トップ ニュース 【舞台裏】元情報機関トップが嘆く「なぜこんな愚策を…」 頼清徳総統の外遊中止、国家安全局長の“タブー”とは
【舞台裏】元情報機関トップが嘆く「なぜこんな愚策を…」 頼清徳総統の外遊中止、国家安全局長の“タブー”とは 頼清徳総統のエスワティニ訪問は直前で中止に追い込まれた。しかし、こうした事態を未然に防ぐべき立場にある蔡明彦・国家安全局長(右)は、その1週間前の現地視察の際、ムスワティ3世国王(左)を表敬訪問したと大々的に発表していた。彼は中国側の動きに全く気付いていなかったのだろうか。(資料写真、国家安全局提供)
頼清徳台湾総統が2026年4月22日に予定していた、アフリカにおける台湾唯一の国交国・エスワティニへの訪問が、出発の前日になって突如キャンセルされた。総統府の説明によれば、総統専用機が通過する予定だった一部の国々が中国からの圧力を受け、直前になって飛行許可を取り消したため、国家安全保障チームの評価を経て延期を決定したという。しかし、ここで一つの不可解な点が浮上する。外遊のわずか1週間前、国家安全局(国安局)は蔡明彦局長がエスワティニに赴き、訪問中の警備体制を視察したうえ、ムスワティ3世国王らと面会したとするニュースリリースを異例の形で発表していたのだ。
国家の最高情報機関である国安局トップが、総統訪問の事前視察を行うこと自体は通常の任務である。しかし、ニュースリリースや写真を大々的に公表するということは、通常であれば「万全の確証」があったはずである。それにもかかわらず、なぜ出発前日に中国の圧力による訪問中止という事態に陥ったのか。敵対勢力から公然と面目を潰される結果を招いた今回の一件で、台湾の国安局は一体どこで判断を誤ったのだろうか。
頼清徳総統(写真)は4月22日にエスワティニへ出発予定だったが、総統府は中国の圧力によりアフリカ3カ国が予告なしに飛行許可を取り消したと発表した。(劉偉宏撮影)
異例の事前公表:国安局トップのエスワティニ視察 国安局は2026年4月16日午後、蔡明彦・国安局長がアフリカの国交国エスワティニを訪問し、頼総統滞在中の警備体制を視察したとするニュースリリースを発表した。あわせて、ムスワティ3世国王やトゥリシレ・ドラドラ(Thulisile Dladla)副首相、治安・警備部門のトップらと面会したことも明らかにした。
この発表のなかで国安局は、ドラドラ副首相との会談内容にも言及している。それによれば、エスワティニは最近、約200名の中国籍の容疑者からなる大規模な多国籍特殊詐欺グループを摘発した。同国やアフリカ全体の安全保障に影響を及ぼすとして国際刑事警察機構(ICPO:インターポール)も関心を寄せ、調査員を派遣する事態となったが、エスワティニ側は台湾の国安情報機関から犯罪情報の共有や治安機関向けの人材育成プログラムの提供を受けたとして謝意を表明したという。これに対し蔡局長は、両国が忠実な同盟国として安全保障面での協力や情報交換を拡大し、国際犯罪や中国の非合法な浸透工作に共同で対処すべきだと応じている。
当時の国安局は文章だけでなく、蔡局長と国王、副首相とのツーショット写真まで公開した。平素は秘密主義を貫く国安局が、これほど具体的なニュースや写真を自ら発信した背景には、頼総統のエスワティニ訪問実現に対する絶対的な自信があったと推測される。しかし結果として、中国がセーシェル、モーリシャス、マダガスカルの3カ国に対して経済的威圧を加え、飛行許可を直前で取り消させたため、台湾側は総統の外遊中止を余儀なくされたのである。
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秘密裏に行動すべき国安局が4月16日、異例のニュースリリースを発表し、蔡明彦・国安局長(左)とエスワティニのドラドラ副首相(右)の写真を公開した。(資料写真、国安局提供)
「完全な素人の所業」:元国安局長が指摘する致命的なミス 事態の発覚直後、総統府は直ちに中国を非難し、立法院でも与野党一致で対中非難決議が可決された。また、国際社会からも台湾を支持する声が上がっている。しかし、安全保障を担う中枢として、総統の外遊を前日に頓挫させた国安チームの責任は免れない。とりわけ、中国側の動向を正確に把握すべき立場にありながら、現地まで視察に赴き、その事実を写真付きで自ら公表した国安局トップの判断には重大な疑義が残る。
ある元国安局長は、国安局長が自ら警備状況の確認に赴くこと自体は必須の任務だと認めたうえで、「蔡局長は情報機関として最大の禁忌を犯した。総統の動静を直接的に暴露するに等しいニュースや写真を、なぜ自ら発信したのか」と厳しく批判した。
同氏によれば、このような情報がどのタイミングで公表されるかを見れば、専門家にはどこに問題があったかが容易に推測できるという。「詳細を明かすことは避けるが、今回の蔡局長の行動は完全に素人のやり方であり、なぜこれほど愚かな真似をしたのか理解に苦しむ」と同氏は語る。過去の事例を振り返れば、総統の外遊に際して国安局長が事前にメディアへ露出することは皆無であり、むしろ自身の動向が外部に漏れることすら極度に警戒してきた。自身の身辺防御を徹底してこそ、総統の安全確保が全うできるからだ。
ある元国安局長は、蔡局長が自ら総統のスケジュールを暴露したことは大タブーだと指摘し、「完全に素人のやり方であり、なぜこれほど愚かな真似をしたのか」と批判した。(資料写真、顔麟宇撮影)
些細な綻びが招いた自滅と、中国の強硬手段 前出の元国安局長は、状況証拠から見る限り、今回の事態は国安局が自ら墓穴を掘った結果であるとの見方を示す。たしかに総統府も事前にエスワティニ訪問に関する公式発表を行っていたが、それは国家間の外交儀礼として当然の手続きである。しかし、最高情報機関である国安局が表舞台に出てそれを宣伝することはあってはならない。「安全保障の観点から言えば、すべてが筒抜けになっていた。自分がこれからどこで何をするかを全世界に向かって公言したようなものだ」と元局長は指摘する。情報工作の世界では、些細な事実の断片から全容を把握することが可能である。いかなる小さなミスも許されない中で、国安局トップが自ら視察活動を公表したことは、敵対勢力の専門家に対してあまりにも多くの手掛かりを与えてしまったと言わざるを得ない。
一方で、中国が今回、経由国3カ国の飛行許可を取り消させるという直接的な経済的威圧に出たことについて、元国安局長は「劇薬とも言える強硬手段」だと評価する。この露骨な圧力は、当該地域の国々の反発を招くため中国自身にとっても痛手となるはずだ。しかし中国は、自国が多少の外交的代償を払ってでも、頼総統の外遊を阻止するという目的を果たすために最大の効果を追求したのだと言える。
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