【張瀞文コラム】台湾は米国の半導体産業を「盗んだ」のか トランプ流保護主義が招く代償
「台湾が米国の半導体産業を盗んだ」と繰り返すトランプ米大統領。(資料写真/AP通信)
近年、地政学的リスクが目まぐるしく変化する中、トランプ米大統領や保護主義を掲げる米国の政治家は、「台湾が米国の半導体製造業とチップビジネスを盗んだ」との主張を繰り返している。これは、自由市場における選択を、政治的修辞を用いて道徳的または法的な略奪へと歪曲するに等しい。
歴史的観点から見て、このようなビジネスの動きを実際に「窃盗」と位置づけることは可能なのだろうか。仮にこれを窃盗というならば、人類の工業史は相互に盗み合う歴史に過ぎないことになろう。かつて米国は英国の紡績工業を「盗み」、日本は米国の自動車産業を「盗み」、そして近年では中国が米国の電気自動車(EV)産業を「盗んだ」ことになる。
実際のところ、これは窃盗ではなく、「サプライチェーン(供給網)」と「バリューチェーン(価値連鎖)」が市場原理の下で自然に推移した転換のプロセスに過ぎない。
「水」の如きサプライチェーンと、「気流」の如きバリューチェーン
グローバル産業を巡る覇権争いの実態を把握するには、まず、しばしば混同される2つの核心的な概念を明確にする必要がある。
サプライチェーンは「水」に似ており、低い方へと流れる性質を持つ。サプライチェーンの本質は、コストの最小化と効率の最大化の追求にある。資金や工場は水が低い方へ流れるように、自然と人件費や土地コストが低く、かつ「クラスター効果(集積効果)」を備えた地域へと流入していくものだ。
台湾が半導体受託製造(ファウンドリー)の重要拠点となったのは、まさに半径数百キロメートル圏内に、類まれな優れたエンジニア人材や、パッケージング・テスト(封止・検査)、および特殊化学材料の巨大なエコシステムが集積していたためだ。これは十全な産業クラスターがもたらす経済効果だと言える。
一方、サプライチェーンとは異なり、バリューチェーンは「気流」のように高い方へと旋回しながら上昇する。バリューチェーンの概念は「付加価値」である。畜産業に例えれば、ローエンドがモツスープ、ミドルエンドが牛肉麺であり、ハイエンドがフランス料理店の最高級和牛ステーキとなる。
米国は半導体の主導権を失ったわけではなく、最も付加価値の高い果実(気流の頂点)を手中に収めている。一方の台湾は、最高峰の技術を要する製造プロセス(水流の低い部分)を担っている。これは市場における完璧な相互利益の形だと言える。
人為的な市場介入が招く悪影響
しかしながら、昨今の保護主義的な動きは、政治の力を利用して経済の基本原理に反する「逆行操作」を試みている。
政治家らは半導体製造が台湾に高度に集中している現状を重く見て、国家主権や戦略物資確保の観点から、すでに低い方へと流れた水を無理に「上へと押し流そう」としている。このような逆行操作は、経済学的に見て極めて高い代償を伴う。水を逆流させるには、膨大なエネルギーを費やして「水を沸騰させる」必要があるからだ。
米国がこれら巨大IT企業に国内での工場建設を強要したり、高額な関税措置を打ち出したりした場合、それに伴い「サプライチェーンの乗数効果(増幅効果)」を避けて通ることはできなくなる。
製品が輸入されてから消費者の手に渡るまでのコストの転嫁は、決して「1対1」の足し算ではなく、掛け算で連鎖していく。
米国の人為的介入によって半導体や重要部品の原価が1ドル上昇した場合、サプライチェーンの各段階で利益率が掛け合わされ、エンドユーザー(最終消費者)に届く頃には3ドルの負担増となる。仮に米国国内で製造されたチップが台湾製よりも50%以上割高となれば、この巨大なコスト乗数が、世界のテクノロジー市場における米国製品の競争力を直接的に破壊する恐れがある。
保護主義がもたらす金融政策への代償
経済は相対的なものであり、市場はさらに現実的である。製品は最終的に「購買力」を持つ市場へと流れていく。
米国が関税の壁を築いて国内市場を保護しようとした場合、この3倍の乗数効果による高額な代償は、構造的なインフレーションへと転化されることになる。保護主義によって火がついたインフレの連鎖を抑え込むため、米連邦準備制度理事会(FRB)は高金利政策の維持を余儀なくされる。そして長期的な「高金利」は、米国本土の製造業やテクノロジー企業の資金調達コストをさらに押し上げ、ただでさえ困難な「製造業の国内回帰(リショアリング)」をより一層行き詰まらせることになる。
政治家が地政学的リスクという鞭を振るえば、一時的に水の流れを変えることは可能かもしれない。しかし、政治の力で自由市場の「見えざる手」に長期的に抗うことはできない。政治的な手段を用いてサプライチェーンや市場を強引にねじ曲げようとした場合、水を無理やり逆流させるこの「煮沸プロジェクト」によって蒸発してしまうのは、他でもない米国企業自身のグローバルな競争力と消費者の財布の中身だ。
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