ドローンは近年、ウクライナがロシア軍に抵抗する上での有力な武器となり、イランが7カ月にわたって米軍の強力な攻勢に持ちこたえる力にもなった。同じく「小が大に対抗する」構図に直面する台湾にとって、ドローンは侵攻してくる敵を食い止め、中台の軍事力が著しく不均衡な状況の中で新たな希望となり得るのか。
米軍は近年、「ヘルスケープ(地獄絵図)」と呼ばれる構想を打ち出している。しかし、早くも2017年に「全体防衛構想(ODC)」を提唱した李喜明・元参謀総長(台湾軍の元トップ、退役海軍大将)は、ドローンを「台湾防衛の万能薬」とあがめる各界の熱狂に対し、一貫して慎重かつ冷静な批判の目を向けてきた。
1996年の台湾海峡危機の際、潜水艦「海虎」の艦長として最前線で臨戦態勢に就いた李氏は、非対称の手段で「拒否的抑止」(侵攻しても目的を達成できないと相手に思わせることで攻撃を思いとどまらせる抑止)を実現する「全体防衛構想」の礎を築き、提唱した人物でもある。
李氏はこのほど台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の単独インタビューに応じ、国家の存亡に関わるこの防衛革命が進むべき道を深く掘り下げて語った。実務と兵学に根ざした豊富な知見をもとに、米太平洋軍(今年6月に米インド太平洋軍から旧称に戻った)が提唱する「ヘルスケープ」(Hellscape)を読み解き、「台湾を守る最善の方法は台湾本土に立脚することであり、米国からではない」と断言した。
政府が進めるドローン戦力整備の方向性について、李氏は台湾国防部が「上位の作戦指導を欠く」本末転倒に陥っていると指摘した。作戦理念も戦場での任務もはっきり説明できないまま、いきなり製品の購入に金を投じれば、調達は軍需企業の広報ショーと、業者による安値受注競争の悪循環に陥るだけだという。
さらに危ういのは、台湾が軍事AIの分野で「頭脳はゼロ」の状態にあることだ。国防研究開発は今なお米企業の指揮統制プラットフォームや自律作戦ソフトウエアの利用に依存しており、ひとたび外国がシステムへのアクセス権を遮断すれば、台湾は全軍壊滅という「主権AI」(Sovereign AI)の危機に直面することになる。
李氏は繰り返し、まず上位の作戦構想を明確にし、研究開発と編制・装備を担う組織の「パラダイムシフト」を進めるべきだと強調する。また、政府が抗戦の意志を政党の動員へと矮小化すれば、台湾は生存に関わる防衛の好機をむざむざ浪費することになると警告した。
一方で李氏は、台湾軍が懸命に海岸線を守り抜くのは、実は「交渉のテーブルに着き、対等に対話する機会を勝ち取るため」だと指摘し、台湾は交渉の扉を閉ざすべきではない、さもなければ戦局は依然として打開できないと述べた。 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
大国のはざまで、台湾が力と知恵によっていかに活路を見いだすか。台湾軍きっての「儒将」とも評される李氏は、慎重かつ理性的な提言を示した。

米軍には台湾海峡で「ヘルスケープ」は実現できない
李氏は『風傳媒(ストームメディア)』のインタビューで、将来の戦争は「無人システム、人工知能(AI)、宇宙ネットワーク」が共同で主導するものになり、この三つを高度に統合できれば「従来型の有人プラットフォームを大量に投入して戦う理由はなくなる」と述べた。
李氏によれば、ロシア・ウクライナ戦争の戦場での経験は、ドローンとAIの統合が実現可能であることを示したが、実戦では通信帯域、低遅延伝送、耐妨害通信といった課題にも向き合わなければならない。これこそが宇宙という要素が決定的な役割を担う理由だという。したがって、この三つを掌握した者が、戦場で「ヘルスケープ」(Hellscape)を実現できるというわけだ。
サミュエル・パパロ米太平洋軍司令官(海軍大将、Adm. Samuel Paparo)が打ち出した台湾海峡の「ヘルスケープ」構想について、李氏は、「ヘルスケープ」の本質はまさに自身が提唱してきた「全体防衛構想」(Overall Defense Concept, ODC)を具体化したものだと指摘した。
最も簡単に言えば、「全体防衛構想」とは「小型で機動的、分散型で精密かつ致命的な小さな兵器を大量に」用いて「拒否的抑止」を達成するものだという。

李氏は、「ヘルスケープ」はこれまで誰も実現できておらず、努力を続ければ実現の可能性はあるものの、米軍が台湾海峡にヘルスケープを構築するのは「あまりありそうにないこと」だと言い切った。
理由は米軍に技術がないからではなく、「前方基地と持続的な兵站支援能力が不足している」からだ。この種の小型無人ビークルは航続距離が限られ、補給・整備の拠点から遠く離れることができない。米軍は日本やフィリピンにも基地を持っているが、それでも台湾海峡からは遠すぎるという。
「こうした小型プラットフォームは、軍艦や戦闘機のように定期的に交代でパトロールすることはできず、長く現場にとどまることもできない。中国軍がまだ全面侵攻に踏み切っていない段階で、どうやって事前に台湾海峡に『ヘルスケープ』を敷くのか。そしてどうやって維持するのか」
李氏は、台湾海峡で「ヘルスケープ」を実践するのに最もふさわしい主体は終始、台湾自身だと述べた。台湾情勢に関心を寄せる外国の友人と議論する際にも、「台湾を守る最善の方法は台湾本土に立脚することであり(The best way to defend Taiwan is from Taiwan)、海を隔てた米国からでは決してない(not from America)」と常に強調しているという。 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
台湾は防衛上の地の利を持ち、距離が近く通信手段も多様で、信頼性の低い宇宙経由や遠距離の無人中継に頼る必要がない。逆に言えば、前進基地を欠く米国に比べ、台湾海峡に近い中国の方がむしろ「ヘルスケープ」を敷くのに適しているという。
米軍の「ヘルスケープ」計画について、李氏は、パパロ氏が当初表明した際は「口ぶりが大きすぎた」とみており、その後、幕僚チームと詳細な検討を重ねた結果、以降の発言は明らかにトーンダウンしたと分析する。
「理由は簡単だ。米軍自身がまったく実現できないからだ」
李氏はさらに、米国防総省の国防イノベーション・ユニット(DIU)もかつて「レプリケーター」構想(Replicator Initiative)を推進し、低コストの無人システムを短期間で量産して中国軍の規模の優位に対抗しようとしたが、トランプ大統領のホワイトハウス復帰に伴って政策の重点が移り、今では米国内でもこれに言及する人はほとんどいないと指摘した。
「米軍を待つ」のか「自力で戦う」のか
米シンクタンク「新アメリカ安全保障センター」(CNAS)が今年発表した「台湾のためのヘルスケープ」報告書は、台湾の海岸から沖合80キロまで4層の無人防御網を構築する計画を示し、防衛目標も「1カ月の時間を稼いで反撃戦力を集結させる」ことから、「米軍が介入しない状況で、独力で中国軍を撃退する」ことへと改めた。
これについて李氏は「つまるところ、少し言葉は悪いが、台湾の例から見れば米国にはまったく頼れない。自分に頼るしかないということだ」と率直に語った。
近年の台湾軍の戦力整備の方向性について、李氏は、軍が進める「濱海作戦指揮部」(沿岸作戦指揮部)の創設、分散型の指揮統制、任務指揮(ミッション・コマンド)は、いずれも本質的にはODCの概念を取り入れたものだと指摘した。
一方で、国防部の現在のやり方は「上位の作戦指導を欠く」混乱に陥っているとの見方を示した。
台湾の立法院(国会に相当)は「国防自主強化・無人システム産業発展条例」を可決し、6年間で総額2400億台湾ドルを原則として計上することを決めたが、李氏の評価は辛辣だ。
「問題に金を投げつけるだけでは、問題は解決しない」
例えば米アンドゥリル・インダストリーズが台湾で無人システム「アルティウス(Altius)」の売り込みを積極的に進めた際には、「(軍需企業が)国防部長と並んで記念撮影する」という状況も見られた。しかし、どのような自律型無人作戦のエコシステムを築くのかについては、まったく筋道が立っていないという。

では、台湾が整備を進めるドローン大部隊は、1カ月持ちこたえて米国の援軍を待つためのものなのか、それとも独力で中国軍を阻止するためのものなのか。
李氏は直接の答えは示さなかった。
「戦略指導がないまま、いきなりドローンを調達し始めれば、必ず方向感覚を失う。我々に最も欠けているのは、いったいどうすればいいのか誰も分かっていないということだ。台湾のドローンはそもそも何を攻撃するためのものなのか、誰も分かっていないようだ」 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
李氏はさらに厳しく警告する。作戦指導がないまま最終製品の調達にいきなり飛びつき、しかも従来の仕組みを踏襲して業者に安値で入札を競わせれば、
「落札業者は利益のために低コストの中国製部品をひそかに混ぜて納入・検収に臨み、その後、軍から突き返される。こうした悪循環はきりがない。台湾のドローン戦力はいつになったら確立できるのか」
李氏は、無人システムはもちろん重要だが、「ドローンを買うこと」自体は戦略ではないと考える。まずどう戦うかを決め、その作戦構想に基づいて組織、ソフトウエア、AI、通信、生産能力、兵器を決めるべきだという。
「主権AI」の危機を直視せよ 作戦の中核を他者に委ねるな
国内ではドローンが「次の護国神山」(台湾経済を支えるTSMCを指す比喩)になるとの期待が寄せられているが、李氏は「台湾のドローンは実はとても弱い」と言い切った。
台湾の弱点はハードウエアではなく、中核部品と作戦の頭脳となるシステムが欠けていることにあるという。
李氏によれば、国家中山科学研究院(中科院)はドローンの訓練に際して、今も米アンドゥリル・インダストリーズの指揮統制プラットフォーム「Lattice」や米シールドAIの自律飛行・作戦ソフトウエア「Hivemind」を使っている。
李氏は「台湾は自主開発すべきだ」と強調し、中核となるソフトウエア、データ、システムの管理権を握るべきで、「他人のものをそのまま使うだけではいけない」と述べた。
李氏の分析では、生成AI(Generative AI)が急速に「エージェントAI」(Agentic AI)へと進化するにつれ、軍事におけるAIの役割はもはや補助的なものにとどまらず、任務計画や動的な指揮統制を主導することさえ可能になる。
これは台湾の「主権AI」(Sovereign AI)の危機に直結する。
「もしある日、米国側がシステムへのアクセス権を直接遮断したら、巨費を投じて築いた部隊は全滅してしまうのではないか」
李氏はロシア・ウクライナ戦争を例に挙げた。イーロン・マスク氏はかつて地政学的な懸念から、ウクライナ側によるクリミア周辺での「スターリンク」(Starlink)利用拡大の要請に応じず、結果的にウクライナ軍の攻撃作戦が制約されたと報じられた。
李氏は、台湾が作戦ソフトウエア、AIモデル、通信の自主権のすべてを国外に握られれば、有事には戦略的な寸断という極めて大きなリスクを負うことになると警告した。
ドローン大国の侵攻にどう向き合うか
中国は世界最大規模のドローン産業チェーンと民生用ドローンの生産能力を持ち、多くの無人システム技術でも先行している。
中国軍もドローン戦に大きく依存し、例えば大量のドローンで台湾の防空能力を消耗させるのではないか――。
この問いに李氏は、中台衝突ではドローンによる消耗戦が必ず起きると認めつつも、ドローンだけで台湾を降伏させることはできず、中国軍は最終的には地上部隊を海を越えて送り込み、占領しなければならないと指摘した。 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
「相手が渡ってくるときを押さえて、渡ってこられないようにすれば、相手が非対称戦を仕掛けてくるか、ドローンを使うかどうかは二次的な問題になる」
李氏はまた、台湾が島しょという環境ゆえに相対的に不利な立場にあることも認める。ひとたび海と空から全面封鎖されれば、台湾国内での軍需品の継続生産能力に問題が生じる。
そのため防衛計画には、事前集積(preposition)によって十分な量をあらかじめ蓄えておくなど、現実的な対応策が欠かせないという。

中国軍の大規模なドローン群と長距離火力の脅威について、李氏は、中国軍が台湾に侵攻すれば、長距離ドローンに巡航ミサイルや弾道ミサイルを組み合わせた飽和攻撃を仕掛けてくるのは必至であり、「台湾の盾(T-Dome)」を築くだけでは、極めて不釣り合いなコストの罠に陥るのは避けられないと分析した。
李氏はインタビューで、政府がドローンの大量調達を計画する一方、対ドローン能力の規模や関連施策はいまだ不透明だと疑問を呈していた。
注目すべきは、国防部がこのインタビューの後、電子妨害、レーザー、高出力マイクロ波、自動砲塔、各種迎撃システムなどの対ドローン能力の整備を進めており、ドローンの脅威を「台湾の盾」の多層防空体系に組み込むと公に表明したことだ。
ただ李氏は、防衛の発想に合理的な「コスト交換」の概念がなく、受け身の防空網づくりばかりに目を向けていれば、ウクライナと同じように致命的な消耗の罠に陥ると指摘した。
戦略の源流から作戦概念を明確にして初めて、民間を正しく低コストな対抗システムの開発へと導くことができるという。
「非レッド・サプライチェーン」は足かせか、追い風か
台湾のシンクタンク「科技・民主・社会研究センター」(DSET)は最新の報告書で、台湾のドローンのサプライチェーンは電池セルやレアアース(希土類)磁石などの上流材料で依然として中国への依存度が高いと指摘し、「非レッド・サプライチェーン」(中国系供給網に依存しないサプライチェーン)の範囲をさらに広げるよう提言した。
中国軍がドローン産業チェーンや群れ(スウォーム)による協同作戦で持つ優位性、そしてドローンの「非レッド・サプライチェーン」をめぐる論争について問われると、李氏は政治イデオロギーに縛られてはならないと注意を促した。
李氏の分析では、ドローンの機体外殻や基本モジュールをどこが受託生産するかは、実は大した問題ではない。
「有事に供給が途絶えた際の代替・予備さえ確保できればよく、相手側の商用部品を我々のために使うと考えてもいい」
防衛戦略の本当のカギは、むしろ「頭脳となる意思決定システム」と「耐妨害の通信・制御」にあるからだ。
自律飛行制御、目標識別、任務の指揮統制ソフトウエアなどがそれに当たり、有事にアクセス権が遮断されれば、すべての無人ビークルが「全滅」することになる。
李氏から見れば、一般的な商用規格の部品はたとえ中国製であっても、事前に資材を備蓄し、代替調達先を確保しておけばリスクは管理できる。 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
しかし、飛行制御、任務計画、通信、AIモデルの更新や使用許諾、アクセス権を外部に握られれば、有事にはそれらの兵器が機能し続けられるかどうかを直接左右することになるという。

台湾が「非レッド・サプライチェーン」によって世界の防衛産業のハブになることを産業界が期待していることについて、李氏は、政府の現在の最大の戦略的盲点は「国防上の戦備」と「産業育成」を混同していることだと強調した。
「世界の非レッド・サプライチェーンの一角を担えば、ビジネスや産業の観点からは当然うまくやっていける。だが、サプライチェーンの一角になることで、直接国を守れるのか。できない!」
李氏は、台湾が完全な軍事兵器を自主開発しようとすれば、技術的な自立と、中国系サプライチェーンの完全な排除を同時に求められ、技術的なハードルもコストも極めて高いと疑問を投げかけた。
民間産業は活力に満ちており、政府が民間の力を借りるのであれば、数年単位の特別予算による短期的な運用ではなく、10年、20年という長期にわたって恒常的な通常予算で支えなければならない。
何かにつけて「産業の論理」で国防の調達案件を包み込めば、国家安全保障の本質を損なうだけだという。
政府が推進する「ドローン国家チーム」について、李氏は、かつての「マスク国家チーム」の製造業的な発想を軍事技術に当てはめるべきではないと述べた。
「マスクには標準規格があるが、ドローンはそうあるべきではない。それに一カ所にまとめてはいけない。まとめてしまうのはどれほど危険か。分散・機動の原則にまったく合わない」
政府が産業集積の形で一部のドローン研究開発・製造能力を集中させていることについても、李氏は有事の生存性に懸念を示し、すべての業者を特定の工業団地に集めるのは戦略的に極めて不合理だと警告した。
「一網打尽にされる恐れが大きいからだ」
「全体防衛構想」(ODC)の核心は「大量の小型で機動的、分散型で精密かつ致命的な」戦力にある。
そのため李氏は、政府がすでに義務兵役を1年に戻した以上、古い発想を打ち破り、台湾の高学歴の理工系の兵役対象者を、ふさわしい研究開発の現場(例えば中科院)に配属すべきだと大胆に提言する。
専門技能を持つ兵役対象者の配属制度を設計し直し、「1年間すべてを研究開発に充てれば、成果が出ないとは思えない」と語った。
台湾は「ウクライナの経験」を再現できるか
ロシア・ウクライナ戦争や米イラン戦争では、無人システムが交戦のルールを書き換える「ゲームチェンジャー」(game changer)となり、「ウクライナの経験」を台湾海峡で再現できるかに大きな関心が集まっている。
李氏はプロイセンの名将、大モルトケ(Helmuth von Moltke the Elder)の名言「いかなる作戦計画も、敵との最初の接触を越えて生き残ることはない」(No plan survives first contact with the enemy)を引き、どのような作戦計画もそのまま当てはめることはできないと率直に語った。 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
欧米の一部の研究者からは、ウクライナは見渡す限りの平原での陸上戦であり、黒海の海況も台湾海峡よりはるかに穏やかなため、ウクライナ軍の無人艇(水上ドローン)がロシア黒海艦隊を奇襲したような戦い方は台湾海峡には移植しにくいとの疑問も出ている。
これに対し李氏は、台湾海峡の環境条件は台湾の守備隊にとって天然の障壁でもあると指摘した。
「小型の無人艇が、風が強く波が高いときに使えないことには、もちろん同意する。だが、風が強く波が高いのは中国軍にとっても問題だ。中国軍が渡ってこられなければ、こちらも当然、無人艇を出して対抗する必要はない」
李氏は、防衛作戦の論理は「敵が動いて、初めてこちらが反撃する」ことだと強調する。
中国軍が海を越えて上陸するには、海象の穏やかな天候の窓を選ばざるを得ない。それこそが、台湾軍の小型で機動的、分散型の無人ビークルが総出で致命的な攻撃を行う戦術上の好機になるという。
李氏はさらに、ウクライナのドローン戦術がそのまま移植できない本当の理由は、台湾の都市部のビル群や市街地の地形がドローンの運用に不利な点にあると指摘した。
台湾の密集した都市部のビルや複雑な市街地の地形は、一部のドローンの通信やナビゲーション、操作空間を制約することにもなる。

ドローンはいかに素早く改良を重ねるのか カギはソフトウエアの更新速度
デビッド・ペトレイアス元米中央情報局(CIA)長官(退役大将)と、米シンクタンク「大西洋評議会」のクララ・カルデロビッチ研究員は、米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」(Foreign Affairs)への寄稿で、世界トップクラスのエンジニア人材と軍の部隊が協働してブレーンストーミングを行い、高強度の演習・訓練を通じてウクライナのような迅速な改良サイクルを築くよう台湾に提言した。
これについて李氏の見方はやや異なる。
「エンジニアを探してきても役に立たない。エンジニアの考え方は、作戦の考え方とは違うからだ」
李氏は、民間のエンジニアは技術や製造工程に焦点を当てており、最前線の軍人が戦場で用いる作戦の論理をまったく理解していないと言い切る。
李氏は国防部の系統資訊処(システム情報処)に在任していた当時(当時の肩書は国防部通信電子資訊局系統資訊処長)、このことを身をもって感じたという。
「育った環境が違うからだ。我々が考えるのはどう戦うかで、彼らが考えるのは工学だ」
李氏は、ウクライナの戦場から得られる最も貴重な教訓は「ソフトウエア定義」による高速の改良サイクルにあると指摘する。
「今週、あなたがその対ドローンシステムで私の機体を撃ち落としても、来週にはもう落とせなくなる。なぜか。今はどれもソフトウエアで定義されるものだから、私はすぐに変われるのだ」
李氏は、台湾の軍需産業の発想が長年、「ハードウエアがアーキテクチャーを縛る」古い方式にとどまり、一つの作戦システムが十数年から20年も更新されないことを批判した。 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
「ハードウエアだけに頼れば改良は遅くなる。だから今やるべきは、できる限りソフトウエアで代替することだ。スマートフォンの中の部品を交換する人はいない。新しいソフトをダウンロードすれば新しいことができる。ドローンもそうあるべきだ」
李氏は、政府の中心的な任務は「最前線の兵士、システム・アーキテクチャー、民間のソフトウエア技術」の対話の仕組みをつくり、上から下まで統合して、互いの考えを知ることができるようにすることだと強調した。
李氏が示した解決策は、ペトレイアス氏とカルデロビッチ氏が主張する「エンジニアと最前線の操作要員の協働」と実はかなり近いが、ソフトウエアの側面から切り込むことと、軍とエンジニアの発想の違いをより重視している点が特徴だ。
軍需産業体系の問題は「金ではない」、欠けているのは統合
中国軍の台湾侵攻に対抗するための物的な備えについて、李氏は、台湾海峡が封鎖された際の最大の急所が「エネルギーの自立」であることは疑いないとしたうえで、武器・装備のレベルに限れば、台湾の最も致命的な弱点は「軍需品の自主的な生産能力の欠如」にあると指摘した。
重要な原材料やレアアースは平時に備蓄しておくことができる。本当の試練は、有事に大量に撃破されるドローンや非対称戦向けのビークルを、台湾がウクライナのように途切れることなく国内で量産し、補充できるかどうかだという。
中科院などの軍需生産体系の持続力について問われると、李氏は問題の核心は「金ではない」と言い切り、「作戦から生産までの一連のライン」がこれまで一度も統合されてこなかったことにあると指摘した。
李氏はイスラエルを例に挙げ、同国の軍需研究開発は当初から、戦場での実戦経験を持つ兵士とエンジニアが肩を並べて協力してきたと説明する。
これに対し中科院の体制内は「技術系将校」と研究開発の博士ばかりで、行政法人への改組後はさらに軍務経験が乏しくなり、研究開発要員は最前線の部隊が実際の戦場で求める生存や作戦上のニーズを理解していないという。

李氏は、少将に昇進して国防部の系統資訊処長に就いた当時を振り返る。部署内は情報・システム工学の博士で埋め尽くされていたが、エンジニアの目に映る「戦場」と、最前線の指揮官が認識する戦場とは、確かに天と地ほどの差があったという。
李氏はさらに秘話も明かした。かつて中科院に対し、なぜ雄風2型、雄風3型や天弓ミサイルは造れるのに、スティンガー・ミサイルは造れないのかと面と向かって問いただしたところ、研究開発担当者の答えは何と「要求(ニーズ)を示されていない」だった。
作戦上の要求と研究開発体制が互いに乖離しているのは明らかだ。
国防の自主と従来型プラットフォームの調達について、李氏は、台湾は国際政治の現実に縛られており、従来型の主力通常兵器(戦闘機や大型艦艇など)は造っても国際的にはまったく「市場がない」と率直に語る。
「造っても誰も買う勇気がないので外に市場はなく、国内市場は小さすぎて、とても養っていけない」 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )
唯一、非対称の「無人システム」だけは、軍民両用(デュアルユース、dual-use)の特性を持ち、技術的なハードルにも比較的柔軟性があるため、自給自足、さらには輸出の道が本当に開けているという。
李氏は参謀総長在任中に推進した小型ミサイル突撃艇にも触れた。当時、軍内部の反対に遭って計画は撤回されたが、ロシア・ウクライナ戦争で同様の手法が大きな戦術的価値を持つことが実証されると、軍は今になって改めて無人艇の開発に全力を挙げると宣言している。
李氏は、小型ミサイル突撃艇が重視した小型化・分散化の発想は、今日の無人艇重視と相通じるものがあり、軍が計画を撤回しながら再び復活させた転換は戦略的発想の遅れの代償であって、10年という歳月と改良を重ねる貴重な時間をむざむざ浪費したと嘆いた。
非対称戦争の勝敗を分けるカギを読み解く
台湾の心理防衛と社会のレジリエンス(強靱性)について、李氏は、戦う意志は極めて数値化しにくいと認めつつも、台湾内部で長年にわたって互いを攻撃し合い、抵抗の決意をおとしめていることは国家安全保障にとって大きな懸念だと述べた。
「台湾にはそもそも戦う気がないと対岸に信じ込ませれば、相手は『手を出せばすぐに崩れる』と考え、ますます手を出しやすくなる。そうなれば中台双方が敗者になる」
李氏はさらに、現在の与野党による政治動員の弊害を指摘し、「民進党(与党・民主進歩党)は、『我々は台湾のために戦う』のであって『民進党のために戦う』のではないと、全国民に深く実感させなければならない」と述べた。
「特定の政党のために戦う」ように仕向ければ、それは台湾の抵抗意志を打ち砕くに等しく、政治的な内輪もめは真の防衛コンセンサスの形成には役立たないからだという。

李氏はまた、「西洋の兵聖」と称されるプロイセンの軍事思想家クラウゼヴィッツ(Carl von Clausewitz)の言葉「戦争は政治の延長である」を引き、台湾にとって現在最大の懸念は、政治的な交渉ルートを完全に閉ざしてしまったことにあると指摘した。
強者であれ弱者であれ、交渉の窓口を閉ざすべきではないとの考えを示した。
李氏の戦略的思考において、台湾軍が敵を海岸で食い止めることは戦争の終着点ではなく、台湾のために政治交渉のカードを残すためのものだ。
米軍のイランに対する軍事行動は圧倒的な精密打撃能力を見せつけたものの、政治目的を満たす実質的な終局にはなかなか結びついていない。
一方、イランと米国の対立は激しいものの、米軍に反撃しながらも「水面下では交渉を続けている。激しく戦いながらも、裏ではやはり交渉している」。
同様に、台湾軍が海岸で敵の第1波の攻勢を食い止めたとしても、戦略的な奥行きを備えた政治交渉の案がなければ、中台の戦局は依然として打開できない。
結局のところ、「敵を海岸で阻止した後に勝ち取るのは、交渉のテーブルに着く機会だ」という。
現在進行中の二つの「非対称戦争」――ロシア・ウクライナ紛争と米イラン戦争――で、ウクライナもイランも今のところ、より強大な軍事力を持つ相手に一気に押しつぶされてはいない。
だが、それは最終的に戦略的勝利を得られることを意味するのか。
この微妙な問いに対し、李氏は直接の答えを示さず、最も基本的な「物質面」と「心理面」に立ち返って分析した。
物質面では、現代の消耗戦の本質は依然として資源の備蓄と持ちこたえられる時間によって決まる。
「なぜ低コストで大量にする必要があるのか。quantity(量)は時にquality(質)に転化するからだ。量がある程度まで大きくなれば、それは対抗の中での質になる」
李氏は、第2次世界大戦時の米軍はまさに巨大な生産能力で枢軸国を圧倒したのであり、ウクライナの戦場も今、同じように資源の比べ合いという泥沼にはまっていると強調した。
心理面について、李氏は、意志の力が時に戦場の常識を覆すことがあると強調する。
ベトナム戦争では、米軍は大半の会戦で優位に立ちながらも、国内の激しい反戦の波と政治的意志の崩壊により、ベトナムの戦場から撤退を余儀なくされた。
弱小国が強靱な意志で守り抜けるか、大国の政治的意志が長期の消耗に耐えられるか――それこそが現代の非対称戦争の終局を決める本当のカギだという。
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編集:梅木奈実 (関連記事: 【ドローン神話①】台湾はドローンだけで中国軍を食い止められるのか 米軍の「ヘルスケープ」、なぜ無人機は「主役」ではなくなったのか | 関連記事をもっと読む )













































