【舞台裏】台湾・卓栄泰行政院長訪日の裏シナリオ 東京ドームでの「偶然の遭遇」は実現せず

2026-04-20 09:13
2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で東京ドームに駆け付け、台湾代表に声援を送るファン。しかし、卓栄泰・行政院長の来場により政治的な波紋が広がった。(写真/AP通信提供)
2026年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で東京ドームに駆け付け、台湾代表に声援を送るファン。しかし、卓栄泰・行政院長の来場により政治的な波紋が広がった。(写真/AP通信提供)

3月上旬、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の熱気に包まれた東京ドームに、台湾の卓栄泰・行政院長(首相に相当)が突如として球場に姿を現した。3月7日、台湾対チェコ戦に沸くドーム内は、「Team Taiwan」の声援が響き渡っていた。卓氏の訪日は、日台断交後としては最高レベル級の現職閣僚による訪日として受け止められた。

表向きは野球観戦を目的とした訪日とされたが、台湾メディア『新新聞』や『Nikkei Asia』の報道によれば、水面下では当初の説明を上回る政治的な演出が構想されていたという。だが、そのシナリオは各方面の思惑が交錯する中で修正を迫られ、最終的には実現しなかった。

謝長廷氏が描いた「偶然の遭遇」構想

​関係者によると、今回の訪日を主導したのは前駐日代表の謝長廷氏だった。卓氏は謝氏に近い政治グループに属し、謝氏は卓氏に国際舞台での存在感を与えようとしていたとされる。

当初想定されていたのは、いわゆる「グレーゾーン」を突く外交演出だった。当時、選挙で大勝したばかりの高市早苗首相と卓氏を、東京ドームという場で「偶然」出会わせ、自然な交流の場面をつくるという構想である。

20250507-総統府資政の謝長廷氏が7日、「台日半導体科技促進会」設立大会に出席。(撮影:顏麟宇)
前駐日代表・謝長廷氏は「卓氏の東京訪問」の立役者である。(写真/顏麟宇撮影)

当時の計画では、高市氏は同日夜の日韓戦で始球式を務める予定だった。一方、卓氏が観戦した台湾対チェコ戦は同日午前中に行われていた。試合時間帯は異なるものの、同じ球場内に数時間滞在することで、貴賓室やスタンドでの接触を演出する余地があったとみられる。しかし、この構想は実施直前になって見直されることになった。

日本側が警戒した中国の反発とサイバー攻撃リスク

​方針転換の背景について、関係者は昨年10月末から11月初めにかけての経験を挙げる。昨年のAPEC慶州会議の際、台湾代表として出席した林信義・特使が、就任直後の高市首相と会談したとされる。この接触に対して中国側が強く反発し、その後、中国によるものと疑われる大規模なサイバー攻撃が発生、日本の官民のウェブサイトに影響が出たという。

関係筋は「日本の経済界はこれ以上の混乱を望まなかった」と話す。高市氏周辺もこうした状況を重く見て、卓氏との接触演出に慎重姿勢を強めた。最終的に高市氏は、イラン情勢に伴うエネルギー問題への対応を理由に、東京ドームでの始球式参加を見送った。日本側は卓氏の訪日そのものは認めたものの、「できるだけ目立たない形にとどめる」ことを強く求めたとされる。

台湾側の対応に日本側が反発

​しかし、その後の台湾側の対応は、日本側が求めた「目立たない訪日」と必ずしも一致しなかった。『Nikkei Asia』によれば、この一連の動きは日本側当局者に強い不快感を抱かせたという。
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まず問題視されたのは、同行者の扱いだった。日本側は、訪日をあくまで私的な行程に近い形にとどめるため、15人を超える同行予定者の名簿を確認する中で、行政院報道官やカメラマンを外すよう求めていた。だが台湾側はこれに応じず、カメラマンを帯同させた。

20250428-インド太平洋戦略シンクタンクによる2025年国際政経フォーラムが28日、張栄発基金会で開催された。写真は日本の衆議院議員・高市早苗氏。(撮影:劉偉宏)
日本の首相・高市早苗氏はその後、「イランでの戦争が引き起こすエネルギー危機への対応」を理由に、WBC東京ドームでの始球式への出席をキャンセルした。(写真/劉偉宏提供)
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