に取り上げられ、20時間以上にわたって行動を制限された。台湾側は中国がケニア政府に圧力をかけたと主張している。
長栄航空(エバー航空)は12月1日、桃園―インド・デリー線を新規開設する。エアバスA330-300型機を使用し、週5往復を運航する予定で、台湾の航空会社として唯一のインド直行便となる。(長栄航空提供/中央社)
原油高の中で発生した迂回運航 今回のルート変更が起きた時期には、国際原油価格も高水準で推移していた。
ロイター通信によると、国際指標となる北海ブレント原油先物は10月28日、1バレル=115.32ドルで取引を終えた。中東情勢を巡る供給不安などを背景に、原油価格は高止まりしている。
航空会社にとって飛行距離の延長は燃料消費や運航コストの増加につながるが、今回の迂回による具体的なコストへの影響について、中華航空と長栄航空は明らかにしていない。
29日にはパキスタン領空の利用が実際に再開されており、現時点で台湾の航空会社が同国領空から締め出されている状態ではない。
ただ、パキスタンの国防相が「一つの中国」を理由に台湾の航空会社を認めないと明言した直後に、同国の航空当局が両社の飛越を認めたことで、政治的な説明と航空行政上の実際の運用との食い違いが浮き彫りになった。
25日から一時的に台湾航空2社がパキスタン領空を利用できなくなった詳しい経緯について、パキスタン政府が今後どのような説明を行うかが焦点となる。