UNDPドゥ=クロー総裁が記者会見「開発は安全保障の最前線」と強調 日本の長年の貢献に謝意

UNDPのドゥ=クロー総裁は、開発を「安定への投資」と定義し、国際社会の安全保障における日本の指導力と継続的な支援に期待を寄せた。(写真/日本記者クラブ提供)
UNDPのドゥ=クロー総裁は、開発を「安定への投資」と定義し、国際社会の安全保障における日本の指導力と継続的な支援に期待を寄せた。(写真/日本記者クラブ提供)

2025年12月に国連開発計画(UNDP)の第10代総裁に就任したアレクサンダー・ドゥ=クロー氏は2026年4月21日、日本記者クラブで記者会見を行った。ドゥ=クロー氏は2020年から2025年までベルギー首相を務めた経歴を持ち、国連事務総長の指名を受けて現職に就いた。会見は共同通信の杉田弘毅氏の司会で進行し、UNDPの現状や使命、そして日本への期待について語られた。

「開発はソフトパワーではなくハードパワー」

​ドゥ=クロー総裁は冒頭、50年以上にわたる日本のUNDPへの継続的な支援に対し、深い感謝の意を表明した。総裁は、開発が単なる「ソフトパワー」にとどまらず、今日の世界を安定させ安全にするための「ハードパワー」としての側面を持つと指摘。極度の貧困や不平等、差別が紛争の根源的な原因であり、開発こそが「防衛の第一線」であると強調した。

具体的な例として、イラクにおける医療、教育、エネルギーの復旧といった純粋な開発介入を挙げ、これにより300万人以上の避難民が帰還できた実績を示し、開発が国家の安定化にいかに不可欠であるかを説いた。

「人間の安全保障」と日本との連携

​さらに総裁は、日本が1994年にUNDPと共に提唱した「人間の安全保障」の概念に触れ、未来への投資としての開発の重要性を強調した。国際協力機構(JICA)との連携によるパキスタンでの中小企業育成や農業支援、シリアでの地雷処理や障害者支援、そしてパレスチナでのがれき撤去など、多岐にわたる取り組みを説明した。

また、太平洋地域における日本の活動や、AIなどのデジタルソリューションを活用する民間企業との連携強化についても高く評価した。ドゥ=クロー総裁は、UNDPの使命は「繁栄を創造し、地球と人々を守ること」であると結論づけた。

「押し付けの時代は終わった」受入国の主体性と制度構築の重要性

質疑応答では、ドナー国(支援国)が重視する理念的な政策と、支援を受ける側が求める経済インフラ開発の間の「ミスマッチ」について質問が及んだ。これに対しドゥ=クロー総裁は、「ドナー国が価値観を押し付ける時代は終わった」と断言。優先事項は受入国自身が決定すべきであり、UNDPはそれに寄り添う立場であると説明した。

一方で、法制度や人権が守られていない国には民間投資が集まらないことから、制度構築と経済開発は「不可分」であるとの認識を示した。過去25年で極度の貧困は半減したものの、近年の紛争によって3200万人が再び貧困層に転落している現状に触れ、戦争が開発の成果を破壊していることに強い懸念を表明した。

SDGsの枠組み維持と米国の関与について

SDGs(持続可能な開発目標)の次期目標と米国の関与に関する質問に対しては、SDGsは依然として有効な枠組みであり、項目の簡素化などの微調整はあっても、枠組み自体は維持すべきだとの見解を示した。米国の今後の関与については、「米国民自身の選択に委ねられる」と述べるにとどめた。

また、人権や法の支配に課題を抱える国家がドナーとして果たす役割については、国連の枠組みにおける開発プロジェクトは国連憲章を尊重し、人権を遵守して行われるのが原則であると回答。「人権を守ることは、開発においてより良い結果をもたらす」という実績を強調し、すべてのドナーに対して国際ルールの遵守を求めた。

開発は単なる「援助」ではなく「安定への投資」

会見の最後に、国際社会で「法の支配」が損なわれている現状への対策について、総裁は「安定と持続可能性は世界の利益であり、予見不能な事態は貿易や国際関係において誰の利益にもならない」と指摘した。

各国が限られた予算の中で防衛費やエネルギー対策への支出を強いられる中、開発への投資は単なる慈善的な援助ではなく、世界の安定と信頼を築くための「安定への投資(Investment in Stability)」であると語った。その上で、日本との強力なパートナーシップの継続を強く希望し、会見を締めくくった。

編集:小田菜々香

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