半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の日本での生産計画が大きく前進した。経済産業省は16日、TSMCと日本子会社Japan Advanced Semiconductor Manufacturing(JASM)が提出した熊本第2工場の生産計画変更を正式に認定した。
当初予定していた6ナノおよび12ナノなどのプロセスから、先端3ナノプロセスへと変更する。2028年12月の生産開始を予定しており、第1段階の月産能力は300ミリ(12インチ)ウエハー換算で6000枚となる。日本国内では初の3ナノ半導体の量産拠点となる見通しだ。
一方、熊本第1工場の生産計画も同時に見直され、今後は22~28ナノプロセスを主力としながら、40ナノプロセスの生産も継続する。
TSMC熊本第2工場、3ナノプロセスに切り替え AI需要が後押し
朝日新聞、日本経済新聞、時事通信社などの報道によると、熊本県菊陽町で建設が進められているTSMCの熊本第2工場は、すでに稼働している第1工場に隣接する。
第2工場は当初、6ナノおよび12ナノプロセスの半導体を主力とし、40ナノプロセス製品の生産も計画していた。当初計画では、主力製品の月産能力を4万8000枚、工場全体では6万3000枚(いずれも300ミリウエハー換算)としていた。
しかし、世界的な人工知能(AI)需要の拡大を受け、TSMCは生産戦略を見直し、より高性能な3ナノの先端ロジック半導体へと生産の軸足を移すことを決めた。
TSMCの魏哲家(C.C.ウェイ)会長兼最高経営責任者(CEO)は今年2月、首相官邸で高市早苗首相と面会し、AI市場における高性能半導体への強い需要に対応するため、熊本第2工場で3ナノプロセスを導入する計画を説明していた。経産省が16日に変更計画を正式に認定したことで、日本国内初となる3ナノ半導体の量産計画が具体的に動き出す。
経産省が認定した第1段階の計画によると、熊本第2工場における3ナノ半導体の月産能力は6000枚とされ、当初計画されていた主力製品の月産4万8000枚を下回る。
経産省は、これは生産対象がより高性能な先端プロセス製品へ移行するためであり、単純な投資規模の縮小を意味するものではないとしている。
熊本第2工場は2028年12月に稼働へ 投資額は157億ドル超の見通し
熊本第2工場が3ナノプロセスへ転換することに伴い、関連投資や日本政府による補助金の規模にも注目が集まっている。
日本政府は当初、熊本第2工場に対して最大7320億円を支援する計画だったが、今回の計画変更に伴い、現時点での助成上限額は6451億5000万円に見直された。
ただし、先端プロセスに必要な投資額の増加を踏まえ、日本政府はTSMCの今後の投資計画や生産能力の拡充状況を見ながら、追加支援の可否を検討する方針だ。
経産省は、今回認定した生産計画は熊本第2工場の第1段階に当たり、TSMCは日本政府による追加支援の状況も踏まえ、さらなる生産能力の拡充を検討するとしている。
熊本第2工場は現在、2028年12月の生産開始を予定しており、経産省は関連する支援に必要な予算を2027年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。
熊本第1工場も生産ラインを再編 12~16ナノの生産を停止
熊本第2工場の3ナノへの計画変更に加え、経産省は熊本第1工場の生産計画変更も同時に認定した。
熊本第1工場は当初、22~28ナノおよび12~16ナノプロセスのロジック半導体を主要製品とし、工場全体で月産5万5000枚を生産する計画だった。
変更後は12~16ナノプロセスの生産を停止し、22~28ナノを主要製品とする。22~28ナノの月産能力は4万5000枚とし、国内需要を踏まえて40ナノプロセスも引き続き生産する。工場全体の月産能力は5万枚となる。
両工場の生産計画が同時に調整されたことで、今後は熊本第1工場が22~28ナノを主力としつつ40ナノにも対応し、第2工場が3ナノの先端ロジック半導体を担うという、製造プロセスのすみ分けが進むことになる。
TSMC進出で変わる熊本経済 人口増や地価高騰が新たな地域課題に
TSMCによる熊本への継続的な投資拡大は、地域経済にも大きな変化をもたらしている。
読売新聞によると、TSMCの進出後、熊本県内の一部地域では人口が増加し、地方財政が改善する一方、交通渋滞や地価上昇、人手不足などの課題も浮上している。
日本政府が9月に公表した最新の人口調査データによると、2020年以降、熊本県内では7市町村で人口が増加した。このうち合志市は2542人増、大津町は1728人増、菊陽町は1195人増となった。
地方財政では、2024年度の財政力指数が菊陽町で0.95となり熊本県内で首位、大津町が0.73で2位、合志市が0.63で4位となった。
菊陽町は2025年度、TSMCの進出に伴う税収増などを背景に、国から普通交付税を受けずに財政運営できる「不交付団体」となった。熊本県内では2008年度の大津町以来17年ぶりとなる。
一方、半導体産業の急速な集積は地域インフラにも負荷をもたらしている。
国土交通省九州地方整備局などの資料によると、2025年には菊陽町、合志市、大津町の3自治体で主要な交通渋滞箇所が計38カ所に上り、2021年と比べ約40%増加した。
菊陽町でも人口増加や企業立地を背景に、朝夕の通勤時間帯を中心として交通渋滞が発生しており、町は継続的な実態調査や道路整備を進めている。
地価も大きく上昇した。2026年までの5年間で、菊陽町、合志市、大津町の住宅地の平均価格は約30~50%上昇し、商業地の平均価格は5年前の約1.3~2.2倍となった。
地元企業の88%が影響を「判断できず」 県知事は新たな地域発展に期待
熊本県商工会連合会が今年3月、489社を対象に実施した調査によると、88%がTSMCの熊本進出による全体的な影響について、現時点ではプラスともマイナスとも判断できないと回答した。
一方、9%はプラスの影響があると回答し、台湾からの関係者や建設作業員の増加による宿泊、飲食需要の拡大などを理由に挙げた。3%はマイナスの影響があるとし、人件費の上昇や人手不足などを挙げた。
大津町商工会も、家賃やテナント料の上昇などによって事業継続が難しくなる地元企業があるほか、半導体関連産業の高い賃金水準にひかれて転職する労働者もおり、中小企業が人材確保に苦慮していると指摘している。
地域経済の発展には依然として課題も伴うものの、熊本県の木村敬知事は今回の熊本第2工場の計画変更を前向きに評価している。
テレビ熊本(TKU)によると、木村氏は同計画について、新たな「創造的復興」をけん引するものであり、心強いとの期待を示した。