ウクライナ戦争や米イラン戦争では、無人機(ドローン)が偵察、監視、攻撃の各任務で存在感を示し、小が大に対抗する非対称戦の手段としてその有効性を十分に示した。中国は小型商用ドローン分野で世界的な優位を持ち、有事には軍事転用も比較的容易とみられる。このため、台湾の防衛整備における無人機需要は急速に高まっている。
台湾政府は、総額1兆2500億台湾元の軍事調達特別予算のうち、無人機およびその対抗システムに3350億台湾元を計上した。さらに、関連する海外企業との協力も積極的に進めている。2025年には、米国の著名な軍用無人機メーカーであるAnduril(アンドゥリル)やShield AI(シールドAI)などが相次いで台湾に現地法人を設立し、漢翔航空工業(AIDC)や国家中山科学研究院(中科院)とそれぞれ協力関係を築いている。
こうした中、Shield AIの共同創業者である曾国光(ブランドン・ツェン)氏がこのほど台湾メディア『風傳媒』の独占インタビューに応じた。曾氏は、中国が持つ膨大な通常戦力に対抗するうえで、無人機こそ台湾防衛の非対称戦力を強化する手段であり、さらに無人機とAIの組み合わせは、台湾が投資できる軍事装備・技術の中で最も費用対効果が高いとの認識を示した。
Shield AIは台湾での人員体制を拡大する方針で、今後数年にわたり台湾サプライチェーンからの調達額も増やしていく計画だ。その総額は100億台湾ドル(約490億円)を超える見通しだという。
行政院が提出した1兆2500億台湾元の軍事調達特別予算では、無人機と対ドローンシステムに3350億台湾元が計上された。(行政院公式サイト)
1兆2500億台湾元の軍購特別予算、無人機に3350億台湾元を計上 卓栄泰・行政院長は4月30日、行政院会議で国防部(国防省相当) による「防衛強靭性および非対称戦力計画調達特別条例の実施計画」に関する報告を受けた後、今回の特別予算は「三つのピース」と「七つのカテゴリー」で構成されていると説明した。
第一のピースは、台湾全体の防空能力の構築であり、その中には無人機対抗システムも含まれる。第二のピースは、高度技術と人工知能(AI)の導入で、軍の情報分析と意思決定を迅速化する「AIによる意思決定支援システム」の整備を目指すものだ。
第三のピースは、防衛産業の自主発展能力の強化である。米台協力と国防用無人機需要をてこに、最短期間で台湾企業の自主生産能力を拡大し、中国製に依存しないサプライチェーンを構築すると同時に、防衛産業の発展を通じて内需や経済活性化にもつなげたい考えだ。
また、今年2月には中科院がShield AIとの契約締結を発表した。Shield AIが開発した先端AIプラットフォーム「Hivemind」を、中科院が開発する無人システムに統合し、台湾の無人機を「自動操縦」から「自律判断」へ進化させる構想だ。
中科院によれば、この協力にはいくつかの重要な意味がある。第一に、Hivemindのソフトウェア開発キット(SDK)を統合することで、将来的には1人のオペレーターが地上局から複数の無人機を同時に統制できるようになり、多システム協同任務が可能になる。これにより人的負担を大きく減らせるという。
第二に、戦場ではGPSや通信が妨害されやすいが、導入後の無人機は「感知・判断・行動」の独立能力を持つようになる。人の介入なしでもリアルタイムで飛行経路を再設定し、障害物を回避しながら正確に任務を達成できるようになるとしている。
米軍用AIスタートアップのシールドAIが台北国際航空宇宙・防衛産業展覧会に出展した際のブース。(劉煥彦撮影)
Shield AI、漢翔とは支援体制を構築 中科院にはAIプラットフォームを提供 曾氏はインタビューで、「抑止力の構築こそが防衛力強化につながると考えるなら、この分野への投資先として台湾ほど重要な場所は世界にない」と語った。Shield AIと漢翔、中科院との協力案件は、大きな方向性は共通しているものの、具体的な内容には違いがあるという。
漢翔との協力は、台湾でShield AIの主力製品であるV-BAT無人機の支援体制を構築することが柱だ。長期的には、別製品であるX-BATでの協力も潜在的に視野に入るという。
V-BATは垂直離着陸が可能な無人偵察機であり、X-BATはAIによる完全自律運用をうたう無人ジェット戦闘機と位置づけられている。
一方、中科院との協力では、Shield AIのAIプラットフォームであるHivemindを提供する。これにより、台湾の無人機メーカーや国防部門が共通の開発ツールと基盤を用い、台湾独自の軍用無人機向け「AIの頭脳」を開発できるようにする狙いがある。
無人機とAIの組み合わせは「台湾が投資できる最も費用対効果の高い国防装備」 曾氏は、無人機とAIの組み合わせについて、「台湾が投資できる国防装備の中で、最も費用対効果が高い」と強調した。
その理由として、「無人機は規模を容易に拡大できる。100万機でも1000万機でも理論上は可能だが、その数だけ操縦者を必要とするわけではない」と説明した。
従来であれば、100万機の無人機を運用するには100万人の操縦者が必要となり、現実的には成り立たなかった。しかし、AIの導入により、1人で複数の無人機を同時に運用できるようになる。
曾氏は、AI技術によって軍用無人機の配備規模は軍の兵員数や操縦者の数に縛られなくなり、今後は無人機の生産量そのものが制約要因になると指摘したうえで、「今後20年以上にわたり、AIは軍に最も大きな変化をもたらす技術になる」と語った。
風傳媒の単独インタビューに応じる米軍用AIスタートアップ、シールドAIの曾国光(ブランドン・ツェン)共同創業者。(柯承恵撮影)
ウクライナ軍はV-BATで200キロ先のロシア軍部隊を発見 米イラン戦争の経験を踏まえると、現時点で米軍が必要としているのは、より強力なISR(情報・監視・偵察)能力だという。たとえば、洞窟などの遮蔽地点からシャヘド型自爆ドローンを不規則に発射するイラン側部隊を、より早い段階で発見することが求められている。
曾氏は、「米軍が今欠いているのは弾薬ではなく、目標を打撃するための情報だ」と述べた。
また、V-BATを使用するウクライナ軍のある部隊が、前線から200キロ以上離れたロシア軍目標を発見した実績にも言及した。この能力は、台湾海峡防衛に用いるには十分すぎるほどだとの見方を示した。
台湾サプライチェーンからの調達を継続的に拡大へ 台湾のサプライチェーンとの協力についても、曾氏は具体的な数字を挙げた。無人偵察機V-BATを例にすると、2年前には台湾製部品の比率は全体の1%にすぎなかったが、現在では16%まで上昇しているという。今後18〜24カ月のうちに、これをさらに25%まで引き上げたい考えだ。
曾氏は、「今後数年間で、台湾のサプライヤーに対する支出は数億ドル規模に達する」と述べたうえで、同社のサプライチェーン責任者の言葉を紹介した。
「台湾には最高のサプライヤーがいる。他国で見つけたサプライヤーよりもはるかに優れている。プリント基板、ワイヤーハーネス、精密機械加工部品など、どれを取っても非常に高い水準だ」
では、Shield AIの目から見て、台湾サプライヤーの強みはどこにあるのか。
長年にわたり世界の電子産業と機械産業で鍛えられてきた台湾のサプライチェーンと、従来の軍需産業の枠組みを打ち破ろうとする米国のAI軍事スタートアップ。その連携は、台湾サプライチェーンが半導体やAIにとどまらず、国際的な防衛産業へ踏み込む契機となるだけでなく、台湾海峡防衛にも新たな選択肢をもたらす可能性がある。