台湾の立法院(国会に相当)は7月28日、民法第1223条の改正案を三読で可決し、兄弟姉妹の遺留分に当たる「特留分(台湾の法律用語)」を削除した。改正法は総統による公布から6カ月後に施行される。
新制度の施行後は、遺言によって財産を兄弟姉妹に残すかどうかを本人が決められるようになり、兄弟姉妹のために一定割合の遺産を必ず確保しておく必要はなくなる。
ただし、今回削除されたのは、遺言があっても最低限の取り分を保障する「特留分」だけだ。兄弟姉妹の法定相続権そのものは残る。
被相続人が有効な遺言を残しておらず、子や父母など先順位の相続人もいない場合、兄弟姉妹はこれまで通り法定相続人となる。
一方、被相続人が遺言を残し、財産を配偶者や生活を共にするパートナー、友人、公益団体などに譲る意思を示していた場合、兄弟姉妹は特留分を侵害されたとして、法律上保障されていた最低限の取り分を求めることができなくなる。
台湾法務部(法務省)も、兄弟姉妹の「応継分」に当たる法定相続分は削除されておらず、今回の改正は遺言の自由に対する制限を緩和するものだと強調している。
遺留分とは? 遺言に「一切渡さない」と書いても通らない場合
法定相続分とは、被相続人が遺言を残さなかった場合に、法律がそれぞれの相続人に定めている遺産の分配割合を指す。
これに対し、遺留分とは、被相続人が遺言を残していても、法律によって一部の相続人に保障される最低限の取り分だ。
未婚で子がおらず、父母もすでに亡くなっている人が、1200万台湾ドルの遺産を残した場合を考えてみる。
改正前の制度では、遺言に「全財産を公益団体に遺贈する」と記されていても、兄弟姉妹は共同で、法定相続分の3分の1に当たる特留分を主張できた。この場合、特留分は400万台湾ドルとなる。
改正法の施行後は、遺言が有効であれば、1200万台湾ドルの全額を公益団体に遺贈できる。兄弟姉妹は特留分を主張し、遺贈された財産から取り分を求めることができなくなる。
被相続人に配偶者がいる一方、子がおらず、父母もすでに亡くなっている場合、台湾の現行法では、配偶者が2分の1、兄弟姉妹が共同で2分の1を相続する。
遺産が1200万台湾ドルであれば、兄弟姉妹の法定相続分は合計600万台湾ドルとなる。改正前の特留分は、その3分の1に当たる200万台湾ドルだった。
新制度の施行後は、被相続人が有効な遺言によって全財産を配偶者に残した場合、兄弟姉妹は200万台湾ドルに相当する取り分を求めることができない。
ただし、遺言がなければ法定相続分は変わらない。配偶者が600万台湾ドルを取得し、兄弟姉妹が残る600万台湾ドルを共同で相続する。
日本は1947年の戦後民法から兄弟姉妹を遺留分の対象外に
戦後民法は、遺留分を認める相続人を当初から「兄弟姉妹以外の相続人」と定めており、兄弟姉妹は現行制度の下で遺留分を認められてこなかった。
日本は1980年にも相続制度を改正し、翌1981年に施行した。この改正では配偶者の法定相続分が引き上げられ、兄弟姉妹の代襲相続の範囲も制限された。
ただし、日本でも兄弟姉妹の法定相続権は残っている。被相続人に子や父母がおらず、遺言もない場合、兄弟姉妹は法定相続人となる。
台湾と日本の主な違いの一つは、配偶者と兄弟姉妹が共同で相続する場合の割合だ。
台湾では、配偶者が2分の1、兄弟姉妹が共同で2分の1を取得する。日本では配偶者の取り分がより大きく、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が共同で4分の1を取得する。
日本で、既婚で子がおらず、父母もすでに亡くなっている人が、1200万台湾元相当の遺産を残し、遺言がなかった場合、配偶者が900万台湾元相当、兄弟姉妹が共同で300万台湾元相当を相続する。
一方、被相続人が有効な遺言を残し、全財産を配偶者に取得させると定めていた場合、兄弟姉妹には遺留分がないため、法定相続であれば取得できた300万台湾元相当の取り分を求めることはできない。
日本の法務局が作成した遺言に関する案内でも、兄弟姉妹には遺留分がないことが明記されている。このため、有効な遺言をあらかじめ残しておけば、原則として兄弟姉妹から遺留分侵害額請求を受けることはない。
日本が配偶者の相続分を引き上げた背景 核家族化が進展
日本の1980年の法改正では、配偶者の法定相続分の引き上げや兄弟姉妹の代襲相続の制限に加え、「寄与分」制度が設けられた。
寄与分は、被相続人の財産の形成や維持、療養看護などに特別な貢献をした相続人が、より多くの財産を取得できるようにする制度だ。
当時の国会審議では、家族のあり方が伝統的な家族形態から、夫婦と子を中心とする核家族へと変化していることが、制度見直しの背景として重視された。
都市部では、成人した兄弟姉妹が被相続人と生活を共にしたり、財産の形成や維持に協力したりするケースが減少していた。
特に、主な遺産が夫婦で協力して購入した住宅だった場合、被相続人の兄弟姉妹が法定相続分を求めることで、引き続きその住宅に暮らす配偶者との間に対立が生じる可能性が指摘された。
遺留分制度は、被相続人と生活面、経済面で密接な関係にある配偶者、子、直系尊属に最低限の遺産を保障することを主な目的としている。
被相続人が遺言によって全財産を第三者に譲った結果、それまで被相続人に生活を依存していた近親者が、最低限の保障まで失うことを防ぐためだ。
日本の法務省も現在、遺留分を「兄弟姉妹以外の相続人」に最低限の遺産を保障する制度と説明している。
このため、配偶者や子と同様に、遺言に優先する最低限の取り分を保障する必要性は低いと考えられた。
兄弟姉妹の法定相続権はなぜ残されたのか
日本は1980年の法改正でも、兄弟姉妹の法定相続権そのものは廃止しなかった。
当時の国会審議では、一部の地域には先祖代々の財産や家族の共有財産が残っているほか、兄弟姉妹が互いに扶養し合っている場合もあることが考慮された。
兄弟姉妹を法定相続人から完全に外せば、多様な家族の実情に対応できない可能性があるためだ。
そこで日本は、兄弟姉妹の法定相続権を残す一方、配偶者と兄弟姉妹が共同で相続する場合の兄弟姉妹の割合を、3分の1から4分の1へ引き下げた。
兄弟姉妹の代襲相続についても、被相続人のおい、めいまでに限定し、それより後の世代による再代襲は認めないこととした。
台湾の改正理由も日本と共通 遺言の自由を拡大
台湾が今回、兄弟姉妹の特留分を削除した理由は、日本が過去に相続制度を見直した際の考え方と共通する部分が多い。
台湾法務部は、現代では家族の生活形態が変化し、成人した兄弟姉妹の生活上、経済上の関係も、以前ほど密接ではなくなったと説明している。
兄弟姉妹の特留分によって、本人が遺言で財産の行き先を決める自由を制限し続けることは、単身者や結婚しない人、子のいない夫婦、多様な家族のニーズに対応しにくいとして、遺言の自由を広げる必要があると判断した。
今回の改正は、特に単身者や子のいない夫婦に大きな影響を与える。
これまでは、長年寄り添い、介護を担った相手が生活を共にするパートナーや友人、血縁関係のない家族だったとしても、兄弟姉妹が特留分を主張すれば、本人の意思通りに全財産を譲れない場合があった。
改正法の施行後、台湾の制度は日本に近づく。兄弟姉妹は引き続き法定相続人となるが、遺言に対抗して最低限の取り分を求めることはできなくなる。
遺言がなければ、兄弟姉妹は法律に従って相続できる。一方、有効な遺言がある場合は、被相続人が生前に示した財産処分の意思が優先される。
ただし、台湾法務部が当初予定していた「遺産酌給制度」の拡充や、「相続人特別貢献制度」の新設といった関連措置は、現在も行政院で審査中であり、兄弟姉妹の特留分削除と同時には成立していない。