ロシアのウクライナ侵攻や米イラン戦争は、ドローンを高価で少量生産の航空宇宙製品から、迅速な改良と大量生産が可能な「工業消耗品」へと変えつつある。米国が「非レッド・サプライチェーン」(中国製部品・材料を排除した供給網)を模索するなか、台湾の半導体、電子、光学、モーター、金型、プラスチック、炭素繊維、精密機械が、一つの新たな戦略産業のサプライチェーンとして結びつく機会が生まれている。
ドローンは新たな「護国神山」か 米国が台湾に目を向けるのは「半導体」だけではない 2024年9月、米商務省はドローン企業の代表団を率いて訪台した。2025年3月には台湾国防部の顧立雄部長が、台米がドローンの「非レッド・サプライチェーン」構築に向けて協力していると公の場で明らかにした。今年1月の米台「経済繁栄パートナーシップ対話(EPPD)」では、ドローン、人工知能(AI)、科学技術協力が議題に盛り込まれた。
さらに7月には、米国在台協会(AIT)のレイモンド・グリーン台北事務所長が、台中市政府主催の「領航2026―台中無人載具産業・海外ビジネス機会フォーラム」で、台湾のドローン産業は米台にとって歴史的な経済機会であり、安全保障の強化にもつながると指摘。「プラチナ時代」を迎える可能性があるとの期待を示した。一方、台湾ではドローン産業を次の「護国神山」に育てようとの期待も高まっている。「護国神山」とは、台湾で国家の経済や安全保障を支える戦略産業を指す表現で、半導体産業、とりわけ台湾積体電路製造(TSMC)を念頭に使われることが多い。
これらの動きはいずれも一つの変化を示している。米国が台湾を、信頼できるドローン供給網の重要拠点とみなし始めたということであり、その理由は半導体にとどまらない。ドローンは「工業国力の縮図」である。半導体、プリント基板、光学レンズ、イメージセンサー、通信モジュール、モーター、電池、複合材料、金型、プラスチック射出成形、金属加工、そしてソフトウエアが必要となる。台湾がこの数十年、パソコン、ノートパソコン、携帯電話、自転車、自動車部品などを通じて蓄積してきた電子機器の受託製造と精密機械の製造能力は、こうした一見ばらばらな部品をまとめ上げるのにうってつけだ。
近年、台湾と米国はドローン産業の発展をめぐり交流を深めている。2026年7月には、米国在台協会(AIT)のレイモンド・グリーン台北事務所長が台中市で開かれたドローン関連フォーラムに出席した。(資料写真、柯承惠撮影)
航空宇宙製品から戦場の消耗品へ 覆った工業の論理 従来の中・大型軍用ドローンの発想は、戦闘機などの航空プラットフォームに近かった。高い性能、長い寿命、徹底した検証が求められ、価格も数千万台湾ドルから1億台湾ドル超(1億台湾ドルは約4億9657万円、1台湾ドル=4.9657円で換算)に上るのが当たり前だった。だが、ロシアのウクライナ侵攻はドローンを別の道へと押しやった。大量のFPV(一人称視点)ドローン、徘徊型弾薬(ロイタリング・ミュニション)、長距離攻撃ドローンが毎日のように撃墜され、妨害され、消費されている。それらは10年間大切に保有する高価なプラットフォームというより、むしろ弾薬に近い。
ロイター通信によると、ウクライナは2025年に約450万機のFPVドローンの調達を計画しており、これは2024年の2倍を超える。ウクライナ政府は2026年初め、ドローン全体で700万機超の生産計画を示し、7月にはゼレンスキー大統領が年間1000万機規模に達したと表明した。これほど膨大な消費量によって、ドローンをめぐる競争は1機ごとの性能から、コスト、生産能力、サプライチェーン、改良のスピードへと広がった。
「先進的なドローンを1機設計できるということは、技術を持っているというだけのことだ。毎月数千機、数万機を安定して生産できて初めて、産業が形成されたと言える」。凌霄航太(AerosoarX Technology)の羅正方董事長(会長)はこう語る。
台湾はすでに中・大型の軍用ドローンを設計する能力を備えている。羅氏は、国家中山科学研究院(中科院)が開発してきた「剣翔」「鋭鳶」などのシステムや、漢翔航空工業(AIDC)が培ってきた航空機製造・システム統合能力を挙げ、台湾の航空宇宙、制御、任務統合の技術基盤はゼロからの出発ではないと指摘する。
真のボトルネックはコストと生産量だ。これまで数カ月かけて1機を製造し、単価が数千万台湾ドルに上っていた製品を、部品の標準化と工程の簡素化を図り、生産ラインで素早く組み立てられる消耗品として設計し直さなければならない。これは技術的な課題であると同時に、調達文化と産業組織全体の改革でもあるという。
「台湾がパソコンや携帯電話で築いてきた製造の論理から出発すれば、ドローンとは要するに『空飛ぶスマートフォン』なのだ」
ドローンの生産・調達数の急増と今後の市場規模予測。(『風傳媒(ストームメディア)』作成)
台湾に足りないのは中・大型OWAだけではない 戦場のカギは後方の生産ライン 小型のクアッドコプター(4枚ローター機)は目に付きやすく、戦場の映像にも最もよく登場する。しかし、台湾の真の欠落部分は、近距離用のFPVドローンをもう1機種増やすことでは必ずしもない。
現在のロシア・ウクライナ戦争では、OWA(One-Way Attack、一方向攻撃型ドローン)も主要な攻撃手段の一つとして存在感を高めている。この種のシステムは弾頭を搭載して目標へ向かい、帰還を設計の前提としない。そのため、降着装置や帰路の燃料、長寿命構造の一部を省くことができ、コストを航続距離、航法、通信、打撃効果に集中させることができる。
小型の一方向攻撃型ドローンは近距離の車両や陣地への攻撃に適している。一方、中・大型の一方向攻撃型ドローンはより長い距離を越えて、港湾、レーダー、指揮拠点、部隊の集結地、海上目標を脅かすことができる。
ただし、OWAで抑止効果を生むには、少数の試作機を作るだけでは足りない。ロシア・ウクライナ戦争の戦場を例に取れば、一晩で数百機、場合によっては1000機近い規模のドローンが投入されることもある。
専門家の間には、台湾に必要なのは戦時にも継続的に補充できる量産能力だとの見方がある。迅速に調達できる機体、エンジンやモーター、航法モジュール、弾頭とのインターフェース、地上管制システムなどだ。言い換えれば、真のカギは特定の1機のドローンではなく、後方で止まることのない生産ラインなのである。
ロシア・ウクライナ戦争ではFPVドローン(写真)が戦場を飛び交っているが、現在はOWA(一方向攻撃型ドローン)も主要な兵器の一つとなっている。(資料写真、ウクライナ国防省公式サイトより)
サプライチェーンを支える3タイプの企業 戦略の中核を担う「隠れたチャンピオン」 台湾で現在ドローンに参入している企業は、おおむね3つのタイプに分けられる。第1は、漢翔航空工業、長栄航太科技、亜洲航空など、もともと航空宇宙を本業とする大企業で、システム統合、耐空性、品質管理、中・大型プラットフォームを担うことができる。
第2は、本業は航空宇宙と直接関係がないものの、投資を通じて参入した企業で、義美食品や緯創資通(ウィストロン)などが資金、経営管理、大量生産の経験を持ち込める。
第3は、ドローン分野で長年事業を続けてきた中小企業で、碳基科技、経緯航太、楽飛、智飛、新楽飛、富蘭登などがこれに当たる。チームの規模は大きくないかもしれないが、特定の機種や材料、制御、任務への応用といった技術を握っている。
3タイプの企業にはそれぞれ長所があり、限界もある。大手航空宇宙メーカーは軍用規格と品質管理を熟知しているが、コストと開発のテンポが消耗型の製品に向いているとは限らない。大手の電子・伝統産業企業は量産を得意とするものの、飛行の安全性や軍事任務の経験を補う必要がある。小規模なドローン企業は対応が素早いが、資金、受注、生産能力の制約を受けることが多い。
政府が数社を選んで「国家チーム」を組むだけなら、各社がそれぞれ完成機を競い合うだけの状態に陥りやすい。真の国家チームとは一つの分業体制であるべきで、規模の異なる企業が共通規格の下でリレーのようにつないでいく仕組みだという。
ドローンが伝統産業の転換をけん引する可能性があるのも、このためだ。主翼や胴体には炭素繊維、ガラス繊維、プラスチック射出成形が必要になる。モーターには巻線、磁性材料、精密加工が欠かせない。プロペラ、接続部品、外装、ワイヤハーネス、放熱部品は、いずれも6ナノメートルの半導体がなければ作れないというものではない。
羅氏は、台湾プラスチック(台塑)の炭素繊維、国立成功大学のモーター技術、さらに富田電機や力山工業などの機電・機械分野の能力を例に挙げ、ドローンの受注を標準化可能なモジュールに分割できれば、嘉義、台中、彰化、高雄、さらには伝統産業など台湾各地の「隠れたチャンピオン」の集積地が、改めて台湾のドローン産業チェーンに加わる可能性があると説明する。
台湾では漢翔航空工業などの大企業に加え、碳基科技や経緯航太などの中小企業も長年ドローン分野に取り組んできた。羅正方氏は、台湾にはすでに中・大型軍用ドローンの設計能力がある一方、真のボトルネックはコストと生産量だと指摘する。(劉偉宏撮影)
台湾の供給網に立ちはだかる「三つの山」 レアアース、電池、赤外線熱画像 台湾は電子機器の製造能力を一通り備えているが、それはあらゆる重要材料を自前で賄えることを意味しない。羅氏は、台湾のドローン供給網が自立を果たすには、越えなければならない「三つの山」があると率直に語る。
第1は、レアアース(希土類)を使った永久磁石材料だ。台湾はモーターを設計し、巻線を施し、製造することはできるが、高性能磁石の川上の供給は中国に大きく偏っている。
第2は電池である。台湾には電池モジュールと電源管理の能力があるものの、電池セルや正極・負極材料、黒鉛の供給はなお中国の影響を強く受けている。
第3は赤外線熱画像だ。夜間や悪天候下の作戦には赤外線センサーが必要で、これには高度な材料や半導体、レンズ、さらに輸出管理の問題が絡む。
羅氏によれば、これら三つの山を越えるのは、一つの完成機メーカーだけでは不可能だ。台湾は米国、日本、オーストラリア、欧州と材料・部品の協力関係を築くと同時に、国内にモーター、電池モジュール、光学、熱画像、フライトコントローラーの代替生産能力を確保しておく必要がある。
政府調達も、部品の調達元、サイバーセキュリティー、整備のしやすさ、第2の供給元(セカンドソース)を仕様に組み込まなければならない。そうでなければ、いわゆる国産ドローンも、台湾では最終組み立てを行っているにすぎない、ということになりかねないという。
羅氏は、嘉義県民雄の「航空宇宙・ドローン産業団地」は研究開発や試験、産業集積の場を提供できるが、団地そのものから自然に産業が育つわけではないと語る。真に重要なのは、共通規格、検証の場、長期的な受注、そして迅速な試験の仕組みだという。
中科院が研究開発を手がけ、海軍が試験評価を行った「鋭鳶2型」や、「紅雀」システムの整備の段階的な国産化といった事例は、台湾が整備、サブシステム、試験評価から経験を積み上げていけることを示している。次の段階は、個別プロジェクトの経験を、再現可能な生産プロセスへと転換することだ。
羅正方氏は、台湾のドローン供給網が完全な自立を実現するには、なお三つの大きな課題を乗り越える必要があると指摘する。写真は「紅雀3型」ドローン。(資料写真、張曜麟撮影)
ドローンのエコシステム構築へ 欠かせない三つの条件 政府調達は短期的に受注を生み出すことはできても、国際競争力を持つ産業を育てられるとは限らない。中科院航空研究所の元所長で、現在は逢甲大学電機工学科教授の齊立平氏は、ドローンが持続可能な経済循環を形成するには、三つの条件が必要だとみる。
実戦または実戦に近い環境での検証を経ていること、国際市場に参入できること、そして国内で大量に使う意思があることだ。いずれか一つでも欠ければ、政府の支援は一過性の政策的な発注にとどまり、長期的な投資を支えるのは難しいという。
ウクライナ、イスラエル、トルコの製品は、戦場で検証を経ると往々にして国際市場の注目を素早く集め、関連データも次世代製品にフィードバックされる。台湾には実戦経験がなく、大規模・長距離・多様な地形での合法的な試験空域も不足している。目視外飛行も、申請手続きや飛行禁止・制限区域、保険、墜落時の責任といった制約を受けている。
齊氏は、空港がない雲林県がいまやかえってドローン開発の強みになっていると述べ、雲林に古坑、斗六、虎尾、濁水渓から台西までを結ぶ「山と海の試験回廊」を整備し、段階的に無人システムと国防技術の試験基地へと発展させるべきだと提案する。
第2の関門は輸出である。台湾の国内市場は限られており、政府の入札案件だけでは研究開発、検証、金型製作のコストを賄うのは難しく、まして拡張した生産ラインを長期的に維持することはできない。
台湾の好機は、米国や民主主義陣営のパートナーが信頼できる供給網を構築する動きから生まれる。だが、「100%非レッド」という要件はコストを押し上げ、製品には実戦の実績や国際認証も欠けている。中小企業が中国、トルコ、イスラエルといったドローン生産国とすぐに競い合うのは難しい。
齊立平氏は、台湾には実戦経験がないことに加え、さまざまな条件でドローンを試験できる合法的な空域も不足していると指摘する。写真はイメージ。(劉偉宏撮影) 第3の関門は、国内で大胆に使うことだ。実戦と輸出の実績づくりがまだ途上である以上、政府と台湾軍は調達、試験、訓練、演習を通じて需要を生み出さなければならない。
国防部は台湾最大のドローンユーザーとなり、訓練や演習で積極的に運用・消耗し、その経験を研究開発に還元すべきだという。齊氏は、台湾軍はいまなおドローンを貴重な特殊装備として扱っており、第一線の部隊での運用は限られ、漢光演習(台湾軍最大規模の年次演習)でも、ドローンとミサイル、火砲、電子戦、指揮システムとの統合作戦は十分に示されていないとみる。
政府は「生産し続け、使い続け、改良し続ける」循環を確立し、訓練や演習で定期的に消費したうえで、新たなフライトコントロール、通信、耐妨害、AI技術を導入していく必要があるという。
産業が長期的に発展できるかどうかは、中核技術が台湾に残るかどうかにもかかっている。協力覚書(MOU)や既製のモジュールは、自律的な能力と同じではない。台湾はフライトコントロール、データリンク、システム統合、整備・アップグレード、ソフトとハードの改修を自ら掌握し、重要部品の代替調達先を確保しなければならない。
これは戦時の強靱性であると同時に、輸出の獲得、アフターサービスの提供、継続的な改良の基盤でもある。
台湾で「護国神山」と呼ばれてきた半導体産業は、世界市場、長年にわたる技術の蓄積、そして規模の経済の上に築かれている。ドローンが次の「護国群山」となるのであれば、愛国的な発注や国家安全保障のスローガンだけに頼るわけにはいかない。
大手航空宇宙メーカー、中小の革新的なチーム、電子産業、伝統的な製造業がそれぞれ長期的に生き残れる居場所を見つけ、台湾が得意とする迅速な製造、柔軟な供給、継続的な改良を、同盟国やパートナーが買いたいと思う製品へと転換しなければならない。
ドローンが台湾にもたらす最大の期待は、半導体の輝きの陰に隠れてきた中南部の「隠れたチャンピオン」たる伝統産業が、国家安全保障と経済転換の主役に再び躍り出る機会を得ることにある。