ウクライナは今週、ロシアの首都モスクワに対し、複数回にわたるドローン攻撃を行った。モスクワ南東部郊外のカポトニャ(Kapotnya)製油所には多数のドローンが飛来したとされる。同製油所はモスクワのガソリン需要の相当部分を支えており、ロシア国営天然ガス企業ガスプロム(Gazprom)が運営する施設にも被害が出た。黒煙が上がり、周辺空港では一時的に発着が停止されたほか、現地ではその後、黒い雨が降ったとの情報もあり、市民生活にも影響が広がった。
モスクワはウクライナの首都キーウから700キロ以上離れている。これまで攻撃を受けたロシアの港湾都市サンクトペテルブルクは、キーウから1000キロ以上離れている。こうした攻撃は、ロシアが安全圏と見なしてきた後方地域も、ウクライナの攻撃範囲に入りつつあることを示している。
元駐米ウクライナ大使館武官で、現在はウクライナ自由基金(Ukrainian Freedom Fund)の戦略開発ディレクターを務めるアンドリー・オルディノビッチ(Andrii Ordynovych)氏は、ウクライナが過去1年間、中距離・長距離ドローンを用いたロシア領内の後方地域への攻撃を本格化させてきたと指摘する。
標的は海軍・空軍基地などの軍事施設にとどまらない。製油所、石油化学関連施設、重要な補給拠点、装備修理工場、軍需産業施設などにも広がっている。
オルディノビッチ氏によれば、ウクライナはドローンを、敵国の後方地域を攻撃する戦略兵器として位置づけている。その狙いは、ロシア経済に負荷をかけ、石油輸出を通じた外貨獲得の仕組みを揺さぶり、戦争継続を困難にすることだけではない。ロシア上層部に政治的圧力をかけ、プーチン政権を交渉の席に着かせ、戦争終結を早めることにもあるという。
2026年6月中旬、ウクライナによるドローン攻撃で、ロシアの首都モスクワ近郊では激しい黒煙と炎が上がり、製油所が大きな被害を受けた。(画像/ゼレンスキー氏のXより)
ドローンは「戦略目標を実現する手段」 オルディノビッチ氏はこのほど、台湾の国家科学技術委員会(国科会)のシンクタンク「テクノロジー・民主主義・社会研究センター(DSET)」が主催する年次フォーラムに出席するため来台した。同氏は会議に先立ち、『風傳媒』の単独インタビューに応じ、ウクライナが短距離から長距離までの軍用ドローンをどのように活用してきたのかを、軍事、経済、政治の各側面から語った。
同氏が強調したのは、ドローンを単なる兵器としてではなく、より高いレベルの戦略目標を達成する手段として見る視点だ。
FPVドローンが前線を「キルゾーン」に変えた オルディノビッチ氏によれば、ウクライナ軍はFPVドローンを活用し、双方が交戦する前線周辺を、ロシア軍にとってのキルゾーン、すなわち殺傷地帯に変えた。特に前線からおおむね10〜20キロ程度の範囲でその効果が大きく、ロシア軍は大規模な装甲部隊を投入して地上部隊を前進させることが難しくなったという。
同時に、ウクライナ軍側の人的損耗も抑えられている。オルディノビッチ氏は、現在、前線におけるロシア軍の死傷の多くがウクライナのFPVドローン攻撃によるものだと指摘する。
無人地上車両の活用も急速に広がっている。ウクライナ軍参謀本部の統計として同氏が紹介したところによれば、2025年11月、前線への補給任務や負傷者の後送任務のうち約1000〜1500回が無人地上車両によって行われた。今年3月にはこの数字が約9000回に増え、5月末には約1万2000回に達したという。
こうしたFPVドローンや無人地上車両の活用により、人口規模でロシアに劣るウクライナは、前線での損耗を抑えつつ、ロシア軍により大きな損害を与える態勢を整えてきた。オルディノビッチ氏によれば、戦場での死傷者比率はロシア軍5に対してウクライナ軍1程度に広がっているという。
2026年6月5日、台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の単独インタビューに応じるウクライナ自由基金の戦略開発ディレクター、アンドリー・オルディノビッチ(Andrii Ordynovych)氏。(写真/陳品佑撮影)
黒海艦隊を後退させた無人機戦 戦略面でも、ドローンは大きな役割を果たしてきた。
オルディノビッチ氏は、2022年2月の全面侵攻開始当初、ロシアの狙いは黒海艦隊を用いてウクライナの黒海沿岸の港を封鎖することだったと説明する。海上輸送による輸出や外部支援のルートを断ち、ウクライナ指導部を屈服させる構想だった。
しかし、ウクライナは各種の攻撃用ドローンを用いて反撃し、ロシア艦艇を複数撃沈しただけでなく、ロシア海軍を黒海艦隊の重要拠点であるクリミア半島セバストポリ(Sevastopol)から後退させることにもつなげた。
黒海艦隊が、同じく黒海に面するロシアの港湾都市ノボロシースク(Novorossiysk)方面へ後退した後も、ウクライナは攻撃を続けている。オルディノビッチ氏は、こうした作戦によって、ロシア海軍がウクライナの都市を効果的に攻撃する余地を狭めていると語った。
狙いは石油施設、ロシア経済への圧力 ドローン攻撃のもう一つの狙いは、ロシア経済への圧力だ。
オルディノビッチ氏によれば、ロシア国内では極東、シベリア、モスクワ周辺、サンクトペテルブルク周辺、さらにはウクライナ東部のロシア占領地域などで、ガソリン供給不足が広がっている。その背景の一つに、ウクライナによる中長距離ドローンを使った石油関連施設への継続的な攻撃があるという。
「特にクリミア、ザポリージャ(Zaporizhia)、ヘルソン(Kherson)などのロシア占領地域では、地方当局が1人または1店舗あたりの給油量を1日最大20リットルに制限し、ガソリンの給油カードまで導入した」と同氏は語る。
オルディノビッチ氏は、長距離ドローンや縦深攻撃(ディープ・ストライク)用ドローンが、ロシアを交渉に向かわせる圧力になっていると見る。
政治的圧力でプーチン政権を交渉へ オルディノビッチ氏は、ロシア領内の後方地域に対する攻撃には、明確な政治的意味があるとも指摘する。
「これらはすべて、プーチン政権への政治的圧力になっている。ウクライナとの和平を本気で実現するのであれば、このままではいられないと認識させる必要がある」
同氏によれば、ウクライナが中長距離ドローンでロシア後方の兵站施設や軍需産業拠点を攻撃しているのは、ロシアの作戦テンポを落とすためでもある。
「例えば、ロシアの修理工場を攻撃すれば、修理を終えて前線に戻る軍事装備の数を減らすことができる。それによって相手の作戦を遅らせることができる」
さらに、前線だけでなく後方地域へのドローン攻撃は、国際社会による対ロシア経済制裁の効果を高めることにもつながるという。ロシアのエネルギー収入や軍需生産能力に圧力をかけることで、制裁の実効性を補強する狙いがある。
2026年6月5日、台湾の国家科学技術委員会(国科会)のシンクタンク「テクノロジー・民主主義・社会研究センター(DSET)」の年次フォーラムに出席するため来台したウクライナ自由基金の戦略開発ディレクター、アンドリー・オルディノビッチ(Andrii Ordynovych)氏が、台湾メディア『風傳媒(ストームメディア)』の単独インタビューに応じた。(写真/陳品佑撮影)
石油化学施設から兵站拠点まで 広がるドローン攻撃の標的 オルディノビッチ氏はインタビューで、ウクライナが中長距離ドローンを用いた攻撃を続ける目的について、こう語った。
「この軍事侵略を始めた者たちを交渉の席に着かせ、侵略の代償を実感させることだ。ロシアに、経済、産業、財政上の負担をどう減らすべきかを計算させる必要がある」
同氏はまた、ロシアが売却できる石油・天然ガスは大きく減っているとの見方を示す。「売却可能な量は現在、従来の約4割にとどまっている」とし、ロシア政府が給与を支払い、軍事装備を購入し、装備を修理し、戦闘を継続するための資金も減少していると指摘した。
ウクライナの経験は、台湾海峡の防衛を考えるうえでも示唆を持つ。台湾にとって各種ドローンは、単に自衛能力を強化する装備にとどまらない。より高い政治目標や戦略目標を達成するための手段として位置づけることも可能だ。