イスラエル・米による対イラン攻撃の歴史的背景 鶴見太郎東大准教授がユダヤ3000年の歩みと軍事重視の現状を分析

イスラエルの対イラン強硬姿勢は、歴史的な犠牲者意識と軍事的自立の追求に裏打ちされており、外交への不信感が和平への道を困難にしている。(写真/日本記者クラブ提供)
イスラエルの対イラン強硬姿勢は、歴史的な犠牲者意識と軍事的自立の追求に裏打ちされており、外交への不信感が和平への道を困難にしている。(写真/日本記者クラブ提供)

2026年4月22日、東京大学大学院総合文化研究科の鶴見太郎准教授が日本記者クラブで会見を行い、「ユダヤ人とイスラエルの歴史から考える」という演題で講演した。鶴見氏は、ユダヤ教成立以前から現代に至るまでの3000年に及ぶ歩みをまとめた著書『ユダヤ人の歴史』でサントリー学芸賞を受賞するなど、今最も注目される研究者の一人である。2026年3月までイスラエル北部のハイファに滞在していた鶴見氏は、現地の緊迫した空気を踏まえつつ、イスラエルがイランに対して強硬な軍事姿勢を貫く歴史的・構造的背景を詳述した。

生存戦略の転換、ディアスポラからシオニズムへ

​鶴見氏はまず、歴史上の「ユダヤ人」と現在の「イスラエル国家」を切り離して考える必要性を指摘した。中世から近世にかけての「ディアスポラ(離散)」の時代、ユダヤ人は有力者と協調関係を築き、自らの経済的特性を活かして生存を図る「ウィン・ウィン」の関係構築を基本としていた。しかし、19世紀後半にロシアや東欧で発生したポグロム(ユダヤ人襲擊)や、工業化に伴う経済構造の変化が、この伝統的な生存戦略を崩壊させた。

「鉄の壁」という思想的淵源

これに対抗して台頭したのが、外部への依存を断ち、自立と軍事的な「鉄壁の守り」を重視する「シオニズム」である。特にウラジーミル・ジャボティンスキーが提唱した「鉄の壁」という概念は、武力で拠点を守り抜き、敵が抵抗を諦める段階に至って初めて交渉が可能になるという思想である。鶴見氏は、この思想が現在のイスラエルに見られる「外交軽視」と「実力行使重視」の姿勢に直結していると分析した。

「犠牲者意識」のアップデートと強硬路線の構造的背景

​イスラエルの行動原理の核には、ホロコーストを起点とした「犠牲者意識ナショナリズム」が存在している。鶴見氏は、イスラエル人にとってホロコーストは決して過去の出来事ではなく、現在の中東情勢の中で常に「アップデート」され続けている意識であると分析した。

アラブ諸国やイランからの攻撃を、かつてのポグロムやナチスによる暴力と同一視するアナロジー(類推)により、イスラエル側は自らの行動を「絶対的な正義」と捉える。その結果、自らの行動を変えることで現状を打開するという選択肢を排除してしまっているのだ。また、「中東唯一の民主主義国」であるという強い自負が、独裁政権下の敵対勢力に対する過度な攻撃を正当化する背景にもなっている。

戦争支持を支える「安全への自信」と経済構造

現在のイスラエル世論において、イランとの戦争支持がユダヤ系市民の約8割に達している背景には、高い迎撃率を誇る防空システムや整備されたシェルターによる「安全への自信」がある。経済面においても、ハイテク技術の伸長や武器輸出が好調であり、天然ガスの自給自足も達成している。こうした強固な構造により、紛争が継続しても市民生活が揺るがない状況が出来上がっている。

一方で、国内では極右的な宗教シオニスト勢力が増しており、かつてのオスロ合意を推進したような和平派は極めて弱体化している。入植地で育ち、聖書時代の歴史を直接現在の領土主張に結びつける層の台頭が、パレスチナとの平和共存や「二国家解決」を一層困難にしている実態を、鶴見氏は浮き彫りにした。

編集:小田菜々香

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