高市早苗首相は7月30日、飲食料品に対する消費税率の引き下げを巡り、党内意見を集約するよう自民党に正式に指示した。
2027年4月から2年間の時限措置として、現行の8%から1%への引き下げを目指す。中低所得世帯に対しては、残る1%分の税負担に相当する給付を行い、対象世帯の飲食料品にかかる消費税負担を実質的にゼロとする方針だ。
ただし、この政策は政府・与党内で具体化が進んでいる段階で、関連法案はまだ成立していない。2027年4月に予定通り実施できるかは、自民党内の調整や今後の国会審議に左右される。
消費税、導入以来初の引き下げへ
日本では1989年に消費税が導入されて以降、税率は3%から5%、8%へと段階的に引き上げられてきた。
2019年には標準税率が10%に引き上げられる一方、酒類・外食を除く飲食料品や、一定の要件を満たす定期購読の新聞を対象に、8%の軽減税率が導入された。
今回の案が法制化されれば、消費税の導入から約40年で初めて、税率が引き下げられることになる。
現行制度では、大半の商品やサービスに10%の標準税率が適用される。一方、酒類・外食を除く飲食料品と、一定の条件を満たす定期購読の新聞には、8%の軽減税率が適用されている。
スーパーで購入する野菜、肉類、飲料、加工食品や、飲食店のテイクアウト商品は原則として8%だが、店内飲食、ケータリング、酒類には10%が適用される。
今回の税率1%案の最終的な適用範囲は、法案の公表を待つ必要がある。
現行の軽減税率の区分を踏襲する場合、スーパーで販売される飲食料品やテイクアウト商品が1%の対象となる一方、店内飲食や酒類は10%のままとなる可能性がある。
なぜ当初公約の「税率0%」ではないのか
高市氏は選挙期間中、飲食料品の消費税率を2年間ゼロとすることを公約に掲げていた。
しかし、政府内で数カ月にわたって調整した結果、「税率1%」と対象を絞った給付を組み合わせる折衷案へと方針を変更した。
その背景には、小売業界のレジ、会計、インボイス、税務申告などのシステムが、「課税取引」を前提に構築されているという実務上の問題がある。
税率を0%とした場合、ゼロ税率と非課税取引の違いや、仕入税額控除の扱いなど、制度上の区分への対応が必要となり、企業のシステム改修により長い準備期間を要する可能性がある。
一方、1%を残せば、引き続き課税取引として扱われるため、2027年4月までに準備しやすいと判断された。
政府は中低所得世帯に対し、飲食料品の消費税1%分に相当する給付を行い、実質的な負担をゼロに近づける。給付要件を満たさない高所得世帯などには、1%分の負担が残る仕組みだ。
1世帯当たり年間いくら負担が減るのか
税率が1%に引き下げられれば、支払額は1万100円となり、差額は700円だ。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストの試算によると、日本の4人世帯の飲食料品支出は、月平均で約7万5681円となっている。
飲食料品の消費税率を8%から0%に引き下げた場合、月約5606円、年間では約6万7272円の負担軽減になるという。
この試算を基に単純計算すると、税率を1%に引き下げた場合、年間の負担軽減額は約5万9000円となる。1%分の給付を受ける中低所得世帯では、当初の0%案に近い負担軽減効果が見込まれる。
ただし、消費税率の引き下げによって、商品の販売価格が必ず同じ幅だけ下がるとは限らない。
原材料費やエネルギー価格、輸入コストの上昇が続けば、企業が減税に合わせて税抜き価格を引き上げる可能性もある。
その場合、減税効果の一部が企業の利益となり、消費者が実際に受ける値下げ効果は、税率の引き下げ分を下回る可能性がある。
年間約5兆円の税収減、財源をどう確保するのか
飲食料品の消費税率を大幅に引き下げることで、政府の税収は年間約5兆円減少すると試算されている。2年間実施した場合、財政への影響は約10兆円に上る可能性がある。
高市政権は、赤字国債の追加発行によって財源を確保することはせず、税収の上振れや、物価上昇、名目経済成長による増収分で穴埋めする方針を示している。
ただし、こうした増収で減税に必要な財源を十分に賄えるのかについて、現時点では詳細な試算が示されていない。
日本の消費税は、年金、医療、介護、子育て支援など、社会保障制度を支える重要な財源でもある。
財務省は、一部の地方税分を除き、消費税収は原則として社会保障経費に充てられると説明している。
2026年度の一般会計予算は約122兆円で、国税分の消費税収は約26兆7000億円と、歳入全体の約22%を占める。一方、歳入の約4分の1は国債発行によって賄われている。
河野太郎氏が反対「所得に応じた直接給付を」
河野太郎元デジタル相は、飲食料品の消費税率引き下げに反対し、直接給付に切り替えるべきだと主張している。
河野氏が問題視しているのは、消費税率の引き下げによって全ての人が恩恵を受ける一方、飲食料品への支出額が多い世帯ほど、減税によって得られる金額も大きくなる点だ。
政府が数兆円規模の費用を負担する政策として、低所得者を支援する最も効率的な方法とは限らないとしている。
これに対し、減税を支持する側は、申請手続きが不要で、全ての人が会計時に直ちに恩恵を受けられる点を強調している。
国債利回りが上昇、市場は財政悪化を警戒
高市氏が減税を推進する方針を示した7月30日、日本の10年物国債利回りは一時、前日比5.5ベーシスポイント上昇し、2.8%に達した。
政府が最終的に国債の増発に踏み切り、日本の財政状況がさらに悪化するのではないかとの投資家の懸念を反映した動きだ。
減税がインフレに与える影響には、二つの側面がある。
税率の引き下げは、当初は飲食料品の税込み価格を直接押し下げる。一方、家計の可処分所得が増えれば、消費需要を刺激する可能性もある。
企業が同時に税抜き価格を引き上げた場合、減税によって物価上昇を十分に抑えられない可能性もある。
渡辺努・東京大学名誉教授は、拡張的な財政政策がインフレを加速させ、物価上昇圧力を抑えようとする日本銀行の金融政策との間に緊張を生じさせる可能性があると警告している。
2年後、本当に8%へ戻せるのか
もう一つの政治的な課題は、2年後に税率を本当に8%へ戻せるのかという点だ。
高市政権は、2029年4月に税率を元の水準へ戻すとしている。
しかし、2年間続いた飲食料品の減税措置を終了し、税率を7ポイント引き上げれば、国民から大幅な増税と受け止められる可能性が高い。
分析関係者からは、本当の難関は税率を引き下げることではなく、2年後に元へ戻す「出口戦略」にあるとの見方も出ている。
高市氏は、飲食料品の減税によって選挙公約を実現し、物価高対策に対する国民の不満を和らげたい考えだ。
しかし、自民党内の反発や社会保障財源の確保、債券市場の反応を踏まえると、この「消費税率1%」案は、単なる家計負担の軽減策にとどまらない。
高市政権の財政運営に対する信頼と、政策を実現する政治的な実行力が問われる試金石となりそうだ。