日本政府が在留資格「経営・管理」の要件を大幅に厳格化したことをめぐり、立憲民主党の打越さく良参議院議員と、在留資格手続きを専門とする行政書士法人タッチの湯田一輝氏は8日、日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を開き、今回の制度改正が日本で合法的に事業を営んできた外国人経営者や地域社会に深刻な影響を与えていると訴えた。
資本金要件を3000万円に引き上げ 「経営・管理」ビザを厳格化
在留資格「経営・管理」は、日本で会社経営や事業管理を行う外国人に付与される在留資格。2025年10月に施行された改正では、資本金等の要件が従来の500万円から3000万円以上へと大幅に引き上げられたほか、1人以上の常勤職員の雇用、一定水準以上の日本語能力、経営・管理経験または関連分野の学位、事業計画書の専門家確認などが求められるようになった。
打越氏は会見で、政府が「ルールを守らない外国人への厳格対応」を掲げるなか、今回の省令改正は「ルールを守ってきた外国人に達成困難なルールを課すものだ」と批判した。打越氏によれば、入管庁は国会答弁などで、経営管理ビザの許可基準が諸外国に比べて緩く、移住目的で悪用されているとの指摘や、経営実態のない事案があったことを改正理由として説明してきた。
しかし打越氏は、入管庁が強調してきた「調査対象の約9割が不許可」という説明について、調査対象となった327件はもともと経営実態に疑問があるとして抽出された事案だったと指摘。同時期に東京出入国在留管理局が受理した経営管理関連の申請総数は2万5987件で、不許可処分は303件、全体の1%強にすぎなかったとして、「前提を隠して9割不許可という数字だけを強調するのは誤解を招く」と述べた。
国会での議論を欠いた制度改正 702件の意見も反映されず
また打越氏は、今回の厳格化が行政上の省令改正として行われ、国会で十分な審議がなされなかった点も問題視した。昨年の出入国在留管理政策懇談会では、地域に根付いた小規模事業者が廃業に追い込まれ、日本にいられなくなる可能性を懸念する意見や、基準を引き上げることでペーパーカンパニーを本当に排除できるのか疑問視する意見が出ていたという。にもかかわらず、その後のパブリックコメントで寄せられた702件の意見は制度設計に反映されなかったとし、「あまりにも熟議を欠いた改正だ」と批判した。
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一方、湯田氏は、実務家の立場から現場で起きている変化を説明した。湯田氏によれば、経営管理ビザは本来、日本国内で実際に経営活動を行う外国人のための制度だが、近年は「物件を購入すればビザが取れる」などとうたう悪質な不動産業者や、移住・医療目的で経営実態のない申請を行う事例が問題視され、世論や政治の圧力が高まった。こうした背景のもと、入管庁は案の公表から2カ月弱という異例の速さで制度改正に動いたと分析した。
新規申請が約96%減少 起業の現実とかけ離れた審査
その上で湯田氏は、改正後の影響として、まず新規申請の激減を挙げた。内閣官房の報告として、在留資格認定証明書交付申請の件数は月平均約1700件から約70件へと、約96%減少したと説明。自身の事務所でも、改正前の半年間で25件あった申請が改正後は2件に減った一方、既存ビザ保有者からの更新に関する相談は急増しているという。
さらに、審査の長期化と厳格化も進んでいるとした。特に事業計画の実現可能性については、取引先との詳細な契約書など、事業開始前の段階でビジネスが高い確度で成立することを示さなければ許可が難しくなっているという。湯田氏は「起業には本来、不確実性が伴う」と述べ、現在の審査実務と起業の現実との間に大きなギャップが生じていると指摘した。
既存の経営管理ビザ保有者にも不安が広がっている。湯田氏は、3年以内に資本金を3000万円まで積み上げることは小規模事業者にとって極めて困難であり、黒字経営を続けていても内部留保だけで達成するのは容易ではないと説明。何年も日本で誠実に事業を続け、納税してきた外国人経営者のなかにも、会社を畳むことを検討し始めている人がいると明かした。
既存ビザには3年間の経過措置 更新基準の明確化を要請
ただし湯田氏は、既存の経営管理ビザ保有者については3年間の経過措置が設けられており、現時点で新要件を満たしていないからといって直ちに更新が不許可になるわけではないとも強調した。不許可となる場合は、自ら経営活動を行っていない、債務超過にもかかわらず改善計画を示していないなど、別の問題があるケースが考えられるとして、「法律に沿ってきちんと活動している人は、正しい情報に基づいて更新の準備を進めてほしい」と呼びかけた。
そのうえで湯田氏は、入管庁のガイドラインにある救済的な注釈規定の運用基準を早期に明確化するよう求めた。同規定では、3年後に新要件を満たしていない場合でも、経営状況が良好で、納税義務を適切に履行し、次回更新時までに要件を満たす見込みがある場合には、在留状況を総合的に考慮して判断するとされている。湯田氏は「何が経営状況が良好と評価されるのか、何があれば次回更新までに要件を満たす見込みがあると判断されるのかが明確になれば、不安の中にいる経営者が事業を畳むのではなく、猶予期間後の更新に向けて適切な準備に動ける」と述べた。
外国人経営者への配慮不足、日本への信頼低下を懸念
質疑応答では、今回の改正が日本の国際的イメージに与える影響についても質問が出た。打越氏は、制度改正が国会審議を経ない省令改正で行われ、パブリックコメント後の再検討も十分になされなかったと指摘。地域で親しまれてきた料理店や小規模事業を営む外国人、その周囲の地域社会への影響を顧みていないとして、「日本の国のイメージにも悪い印象を与えるのではないか」と懸念を示した。
湯田氏も、経営実態のない事案を減らす政策として一定の評価はできるとしつつ、これまで日本の制度を信頼し、法令を守って真面目に事業を行ってきた外国人とその家族への配慮が不十分だと指摘した。予測可能性を欠く入管政策は、日本の制度への信頼を損ない、結果として日本の魅力を失わせる可能性があるとの見方を示した。
資本金と雇用要件が高い壁に 透明で予測可能な運用を
また、資本金3000万円に加え、常勤職員1人以上の雇用を義務づける新要件について、打越氏は「非常に大きなハードルを課した」と述べた。国会審議でも十分に論点化されておらず、どのような根拠で盛り込まれたのか理解しがたいとし、日本人の中小零細企業でも同様の条件下で経営している例がどれほどあるのか疑問だと批判した。
今回の改正は、悪用対策と外国人起業家の受け入れという二つの政策目的のはざまで、日本の入管行政がどこまで透明性と予測可能性を確保できるかを問うものとなっている。会見で両氏は、制度の濫用を防ぐ必要性を認めつつも、誠実に事業を続けてきた外国人経営者を一律に追い詰めない運用が不可欠だと訴えた。