「台湾の重要性はさらに明白に」、蔡英文・台湾前総統が国家戦略を提言 7月2日、フォーラムに出席した台湾の蔡英文前総統。(劉煥彦撮影)
蔡英文・ 台湾前総統が7月2日、先ごろ行ったイタリア訪問からの帰国後、 初めて公の場に姿を見せ、経済誌『財訊』が主催するフォーラム「2026影響力論壇」にサプライズ登壇した。蔡氏が主催者側に出席の非公開を求めていたため、出席者やメディアは当日の現場で初めて同氏の出席を知ることとなった。
蔡氏は冒頭のあいさつで、台湾は現在、世界で二つの重要な地位を占めていると指摘し、一つはインド太平洋における地政学上の中心的な地位、もう一つは世界的なAI発展に伴う半導体サプライチェーンにおける重要拠点としての地位だと説明した。 「このような二重の重要な地位は突然生まれたものではなく、単一の企業や政策の成果でもない。数十年にわたり、台湾の産業界、エンジニア、労働者、起業家、金融界、そして政府が着実に積み上げてきたものだ」と強調した。
また、蔡氏は今後国内でこうしたフォーラムがさらに多く開催されることへの期待を示し、「台湾は世界から議論されるだけの存在であってはならず、独自の視点を発信していかなければならない。国際情勢をただ受動的に受け入れるのではなく、未来の秩序形成に参画する必要がある。台湾の経済戦略の思考を国際社会へと広げ、東京、シンガポール、ワシントン、欧州など、より多くの主要市場に台湾の声と判断を届けるべきだ」と語った。
蔡氏がフォーラムにサプライズ登壇 2026影響力論壇には当初、卓栄泰行政院長(首相に相当) がゲストとして招かれる予定だった。しかし来場者は入場前に手荷物検査(セキュリティチェック)を義務付けられたことで初めて、本日の特別ゲストが蔡氏であることを知った。財訊の謝金河社長 はあいさつの中で、蔡氏自ら出席を事前に公表しないよう強く求めていたことを明かした。
蔡氏は先週末、イタリアで開催された「 グローバル女性リーダーズ・サミット(Global Women Leaders Summit) 」 に招待され、世界各地の現職・元職の女性指導者、次世代の政治家や市民リーダーらと意見交換を行った。また同氏はイタリア元老院(上院) も訪問し、ジャン・マルコ・チェンティナイオ (Gian Marco Centinaio)上院副議長 の歓待を受けた。
蔡英文前総統は6月末にイタリアを訪問、同国上院に招かれ、チェンティナイオ上院副議長の出迎えを受けた。(蔡英文氏のフェイスブックより)
総統就任時、台湾経済は過去を踏襲すべきでないと確信 蔡氏は同フォーラムでのあいさつの中で、2016年の総統就任当時、台湾経済は単一市場(中国)への過度な依存、産業構造転換への圧力、投資への推進力不足という課題を抱えており、若年層が将来に強い不安を抱いているという現状を意識していたと述べた。当時、政権内では、台湾は過去の軌跡をそのまま踏襲すべきではないと明確に理解しており、自らの立ち位置を再定義し、産業の基盤をより深く、強固に、そして他国に代替されにくいポジションへと押し上げる必要があると判断したと語った。
そして蔡氏は 「総統在任中、『5プラス2産業革新 計画』、『前瞻(将来を見据えた)インフラ建設計画』、『台湾投資促進三大プラン』、『新南向政策』を推進してきた。また、『半導体学院による産業人材育成』、さらにはその後の世界的なサプライチェーン再編に対応するための各種戦略的な布石も打った」と振り返った。
さらに「これらの政策は一夜にして奇跡を起こすためのものではなく、台湾の既存の優位性を正しい方向へと持続的に進化させるためのものだった。そのため、米中貿易摩擦が勃発した際や、感染症のパンデミックが世界のサプライチェーンを直撃した際、さらには各国が安全保障とレジリエンス(強靭性)を再考し始めた際、台湾は新たな需要を取り込み、世界的な大激動の中で確固たる足場を築くことができた」と強調した。
7月2日、「2026影響力論壇」であいさつする台湾の蔡英文前総統。(蔡英文氏のフェイスブックより)
「信頼に足る民主主義のパートナー 」が台湾の強み 蔡氏は、現在の台湾が半導体、人工知能(AI)サーバー、情報通信技術(ICT)製品、およびコア部品のサプライチェーンにおいて、すでに世界で信頼度の高いパートナーとなっていると指摘。その背景には、生産能力だけでなく、技術力、効率性、合理性、制度的基盤、そして長期にわたって構築されてきた産業エコシステムがあると強調した。
また、世界が台湾を必要としているのは、台湾が最先端の半導体チップを生産しているという理由にとどまらず、台湾が信頼に足る民主主義のパートナーであるからだとの認識を示した。グローバル・サプライチェーンにおいて安全保障と信頼関係がより一層重視されるようになり、AI技術が発展する中、安定していて信頼性が高く、かつ高度な技術力を備えたパートナーが不可欠となるにつれ、台湾の重要性はさらに明白になっていくと述べた。
過去数年間の経験を通じて、蔡氏は世界的な環境変化の中で、政府が単に市場の変化へ受動的に対応するだけでは不十分であり、明確な方向性を持ち、忍耐強く構造転換を推進しなければならないと痛感したという。政策は短期的な数値にとらわれることなく、10年後、20年後に台湾がどのような立ち位置にあるべきかを見据えたものでなければならないと指摘する。
その上で「世界の経済情勢が不確実性を増すほど、台湾は冷静さを保たねばならない。外部からの脅威が強まるほど、台湾は団結を求められる。台湾の経済的成功は決して奇跡ではなく、多くの人々の長期にわたる努力の賜物であり、社会全体が重要な局面で正しい方向を選択し、共同で責任を担うことを決断した結果だ」と語った。
さらに、「2026年後半、さらにより遠い未来を見据えても、私は台湾に対して絶対の自信を持っている。なぜなら、台湾には技術があり、民主主義があり、レジリエンスがあり、そして常に困難を打破し続ける国民がいるからだ。今後の世界はより一層台湾を必要とするだろう。我々がなすべきことは、台湾を引き続き正しい方向へと導き、台湾のかけがえのなさを現時点だけの優位性にとどめず、次世代にとっての力となるようにしなければならない」と結んだ。
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