2026年6月2日、台湾空軍岡山基地(高雄市) 所属のT-34C初等練習機が訓練中に墜落し、ベテラン操縦士2人が殉職した。事故原因は現在調査中だが、同機の安全性をめぐっては議論が広がっている。背景にあるのは、T-34Cが台湾空軍に導入されてからすでに41年が経過しているという事実だ。各方面からは機体の老朽化を懸念する声が上がっており、一部の立法委員(国会議員に相当)は、操縦士の命を守るためT-34Cを全面的に飛行停止とすべきだと求めている。
台湾空軍は1985年にT-34C初等練習機を導入した。これまで同型機では計13件の航空事故が発生しており、このうち機体の全損や死傷者を伴う重大事故は10件に上る。今回の事故を含め、これまでに計12人の操縦士が殉職している。
もっとも、T-34Cの墜落で操縦士2人が死亡した前回の事故は2010年12月で、すでに15年が経過している。軍関係者は、機体の年数は確かに古いものの、信頼性や安全性が極端に低いわけではないとの見方を示す。
空軍も事故発生直後に記者会見を開き、T-34Cの維持・整備は台湾の航空機メーカー、漢翔航空工業(AIDC)に委託しており、機体の稼働状況は良好だと説明した。そのうえで、次期初等練習機の調達に向けた検討はすでに始まっており、今後は新型機の取得を加速させる方針を示した。
翌日、空軍は改めて報道資料を発表し、T-34Cの飛行時間に基づいて退役時期を前倒しで見極め、国内外の関連情報を収集していると強調した。さらに、射出座席やフライトデータレコーダー、いわゆるブラックボックスなどの装備も次期機の計画に盛り込み、予定に沿って新型機の調達を進めるとしている。
つまり、空軍はすでに次世代の初等練習機導入に向けて動き出している。ただし、関係者によれば、軍内部ではその調達方式をめぐり、2、3の案が浮上しており、意見はまだまとまっていないという。
台湾空軍のT-34練習機が岡山基地で墜落した。事故原因は現在も調査中だ。(資料写真/中央社提供 )
T-34運用は世界でわずか3カ国 米軍T-6のリース案も浮上 空軍軍官学校に配備されているT-34C練習機は、導入からすでに41年を迎えている。空軍は当初、2023年に同機を退役させる計画だったが、その後、退役時期は2033年まで延長された。今回の訓練中の墜落事故により、T-34Cの運用年限をめぐる問題が改めて浮上した形だ。
現在、T-34型初等練習機を運用しているのは、世界でも台湾を含む3カ国のみとされる。空軍は、メーカーが示す寿命規定上はまだ耐用年数に達しておらず、機体の整備状況も正常で、後方支援や部品供給にも問題はなく、部品供給が途絶える懸念もないと説明している。
ただ、次期初等練習機をどの方向で導入するかについて、軍内部ではなお意見が分かれている。関係者によれば、現在、空軍内で主流となっている案は、米国からT-6初等練習機をリースする方式だ。コストを抑えながら、台湾の初等練習機の老朽化問題を迅速に解決できるとみられている。
同時に、リース方式でT-34Cを退役させる場合、操縦士や整備要員を米国に派遣し、現地で訓練を受けさせる案も検討されている。
台湾空軍は、米軍からT-6初等練習機をリースする案も検討している。写真は、ボーイングが開発した次世代練習機T-7「レッドホーク」。(資料写真/米軍DVIDSより)
導入40年超の背景に米国の部品在庫 台湾軍が公に語りにくい事情 一方、空軍内部には、リースは長期的な解決策にはならないとして、性能に優れた新型初等練習機を購入すべきだとの意見もある。さらに、技術的な困難は大きくないとして、国産開発を選択肢に含めるべきだという見方も存在する。
ただ、軍上層部が重視しているのは予算の問題だ。新型機を購入する場合、予算面の制約は大きく、十分な財源を確保するのは容易ではない。国産開発についても、軍上層部の間では「やむを得ない場合の最後の選択肢」と位置付けられている。
その理由は、空軍が必要とする初等練習機が20数機にとどまるためだ。台湾独自で開発しても、他国市場への輸出が見込めなければ、1機当たりのコストは必然的に高くなる。国軍の現行予算や今後の支出見通しを考えれば、リースは費用対効果(コストパフォーマンス) の面で比較的合理的な案とみられている。
では、なぜ台湾は、T-34Cが導入から40年以上を経てもなお退役させず、運用を続けてきたのか。その背景には、軍が公には語りにくい事情があるとされる。
関係者によれば、根本的な要因は、米軍がT-34Cを退役させた後、大量の予備部品在庫が残っていたことにある。最終的に、台湾側はそれらの部品をまとめて引き受けることになったという。言い換えれば、米国が余剰となったT-34Cの部品を台湾に売却し、台湾側がそれを受け入れた形だ。
台湾軍の立場からすれば、T-34Cの部品が十分にあり、整備や維持に支障がないのであれば、次期初等練習機への更新を先送りし、米国の在庫消化にも協力するという判断には一定の合理性があった。購入済みの部品を使わないまま廃棄すれば、それもまた予算の浪費になるためだ。
台湾がT-34Cの運用を続けていることに対し、外部から疑問の声が上がっている。写真は、T-34墜落事故について説明する台湾空軍司令部の記者会見。(資料写真/中央社提供)
国産か、リースか、海外調達か 台湾には国機国造の実績も 空軍の次期初等練習機は、国産開発、リース、海外調達のいずれになるのか。ある軍関係者は、現在のT-34Cについて「耐用年数には達しておらず、各方面で問題はない。すべての選択肢を検討している段階であり、T-34Cの運用期限が来るまで見極める可能性もある」と語る。
また、リース方式を採る場合でも、これは短期的な需要ではないため、リース料の負担を考慮しなければならないという。試算の結果、費用に見合わないと判断されれば、選択肢は国産開発か海外調達に絞られることになる。
一方、現実的な側面に目を向けると、台湾国内の航空産業最大手である漢翔航空工業には、国産戦闘機IDF「経国」や高等練習機「勇鷹(ブレイブ・イーグル)」を開発した実績がある。
漢翔航空工業の労働組合トップもT-34Cの事故後、次期初等練習機は「国機国造」、すなわち国産機開発の形で進めるべきだと訴えた。初等練習機を国産化すれば、国防自主を高められるだけでなく、本来は海外に流れる可能性のある数百億台湾ドル規模の国防予算を国内にとどめ、台湾の産業発展に直接振り向けることができるという。
単純な海外調達と比べ、国内での研究開発と生産がもたらす経済波及効果は大きく、国家全体としての投資対効果を高めるとの見方だ。
高等練習機「勇鷹」は、台湾空軍が国家中山科学研究院に開発を委託し、漢翔航空工業が製造・組み立てを担った「国機国造」を象徴する機種だ。(資料写真/柯承惠撮影)
海外調達やリースは人材流出の懸念 初等練習機は次世代戦闘機への第一歩 国防産業関係者からは、将来的に初等練習機を海外調達やリースに頼れば、国内の航空人材の流出につながるとの懸念も出ている。研究開発から生産までを国内で行えば、次期初等練習機の国産化率は75%に達する可能性があり、国内サプライチェーン全体の活性化にもつながるという。
この関係者は、初等練習機は高度な機密装備を必要とする戦闘機とは異なり、エンジンなどは市場で調達可能で、厳格に管理される軍用品には当たらないと説明する。台湾で製造する利点は、国産化率を75%まで高められることに加え、アビオニクスや環境制御などの中核システムを国内に残せる点にある。
高等練習機「勇鷹」の国産化率は55%にとどまり、その多くは機体構造部分に限られている。しかし、初等練習機で国産化率75%を達成できれば、台湾にとって重要な航空電子技術の向上につながるとみられている。
この国防産業関係者は、台湾の無人機産業や航空宇宙産業には継続的な発展計画が必要だと指摘する。台湾が今後も航空機製造の分野で存在感を保ちたいのであれば、空軍の初等練習機は国産化すべきだという。
「比較的難易度の低い初等練習機で国内メーカーに経験を積ませなければ、次世代戦闘機をどうやって開発するのか。次世代戦闘機の空軍配備を期待する声は多いが、台湾の国際的な立場を考えれば、海外から直接調達するのは極めて難しい。国産開発は避けて通れない険しい道かもしれないが、まず初等練習機から経験を積むことで、台湾が次世代戦闘機を自力で開発する可能性が開ける」と、この関係者は語る。
今回殉職した2人の操縦士はいずれも中佐階級のベテラン飛行士だった。操縦士の育成は軍にとって最も難しい課題の一つであり、一度に2人を失ったことは、台湾空軍にとって大きな痛手である。
空軍が説明するように、T-34Cが耐用年数に達しておらず、整備状況も正常で、部品供給に問題がないとしても、同機にフライトデータレコーダーや射出座席が搭載されていないことは事実だ。これは事故原因の究明を難しくするだけでなく、緊急時に操縦士の命を救う手段が限られていることも意味する。
悲劇を受け、台湾国防部が教訓を真剣に受け止め、次期初等練習機の調達方式を早期に決断できるかどうか。いま、政策決定層の専門性と判断力が問われている。