【独占インタビュー】TSMCは「明日の自分」と競う時代へ 米国工場と台湾海峡リスクが変える半導体地政学 前行政院副院長の施俊吉氏は、台湾で生産される先端半導体は金融上の性質として、すでに「リスクを伴う商品」になっていると指摘した。(写真/張瀞文撮影)
深い経済学の背景と台湾証券取引所(TWSE)会長としての実務経験を持つ台湾の元行政院副院長・施俊吉氏は、このほど台湾ニュースサイト『新新聞』の独占インタビューに応じ、米アップル(Apple)が一部の半導体受注を米インテル(Intel)に委託した昨今の半導体産業を巡るグローバル競争について、独自の極めて専門的な見解を明らかにした。
施氏は、台湾積体電路製造(TSMC)とインテル、そしてアップルの間で繰り広げられる駆け引きは、本質的に「リスク・プレミアム(Risk Premium)」を巡る経済的打算であると指摘している。さらに同氏は、TSMCが将来直面する最大の課題は「今日のTSMCが明日のTSMCといかに競争するか」であるという深遠な命題を提示した。
地政学的リスク下の「半導体宝くじ」とリスク・プレミアム 施氏は、台湾で生産される先端半導体は、金融の観点から見ればすでに「リスクを伴う商品」になっていると分析する。同氏はこの状況を「宝くじ」に例え、台湾海峡が平和であれば、顧客は安価で最先端かつ高品質な半導体を調達できる一方で、万が一台湾海峡で武力衝突が発生した場合、サプライチェーンが一夜にして寸断されるリスクを孕んでいると指摘した。
この概念を具体化するため、施氏は原油市場を例に挙げている。ペルシャ湾産の原油は採掘コストが低く安価だが、戦争リスクが高いため、長期的な買い手は供給途絶のリスクを負わなければならない。対照的に、ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI) やブレント原油は価格こそ割高だが供給が安定している。顧客が支払う価格差は、実のところ「安全へのプレミアム」を買うためのものだという。
インテルのファウンドリー事業は、TSMCに少なくとも1世代以上遅れを取っている。(写真/インテル提供) 施氏は、これがアップルが技術面で後れを取り、コストが高く歩留まりも不安定なインテルに発注する理由を説明しているとみる。アップルにとってこれは非合理的な決定ではなく、「ヘッジ(Hedging:リスク回避)」を行っているのだ。米国産の半導体を購入することは、仮に価格が割高であっても、極端な地政学的衝突が起きた際に企業の利益が直接的な打撃を受けるのを防ぐ保証となるからである。
二重価格設定、今日のTSMCと明日の自社との競争 米国の要請に応じたTSMCの米国工場建設に伴い、施氏は極めて重要な現象を観察している。それは、TSMCが「自社と自社が競争する」局面を作り出しつつあるということだ。
同氏の分析によれば、今後TSMCは「二重価格設定」という課題に直面する。米国工場はコストが嵩む上に「ヘッジ属性」を備えているため、その製品価格は台湾工場よりも必然的に高くなる。中台関係が緊張した場合、市場における台湾製半導体への「リスク・プレミアム」が上昇し、結果として米国工場製チップの魅力が高まる。逆に、台湾海峡情勢が緩和すれば、台湾工場が持つ価格競争力の優位性が解き放たれることになる。
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施氏は、TSMCが「今日のTSMC(台湾の国内工場) 」と「明日のTSMC(グローバル展開する海外工場) 」がどう競争するかという問題に向き合わなければならないと強調する。台湾国内工場の競争力を維持するためには、「技術で1世代先行する」という防衛線を死守する必要がある。万が一、台湾工場が地政学的リスクを抱えながら技術的優位性まで失えば、その価格決定力は崩壊を免れないだろう。
なぜサムスンではなくインテルなのか 「セカンドソース(第二の供給源) 」について議論する際、施氏はインテルが米大手企業にとっての最優先の選択肢である理由を以下のように分析した。
第一に「出自」と「信頼」の問題だ。韓国サムスン電子(Samsung) は技術面でインテルを凌駕しているものの、韓国企業であるがゆえに、同様に北朝鮮の脅威という地政学的リスクに直面している。さらに決定的なのは、サムスンとアップルが最終製品(スマートフォンなど) で直接的な競合関係にあることだ。過去には技術盗用の争議も起きており、両者間の信頼基盤は脆い。
サムスンもまた、朝鮮半島をめぐる地政学的リスクを抱えている。(写真/AP通信提供) 米国の企業にとって、インテルは唯一の国内製造の選択肢だ。インテルが現在「技術伝承の断絶」という移行期の泥沼にあえいでいるとしても、政治的なリスクを持たないという特質により、TSMCとの競争において「リスク・プレミアム」がもたらす優位性を一定程度獲得できると施氏はみている。
戦略的均衡 台湾が持つ「切り札」による防衛 生産能力の移転や地政学的圧力に台湾がどう対応すべきかについて、施氏は2つの戦略的提言を行っている。1つ目は技術的差別化戦略である。同氏は、台湾国内の製造プロセスが海外工場よりも絶対に1世代先行することを堅持し、技術的配当を活用して地政学的リスクを相殺すべきだと主張する。
2つ目は制度的な対抗措置だ。極端な事態に陥った場合、台湾政府は先端製造プロセス製品に対する「輸出税」の徴収を検討し、地政学的圧力を米国の巨大IT企業に転嫁すべきだと施氏は提言した。これにより、世界的な発言力を握るこれらの企業に、台湾の安全を保障するよう米国政府に対して逆ロビー活動を行わせるように仕向けるのである。
最後に施氏は、TSMCが現在主要な生産能力を台湾に残していることが、実のところ米国、中国、台湾の3者間で「巧妙な均衡」を形成していると総括した。中国にとって、台湾に存在するTSMCは米国のサプライチェーンを脅かすカードとなる。一方、米国にとっては、半導体供給を確保するためにも台湾の安全を支持せざるを得ない構造となっている。
さらに同氏は、TSMCの機能が完全に空洞化し米国に移転されれば、台湾の「戦略的価値」は大幅に低下すると警告した。したがって台湾は、TSMCが随意に取引できる「取引材料」ではなく「切り札」であると明確に認識しなければならない。絶え間ない技術革新を通じて「明日のTSMC」を台湾国内で進化させ続けてこそ、予測困難なグローバル競争の波浪のなかでも揺るぎない存在でいられるのだと結論付けた。
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