日本発AI「Sakana Fugu」登場 GPT-5.5やClaudeを上回る性能、米国依存リスク回避に新戦略 世界のAI開発競争では、膨大なデータと計算資源を投入し、巨大な単一モデルをつくるという発想が主流となってきた。そうした中、日本発のAIスタートアップ、Sakana AIが新たなアプローチを打ち出した。
Sakana AIは6月22日、複数のAIエージェントを協調させる「群知能」型AIシステム「Sakana Fugu」を発表した。日本の高級食材として知られる「フグ」にちなんで名付けられた同システムは、高度に自律化された「マルチエージェント・オーケストレーション・システム」を中核とする。単独のAIモデルとしてすべての問題に答えるのではなく、複数のAIモデルを状況に応じて動的に組み合わせ、調整役として機能する仕組みだ。
Sakana AIが公表したベンチマーク結果によると、上位版の「Fugu Ultra」は、Anthropicの「Fable 5」や「Claude Mythos Preview」、OpenAIの「GPT-5.5」、Googleの「Gemini 3.1 Pro」など、米大手企業の主力モデルを複数の指標で上回ったという。
この技術は、単なる性能競争にとどまらない。米国のAIモデルやAPIへの依存、さらには輸出規制やアクセス制限といった地政学的リスクを避けるうえでも、「AI主権(AI sovereignty)」の一つの方向性を示すものとして注目されている。
最先端AI群を束ねる司令塔 ここ数年、OpenAIやGoogleなどのAI開発は、基本的にデータと計算資源を大量に投入する力押しの発想に支えられてきた。巨大な単一モデルにあらゆる能力を集約するという手法である。しかし、現実世界の複雑で長期にわたるタスクや、高度に専門化された分野横断型の課題に対しては、単一モデルだけでは対応しきれない場面も少なくない。
日本のIT専門メディア『ビジネス+IT』は、Fuguがこうした従来の発想を覆すものだと紹介している。Fuguは言語モデルでありながら、すべての問いに自ら直接答えることを目的としない。むしろ、役割分担を理解し、複数の専門モデルを使い分ける「マネージャー」のような機能を担う。
Sakana Fuguの群知能の仕組み。(画像/Sakana Fugu公式サイトより) タスクの計画、分解、割り当て、モデル間の対話、結果の検証、最終的なレポート統合まで、処理はシステム内部で自律的に進む。ユーザーは、背後でどのモデルが議論し、どのモデルが検証しているのかを意識する必要はない。外側から見れば、OpenAI互換の単一APIを使っているだけだが、その裏側では、いわば複数の専門AIからなるチームが一体となって動いていることになる。
Sakana AIによると、このオーケストレーション技術の基盤には、国際的な機械学習会議「ICLR 2026」に採択された同社の研究成果「TRINITY: An Evolved LLM Coordinator」と「Learning to Orchestrate Agents in Natural Language with the Conductor」がある。
「フグ」はいかにして巨大AIに挑んだのか 日本のIT専門メディア『窓の杜』が22日に報じたところによると、Fuguは商用リリース時に2種類のモデルとして提供される。一つは、処理速度と低遅延を重視し、一般業務やカスタマーサポートでの対話に適した標準版「Fugu Mini」、または「Fugu」。もう一つが、高度な推論を必要とするタスクに対応する上位版「Fugu Ultra」である。
AIエンジニアのプログラミング能力を測るベンチマーク「Terminal-Bench 2.1」では、Fugu UltraがAnthropicの最新旗艦モデル「Fable 5」を上回る結果を示したという。
さらに、博士課程レベルの科学問題、複雑な図表読解、高度な科学的推論を含む「Charxiv Reasoning」や「GPQA Diamond」でも、FuguはAnthropicのプレビュー版モデル「Claude Mythos Preview」を上回ったとされる。『日本経済新聞』も23日付で、Fuguが最先端科学分野のベンチマークで高い性能を示したと報じている。
一方、広範な学術知識を問う総合テスト「Humanity's Last Exam」では、Fugu UltraはFable 5にわずかに及ばなかった。ただし、複数モデルの高度な協調とタスク分担によって、単一の巨大モデルに依存しないAIシステムが、複数の専門領域で大手モデルに匹敵、あるいは上回る可能性を示した点は大きい。
Sakana Fuguと主要AIモデルのベンチマーク比較。(画像/Sakana Fugu公式サイトより)
実務テストでも高評価 Fuguはベンチマーク上の数字だけでなく、実際の利用場面でも高い評価を得ているという。Sakana AIは正式公開に先立ち、約500人の早期ユーザーを対象にクローズドテストを実施した。
あるシニアソフトウェアエンジニアは、コードレビューでFugu Ultraを使ったところ、他のAIツールでは3件程度しか見つからなかった潜在的な不具合を、Fugu Ultraが20件以上指摘したとして、その網羅性を高く評価した。現在では、プロジェクトのリリース前にFugu Ultraでの確認を必ず通すようにしているという。
また、エンタープライズ向けプラットフォームの関係者は、AIエージェントが長い対話の中で文脈を失ったり、役割設定が崩れたりすることを課題として挙げたうえで、Fuguは長時間の対話でも「ペルソナの安定性」を維持したと評価している。商用エージェント製品の開発においては、単なるベンチマークスコア以上に重要な要素だという。
サイバーセキュリティ分野のテスターからも評価が寄せられた。大まかなセキュリティ検証の範囲を指示するだけで、Fuguは事前調査、XSSやSQLインジェクションの脆弱性テスト、認証システムの確認を自律的に進め、証拠と再検証手順を含む評価レポートを作成したという。テスターは、システムが破壊的な挙動を起こすことなく、検証範囲を守って動作した点も評価している。
米国依存リスクを避けるAI主権の試み Sakana Fuguの登場は、技術面だけでなく、政治的・戦略的にも意味を持つ。Sakana AIが公式発表で、Fuguには「輸出規制リスクを回避できる」利点があると強調しているためだ。
米国政府は近年、先端AI半導体や高性能AIモデルに対する輸出規制を強めている。AnthropicのFableやMythosモデルも、地政学的要因や規制変更を背景に、一部の国・地域でアクセスが制限されたとされる。金融インフラ、公共部門の行政システム、スマート防衛システムなどを米国企業のAPIに依存している国や企業にとって、AIモデルの提供元の政策変更は重大な地政学的リスクとなり得る。重要インフラが、外部の政策判断によって突然機能不全に陥る可能性があるためだ。
企業価値が25億ドルを超え、日本で最も価値のある未上場AIユニコーンとされるSakana AIは、こうしたリスクへの対応策として「AI主権」を掲げる。
Fuguの構造は、モジュール化と交換可能性を前提としている。エージェントプール内のモデルは、必要に応じて入れ替えることができる。仮に米国が特定のクローズドソースモデルへのアクセスを制限した場合でも、Fuguのオーケストレーション機能がタスクや処理を動的に再割り当てし、制限されたモデルを迂回して、オープンソースモデルや他の第三者モデルに処理を引き継がせることができるという。
一つのモデルや一つの国のAI供給網に依存しないこの設計は、技術覇権の集中に対するヘッジとしても意味を持つ。Sakana AIは今後、さらに多くのオープンソースモデル、日本発モデル、自社開発モデルをエージェントプールに組み込む計画だとしている。
東京を拠点とするSakana AIの研究チームは、米中ハイテク競争に巻き込まれたくない企業に対し、いわば地政学的リスクに備える「技術的な防御策」を提示したことになる。
日本国内では米ドル建て料金に不満も 一方、日本発のAIとして注目を集めるFuguは、国内では料金体系をめぐって思わぬ議論も呼んでいる。Sakana AIが発表した個人向けサブスクリプションは、次の3プランで構成される。
Standardは月額20ドル。ProはStandardの10倍の利用枠を提供し、月額100ドル。MaxはStandardの20倍の利用枠で、月額200ドルとなっている。
法人向けの従量課金では、上位版のFugu Ultraが100万トークンあたり入力5ドル、出力30ドルに設定されている。コンテキストウィンドウが272Kを超える場合は、入力10ドル、出力45ドルに引き上げられる。標準版のFuguは、背後で実際に呼び出される各基盤モデルの料金に基づいて精算される仕組みだ。
また、企業のデータプライバシーやコンプライアンス上の要請に配慮し、標準版Fuguでは、法人顧客が特定のAIモデルをエージェントプールから除外できる機能も用意されている。Fugu Ultraは固定されたエージェントプールで運用される。
Sakana Fuguの公式料金プラン。(画像/Sakana Fugu公式サイトより) 価格設定そのものは商用AIサービスとして妥当とみられる一方、すべてが米ドル建てである点には、日本国内のユーザーから不満の声も上がっている。近年の円安を背景に、SNS上では「国産AIなのに、なぜ米ドルで支払わなければならないのか」「国内の中小企業には使いにくい」といった反応が相次いだ。
Sakana AIは米ドル建てを採用した理由について、創業当初からグローバル市場を前提にサービスを展開してきたためだと説明している。その一方で、日本のユーザーから寄せられた円建てプランへの要望については確かに受け止めており、今後も真摯に検討していくとしている。
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