トップ ニュース 量子コンピュータのチップ化へ台湾企業が本格始動 低温チップとシステム統合が鍵
量子コンピュータのチップ化へ台湾企業が本格始動 低温チップとシステム統合が鍵 台湾経済部が「量子産業技術推進オフィス」を開設。「協力・実装・連結」を主軸に次世代テクノロジー分野で競争力を構築する。(提供/経済部産業司)
現在の量子コンピュータは、絶対零度(マイナス273度)近くの極低温環境で動作する必要があり、巨大な配線系統や希釈冷凍機を伴うことから、装置全体は一つの大部屋ほどの規模になることも珍しくない。量子コンピュータが今後、研究室の外へ出て本格的な商用化に向かえるかどうか。その鍵を握るのが「チップ化」だ。
台湾経済部(経済省)は4月27日、「量子産業技術推進オフィス」を設立した。会場には、台湾塑膠工業(台塑)、鴻海精密工業(ホンハイ)、仁宝電脳工業(コンパル)、緯創資通(ウィストロン)などの企業や関係機関の代表が集まり、台湾産業界が半導体分野で培ってきた強みを足がかりに、量子技術のエンジニアリング化とシステム統合競争へ本格的に乗り出そうとしている実態を印象づけた。
鴻海研究院イオントラップ研究室の林俊達主任は、量子技術は単一の製品ではなく、計算、通信、センシングにまたがる基盤技術だと指摘した。将来的には人工知能(AI)、情報セキュリティー、材料科学、防衛などの分野に大きな変革をもたらす可能性があり、「産業構造そのものを変える技術基盤になり得る」との認識を示した。
もっとも、現時点の量子コンピュータには依然として明確な技術的制約がある。工業技術研究院(工研院)の関係者は、現在の量子システムは極低温環境での運用が前提となっているため、装置が巨大化するだけでなく、内部配線も極めて複雑だと説明する。そのため、微細化による「チップ化」が産業化に向けた最大の課題になっているという。
工研院は、量子コンピュータの現在地をかつての大型コンピュータになぞらえる。かつてコンピュータは一部屋を占有するような存在だったが、その後の技術進化によって個人が使う端末サイズにまで小型化された。量子コンピュータも将来、同じ道をたどる必要があるというわけだ。つまり、今後の量子産業の競争軸は、単純な量子ビット数の多寡ではない。誰が先に小型化と実装の最後の壁を越えられるかが勝負になる。
国家科学及技術委員会(国科会)の量子推進チームで執行長を務める張文豪氏も、量子コンピュータの普及には、現在の大型装置から、チップ化され、保守や運用がしやすいシステムへ移行することが不可欠だと指摘した。「重要なのは計算能力そのものではなく、実際に使える技術にできるかどうかだ」と語り、それが量子技術の実用化スピードを左右するとの見方を示した。
こうした転換点において、台湾にとって最も優位性を発揮しやすい領域が、「チップ化」と「システム統合」だ。半導体製造、先端パッケージング、電子機器のシステム統合で蓄積してきた能力を生かせば、量子ハードウェア、制御回路、システム基盤を一体化した実用的な構成へとまとめ上げることができる。台湾の産業チェーンは、まさにその部分で存在感を発揮しようとしている。
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各企業の戦略展開も、この道筋に沿って進められている。鴻海研究院はイオントラップ型量子コンピュータ技術に投資し、工研院と共同で量子チップや制御システムの開発を進めている。また、コンパル、ウィストロン、金宝電子工業(キンポ・エレクトロニクス)といった電子製品メーカーは量子機器の統合と演算プラットフォームを注視している。一方、フォルモサ・プラスチックや永光化学(エバーライトケミカル)、李長栄化学工業(LCYケミカル)などの化学品メーカーは低温環境に必要な材料に照準を合わせ、千附実業や旭宇騰精密科技(AUTH)などの設備メーカーも主要モジュールと製造プロセスの開発に参入している。
ハードウェアだけでなく、ソフトウェアやアプリケーション分野でも動きが出始めている。シノプシス、池安量子、富士通などの企業は、すでに量子アルゴリズムや応用領域の開拓に着手しており、量子産業をめぐるエコシステムが徐々に形を整えつつあることがうかがえる。
工研院の「低温制御チップ・モジュール技術」は、広帯域、低消費電力、マルチチャネル制御などの特性を兼ね備えている。左から、工研院電子光電・情報システム研究所副所長の駱韋仲氏、工研院シニアエキスパートの呉志毅氏、経済部部長の龔明鑫氏、経済部産業技術司司長の郭肇中氏、量子推進プロジェクト執行長兼交通大学教授の張文豪氏。(写真/台湾経済部産業技術司提供)
台湾経済部産業技術司の陳曼蝶科長は、台湾が描く技術ロードマップについて具体例を示した。1000量子ビット級の量子コンピュータを例にすると、現状では3000本を超える配線が必要となり、装置の大型化と配線設計の複雑化を招いているという。これに対し、台湾が持つ半導体マイクロ波回路や低温制御チップの技術を活用すれば、配線数を100本余りまで大幅に減らし、システム全体の体積を現在の3分の1程度に縮小できる可能性がある。結果として、単位面積当たりの演算効率を大きく引き上げられるとの見通しを示した。
産業界では、量子コンピュータは2030年前後に商用化段階へ入るとの見方が広がっている。量子協会の関係者は、「重要なのは量子を理解することではなく、量子を実際に使える技術へと変えることだ」と強調する。エンジニアリング化とシステム統合を先に実現したプレーヤーが、次の産業の主導権を握ることになるとの認識だ。
台湾にとって、量子時代の競争は単一技術の突破力だけで決まるものではない。問われるのは、サプライチェーン全体を動かす協調力と統合力だ。企業の布陣が加速するなか、チップからシステムまでを一体でまとめ上げる力が、台湾が量子競争で優位に立てるかどうかを左右する最大の鍵になろうとしている。
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