【ペットと祈る台湾①】台北・迪化街に「ペット専用の廟」 神の足元ではなく隣に猫と犬 寵佑宮の保生大帝は、位階上許されている龍袍ではなく、素朴な医師の装いをしている。左手側には猫が寄り添い、右手を犬の頭に置く。周囲には11の動物と神獣が並ぶ。(張瑜萍撮影)
乾物や漢方薬の店、清朝や日本統治時代の面影を残す街並みを目当てに、台北の迪化街には多くの観光客が訪れる。その多くが立ち寄るのが、19世紀に創建された霞海城隍廟だ。縁結びの神「月下老人」に良縁を願う人でにぎわう。2025年12月、この通りに、もう一つ一風変わったご利益が加わった。通りを先へ進むと、猫と犬の姿に描かれた一対の門神の奥に、金色の神像が座っている。左手側には猫が寄り添い、右手を犬の頭に置いている。
ここは 寵佑宮 (ちょうゆうぐう)。看板や公式SNSでは「台湾初のペット専用の廟」と紹介している。入り口の額には「籌備処(準備事務所)」とある。法的にも現在はまだこの準備段階にあり、台湾で寺廟を正式に登記するには8〜10年かかるという。台湾初かどうか以上に注目されるのは、受け継いだ伝統をどのように再解釈しているかという点だ。その変化は大きい。
祭られているのは保生大帝。宋代の医師で、あまりに深く崇敬されたため、歴代の皇帝が次々と位を引き上げ、ついには龍冠と龍袍(皇帝の礼服)を身に着けることが許されるまでになった。ところが、ここではそのどちらも身に着けず、庶民的な医師の装いをしている。
「動物の面倒を見る場所です。威圧的すぎて動物を怖がらせてしまうものは要りません」。寵佑宮を創設したボズ・ル氏はこう話す。装いの変更については、ポエ(筊杯)と呼ばれる一対の木片を投げて神意を伺い、神自身の同意を得たという。
動物が対等に座る神像 さらに大きな変化は、廟に通い慣れた人ならすぐに気づく。中国の宗教美術で神の傍らにいる動物は神獣であり、神獣は分をわきまえている。足元に控えるか、鞍を着けて乗り物になるかで、神と対等に並んで座ることはない。
ところが、この神は猫と犬を傍らに置いている。足元には魚、蛇、亀、ネズミ、ウサギ、昆虫、鳥。想像上の生き物ではなく、台湾の家庭で実際に飼われているペットたちだ。背後には虎と竜がそびえる。廟の案内板では、この彫刻を使ったちょっとしたクイズも紹介している。「動物と神獣は何匹いるか数えてみよう」。答えは11だ。
11の動物と神獣を数えてみよう。①猫、②犬、③魚、④蛇、⑤亀、⑥ネズミ、⑦ウサギ、⑧昆虫、⑨鳥、⑩虎、⑪竜。(張瑜萍撮影 )
「動物を下に置くような表現にはしたくありませんでした。だから、すべての生き物が平等であるように彫ってもらいました」とル氏は語る。このデザインについてポエを投げて神意を伺ったところ、肯定を意味する「聖筊」が5回連続で出たという。廟の神像一式の制作費は100万台湾ドル(約500万円)を超えた。
虎と竜がいるのには理由がある。言い伝えによると、人を食べた虎が、その女性のかんざしをのどに詰まらせ、医神の行く手に立ちはだかって助けを求めた。医神は、二度と人を殺さず自分に従うことを条件に治療した。きこりに化けた、目を患った竜も同じように治してもらった。廟が伝えたいことは単純だ。ペットのための廟が建てられる何世紀も前から、この神は動物を治療していたのである。
保生大帝とは 出自 :本名は呉夲(ごとう)。宋代、泉州の白礁の生まれ。医師で、死後に神として祭られた。称号: 歴代の皇帝から「大道公」「真人仙師」「花橋公」などの称号を重ねて贈られ、最終的に「保生大帝」の称号を授けられた。「保生大帝」は名前ではなく位を示す。台湾の主要な廟 :台湾を代表する保生大帝廟は台南の学甲慈済宮。寵佑宮で祭られている保生大帝は、同宮から分霊を受けたものだ。装い :龍袍をまとうことが許されているが、ここでは医師の服を着ている。
猫と犬に描き直された門神 同じ発想は、入り口を守る門神にも及んだ。伝統的な門神は、にらみつけるような形相をした甲冑(かっちゅう)姿の武将だ。緊張した犬が到着して最初に目にするには、まさにふさわしくない存在である。神意を伺い、廟の道士の了承も得たうえで、イラストレーターが、廟の名を記した杖を握る甲冑姿の猫と犬として描いた。その後、道士による開眼の儀式を経て、正式な門神として門を守っている。 よく見ると、イラストレーターは大勢の動物を描き込んでいる。犬の門神のそばには柴犬とコーギー、猫の門神の周りには三毛猫とキジトラ。猫の門神はペットフードの缶に前足を置き、缶の横には台湾に生息する絶滅危惧種の野生ネコ、石虎(タイワンヤマネコ)が座っている。中でも廟にとって特別な存在が一匹いる。犬の門神の肩に乗る小さな黒いプードルは、ル氏の愛犬「ヘイバオ」だ。
寵佑宮の門神は、甲冑姿の猫と犬として描かれ、それぞれ廟の名を記した杖を握る。道士による儀式を経て、正式な門神として門を守っている。(張瑜萍撮影 )
犬の目線に座る虎爺 伝説に登場する虎は、ここでは「虎爺(フーイエ)」として専用の祠に祭られている。虎爺は、保生大帝を祭る廟に欠かせない存在だ。虎爺は祭壇の上には座らない。祭壇の下の床に、金色の光に照らされ、供え物が並ぶくぼみに鎮座している。訪れた犬の目線とちょうど同じ高さだ。
台湾では近年、台湾語の語呂合わせから、虎爺に金運を祈る人が増えている。寵佑宮では、そのご利益をペットに向けてもらうよう虎爺に願った。ここでは、福を授かるのはペットたちだ。
虎爺は祭壇の上ではなく、その下の床に設けられた祠に祭られている。高さは、訪れた犬の目線とほぼ同じだ。(張瑜萍撮影 )
本記事は、人々がペットを連れて訪れる台湾の廟を通して、台湾の民間信仰を紹介する『風傳媒(ストームメディア)』の連載「ペットと祈る台湾(Taiwan at Prayer)」の一環として、寵佑宮 を取材した全4回のリポートのうちの1本です。
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