京都大学大学院法学研究科の中西寛教授は2026年4月24日、日本記者クラブにて「イスラエル・米の対イラン攻撃 背景と影響」と題した会見を行った。中西教授は、現在の中東情勢を単なる地域紛争ではなく、第二次世界大戦後の国際秩序の「終わりの終わり」であると定義。1973年の石油危機を契機に形成された「1973年体制(ペトロダラー体制)」の終焉を決定づける歴史的な転換点であるとの認識を示した。
首脳陣の国内政治的窮地が招いた「斬首作戦」
2026年2月28日に本格化したアメリカとイスラエルによる対イラン共同軍事作戦は、イランの最高指導者や軍幹部を標的とした「斬首作戦」から開始された。中西教授は、この背景に両首脳の国内政治における苦境があったと分析する。
- イスラエル: ネタニヤフ首相が抱える汚職裁判、および秋に控える総選挙。
- アメリカ:トランプ大統領が直面する移民問題、最高裁の違憲判決、および11月の中間選挙。
両首脳は局面打開のために早期の戦果を期待していたが、イラン側の「非対称な抵抗戦略」により作戦は事実上失敗。戦争は長期化の様相を呈している。
「海の塹壕戦」へ変貌する消耗戦
イラン側は事前にミサイルやドローンを地下施設に備蓄し、米以両軍の圧倒的な海空兵力との正面衝突を回避する戦術を採用した。初期段階で大規模なドローン攻撃を展開して米軍のレーダー網に打撃を与えた後は、攻撃を限定的な水準に保ちつつ長期戦に備えている。
さらに、イランによるホルムズ海峡の事実上の通行管理は、世界の物流と経済に甚大な影響を及ぼしている。中西教授は、現在の状況をアメリカ海軍による海上封鎖と、イランによる海口封鎖が衝突する「海の塹壕戦」と表現。事態は出口の見えない消耗戦の段階に突入していると警鐘を鳴らした。
出口なき消耗戦、提示された3つのシナリオ
中西教授は今後の展開について、以下の3つのシナリオを提示した。
- 長期的な停戦交渉への移行:朝鮮戦争やベトナム戦争のように、数年単位の時間を要する膠着状態。
- 地上軍派遣による戦火の拡大:アメリカが軍事介入をエスカレートさせる道。しかし、中東での泥沼化を嫌うトランプ大統領の基本方針に反するため、政治的ハードルは極めて高い。
- イラン政権の瓦解と内戦:経済制裁による体制崩壊。だが現時点では、むしろイランの国内体制は強化されており、可能性は低い。
いずれのケースにおいても、アメリカ側が当初描いていた「早期終結」のシナリオは、すでに完全に消失している。
「石油ドル決済体制」の崩壊と多極化する世界
この戦争は、国際政治経済に不可逆的な影響を及ぼしている。中西教授は、1974年の米サウジアラビア合意に基づく「原油のドル決済体制」が崩壊しつつある現状を指摘。資源問題が再び世界経済の最大の焦点になると警告した。
また、中東がアジア、欧州、アフリカを結ぶ地政学的な交差点としての重要性を増す中、多極的な再編が加速している。中国の仲介によるイラン・サウジの国交回復や、パキスタン・サウジ間の相互防衛条約など、アメリカの影響力低下を見据えた新たな秩序形成が進んでいると分析した。
軍事技術の転換点、ドローン戦術が日本に突きつける課題
軍事技術の面でも、今回の戦争は新たな教訓を示した。アメリカが目標選定にAIを本格導入する一方で、イランの安価なドローン攻撃は、アメリカの高度かつ高価なミサイル防衛網の限界を露呈させた。
中西教授は、このドローン戦術の有効性や、エネルギー施設、AIデータセンターといった「基幹インフラ」が直接の攻撃対象となる現状は、日本の米軍基地や自衛隊基地の防衛体制、さらには東アジアの安全保障情勢にも深刻な課題を突きつけていると警鐘を鳴らし、会見を締めくくった。
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(関連記事: 米原油高、77%がトランプ氏の開戦と関連視。半数超がイラン侵攻派を拒否 | 関連記事をもっと読む )編集:小田菜々香
















































