中国国防省は2026年1月24日、中央軍事委員会委員兼統合参謀部参謀長・劉振立氏(上将)と中央軍事委員会副主席・張又侠氏が「重大な規律違反および違法行為」の疑いで立件、調査を受けていると正式に発表した。中国人民解放軍の具体的な作戦計画と兵力運用を担う最高幹部である劉氏の失脚は、2025年に始まった軍部大粛清の頂点とみなされている。これは中国国家主席・習近平氏による軍権掌握が「極端な粛清」の段階に入ったことを示しており、現在の中央軍事委員会メンバー7人のうち、残っているのは習氏と、最も経歴が浅く規律検査を担当する張升民氏のみである。今回、劉氏と張氏が同時に失脚したことは、人民解放軍に実質的な打撃を与えるのだろうか。
笹川平和財団「日米・安全保障研究小組」戦略・抑止グループ長兼主任研究員・山本勝也氏は、防衛大学校を卒業後に海上自衛隊に入隊し、護衛艦「しらゆき」艦長や第51護衛隊司令などを歴任した。また、北京に派遣され日本国駐中華人民共和国大使館防衛駐在官(武官)も務めた。帰国後は海上自衛隊幹部学校戦略研究室長、米国海軍大学校連絡官兼教授、防衛研究所教育部長などを歴任し、海将補の階級で退官した。中国の軍事戦略、日米同盟、および海洋安全保障に精通する権威ある専門家として広く認められている。山本氏は『風傳媒』の単独インタビューに応じ、2027年の台湾海峡情勢に対して厳しい警告を発した。

習近平氏が武力統一を決断すれば誰にも止められない さらに恐ろしい「現場暴走」のリスク
「もし習近平国家主席が武力による統一を本気で決断したなら、もはや誰にも止められない。しかし、さらに恐ろしいのは、たとえ習氏自身にその意図がなかったとしても、現場部隊の暴走が一瞬で戦争を引き起こしかねないという点だ。」
中国人民解放軍で進む異例の粛清の動きと台湾海峡情勢の緊張について、山本勝也氏はこう指摘する。軍の「ブレーキ役」を担ってきた実戦派の将軍たちが次々と粛清され、指揮系統は「動いてはいるが機能不全」に陥り、さらに「英雄」になろうとする現場の兵士が暴走する可能性がある――。これらが重なり合ったものこそ、現在の台湾海峡が直面する「制御不能の危機」の全体像だという。
山本氏はまず、この危機の根源を個人的な関係から分析する。それは習近平氏と、中央軍事委員会副主席の張又俠氏との関係である。両氏は「二代にわたる家族ぐるみの付き合いがある幼なじみ」とされ、張氏は習氏が権力を固め、軍を掌握する過程で欠かせない存在だった。
30年以上にわたり実戦を経験していない、いわば「平和に慣れすぎた」人民解放軍の中で、張氏と、元統合参謀部参謀長の劉振立氏は、1979年の中越戦争で実際に戦場を経験した数少ない「プロの軍人」である。彼らは米軍の実力を身をもって理解しており、米軍に対して一定の敬意さえ抱いていたとされる。

張又俠氏が失脚 解放軍の粛清の嵐で「理性のブレーキ」失う
しかし山本氏は、過去に中国共産党の指導者である毛沢東が、当時中央軍事委員会副主席だった林彪を粛清した歴史を引き合いに出し、次のように指摘する。「米軍をあまりにもよく理解していた」ことが、かえって絶対的な忠誠を求める習近平氏の疑念を招き、「この人物は自分を裏切るのではないか」という警戒心につながったという。
つまり、かつて最も信頼されていた友人であったからこそ、その存在が最大のリスクと見なされ、排除されたというわけだ。山本氏は、これこそが張又俠氏が失脚した真相であり、同時に中国軍が「理性的なブレーキ」を失った瞬間だったと見る。実戦派の中枢を失った後の指揮系統について、山本氏は「命令系統自体は動いているが、組織としての健全性はすでに失われている」と断じる。
さらに山本氏によれば、現在の軍指導部は習近平氏に異議を唱えられない若い将軍ばかりで占められ、いわば「イエスマン」の集団になっている。かつてのように現場の状況を踏まえて、「訓練がまだ不十分なので、あと1カ月待ってほしい」「相手の戦力は強大で、今は様子を見るべきだ」と進言できる人物は、もはやいないという。
山本氏は、もし習氏が命令を下せば、現場は何の疑問も抱かず「はい」と答え、そのまま攻撃を開始してしまうと指摘する。これを山本氏は「指導者を補佐する力の欠如」と表現する。形式上は指揮系統が機能していても、習氏の戦略意図に沿った行動が保証されるわけではなく、誰も現実を直視しないまま破滅的な作戦が強行される恐れがある――それがすでに構造的な欠陥となっているという。 (関連記事: 2027年までの台湾有事勝利を目標に 中国人民解放軍の「3段階戦略」と、米側が警鐘を鳴らす「能力の最終評価」の実態 | 関連記事をもっと読む )

一人っ子世代と歪んだ英雄観 「現場兵士」が台湾海峡の最大の未爆弾に
さらに山本氏は、「最大の未爆弾」は現場の兵士の資質の低下と暴走リスクにあると指摘する。
一人っ子世代で構成され、実戦経験に乏しい現役兵士たちは、戦闘における進退や判断の節度を十分に理解していないという。山本氏は2001年の海南島事件(EP-3偵察機接触事故)を例に挙げ、中国軍ではたとえ無謀な行動によって事故を引き起こしても、国内では「英雄」と称賛されることがあると説明する。民主国家の軍隊であれば、危険な挑発行為は処罰の対象となるが、中国では「英雄になりたい」という功名心が現場兵士の独断専行を招きやすい。このような「歪んだ評価体系」が、指導部の統制を超えた偶発的衝突を引き起こす導火線になり得るという。
こうした統制の不安定な中国軍との衝突を避けるため、山本氏は台湾に対し、軍事的なエスカレーションを抑えつつ、中国側の民間フェリーやUUV(無人潜航艇)など、さまざまなグレーゾーン活動を監視すべきだと提言する。そしてその動きを、日本語、英語、フランス語、タイ語、フィリピン語(タガログ語)など複数の言語で即時に世界へ発信し、「情報戦」によって対抗することが重要だとする。
また、中国の中国海警局(CCG)の活動について、山本氏は「サッカーチーム」にたとえてその脅威を説明する。海警と海軍は、サッカーで言えばフォワードとディフェンダーの関係のように役割は異なるが、2018年の組織改編以降、実質的には「同じチーム」として統合的に運用されているという。
こうした執拗な消耗戦に対し、山本氏が台湾に示した具体的な対策は「徹底した監視と情報戦」である。中国の海警船やドローン、海上民兵だけでなく、軍事転用が可能な「民間フェリー」や、探知が難しい「UUV(無人潜航艇)」がどのような活動をしているのか――その動向を常に把握し、国際社会に可視化していく必要があると指摘している。

2027年の二つの不可逆シナリオ 意図的・非意図的戦争のリスクが高まる
「グレーゾーン」衝突への対応について、山本氏は、台湾はこうした映像や事実を中国語だけでなく、英語、日本語、韓国語、フィリピン語(タガログ語)、フランス語など、あらゆる言語で直ちに世界に発信すべきだと強調する。さらに、馬祖や金門周辺で頻発している海底ケーブル切断事件についても、「100%断定できなくても、中国の関与の可能性が極めて高いことを公表し、国際法に基づいて断固として批判すべきだ」と指摘する。国際社会と危機認識を共有することこそ、最も強い抑止力になるという。
一方、偶発的な衝突を防ぐ最後の外交手段とされる「ホットライン」について、山本氏は「すでに機能していない」と断言する。冷戦期に米国とNATOがソ連との間でホットラインを運用していた事例を挙げ、その本質的な機能不全を指摘する。西側諸国にとってホットラインは、「互いに信頼していないからこそ」偶発事故を防ぐために設置され、対話を通じて信頼を積み重ねるための装置である。これに対し中国は、「信頼関係のある友人同士の間にのみ存在するもの」と定義している。山本氏は、信頼関係が崩壊した現在、中国側はホットラインに応答しない可能性が高く、危機が起きても事実上、連絡手段は存在しないと指摘する。
『風傳媒』のインタビューで山本氏が最も警戒すべき点として挙げたのが、「2027年問題」をめぐる二つの不可逆的なシナリオである。第一のシナリオは、習近平氏が武力統一を決断した場合である。現在の体制はイエスマンに満ちており、これを止められる人物はもはや存在しない。第二のシナリオは、仮に習氏自身にその意図がなくても、「現場の英雄主義的な欲望」と「機能不全の指揮系統」が重なり、偶発的な衝突が発生する可能性だ。
しかも、連絡手段となるホットラインもなく、ブレーキ役だった張又俠氏らも不在の状況では、いったん衝突が起きれば瞬く間にエスカレートし、戦争へ拡大する恐れがある。山本氏は「意図的な戦争と、意図しない戦争の双方のリスクが高まっている。それが現在の台湾海峡だ」と総括し、2026年から2027年にかけての情勢は、すでに極めて危険な段階に入っていると警告している。
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編集:柄澤南
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