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気候変動対策は失速するのか 江守正多氏がCOP30と米国の動向を解説 江守正多教授が会見でCOP30の結果と気候変動対策の課題を語った。(写真/日本記者クラブ提供)
2025年12月2日,日本記者クラブで東京大学未来ビジョン研究センター副センター長・教授の江守正多氏が「揺らぐ気候変動対策」をテーマに会見を行い,ブラジル・ベレンで先月閉幕した国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)の結果と,気候変動対策をめぐる国際情勢について見解を述べた。
司会の滝順一・日本記者クラブ企画委員が冒頭で会議の概要を紹介。適応資金の拡充に向けた合意が得られた一方で,化石燃料からの脱却工程表はまとまらず,成果が限られた点を指摘した。ドナルド・トランプ米大統領がパリ協定離脱を掲げたことで米国がCOP30に不参加となったことにも触れ,国際協調の揺らぎを問題提起した。
江守氏はまず自身の研究活動について説明し,気候変動科学と社会の接点,政策判断における科学の中立性などに取り組んできたと述べた。その上で,IPCC第6次報告書を基に気候変動の科学的知見を整理し,人為起源の温暖化には疑う余地がないことをシミュレーション結果を交えて紹介した。地球平均気温上昇の影響として,生物多様性の危機や熱中症リスクの増大,海面上昇の長期的脅威なども詳述し,「温暖化は最も脆弱な国や将来世代の人権にも関わる問題だ」と強調した。
世界の排出量動向では,現行政策の延長では2100年に約2.8度の上昇に達するとの分析を示し,1.5度目標とのギャップが埋まっていない現状を説明した。一方で,世界的に再生可能エネルギーが新設電源の主流となりつつある点に言及し,設備容量ベースでは近年9割以上が再エネとなっていることを紹介。ただし,中国の生産力に大きく依存している構造には注意が必要だと述べた。
続いてCOP30の評価については,化石燃料からの脱却議論が深まらなかった理由として産油国の影響力を挙げ,「売り手に脱却を求めても合意には至らない。消費国側が需要を減らすことでしか達成されない」と語った。また,1.5度目標に関しては「オーバーシュートを前提に戻すという認識が共有されつつあるが,実現は容易ではない」と述べ,大規模なCO₂除去産業の社会的実現性に懸念を示した。
会見の後半では,江守氏が「今日の話のあんこ」と位置付けた気候変動会議論・否定論の問題に踏み込み,トランプ政権下で主流化する状況を詳しく解説した。米政権が連邦政府としてパリ協定から離脱する姿勢を強めていること,各種規制の弱体化,NASAやエネルギー省での気候関連予算の削減,人員配置の変化,国内版IPCCともいえるナショナル・クライメイト・アセスメントの作成中止などの動きを列挙した。また,気候科学の批判的評価報告書の作成や,EPAによる危険認定撤回の可能性,インフレ抑制法の大幅な廃止と化石燃料開発の支援強化など,第二次トランプ政権下で進む政策転換を説明した。
江守氏は,これらの状況が国際的な気候変動対策にも広範な影響を及ぼすと述べ,「会議論・否定論が組織的に展開されてきた歴史を踏まえ,現在起きている政治的潮流と結び付けて考える必要がある」と語った。
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